踊る顔



お話を聞かせてくださったAさんが

ママ友である藤子(仮名)さんの娘のお葬式に参加した時のお話。


藤子さんの娘はとてつもない美少女だった。

すれ違う人達が男女問わず振り返ってしまうほどだ。


Aさんが言うには、

顔立ちが整っている以上の不思議な魅力、

いわゆる魔性のオーラのような、どこか惹かれてやまない何かをまとっていたそうだ。


生前は雑誌の読者モデルのようなことをしていて、その人気は高く、文化祭になれば他校からファンの子が訪れていたという。




高校は2年生にあがったばかりの時、

彼女は突然道で倒れて帰らぬ人となった。


原因は心臓発作と言われたが、

もとより健康状態に問題はない子だったので、

死因を聞いても釈然としなかった。



自分の娘はべったりなほど

仲がよかったということもあり、

親子でお葬式に参列することになった。



死化粧が施されたその娘はまた一段と美しく、

心臓発作の苦しみを感じてはいないような穏やかな顔であった。


Aさんは泣きじゃくる子供を必死になだめながら、寝てるみたいだな、と思ったそうだ。



本葬の日、お坊さんが読経を終えた後、

司会の

「このまま棺の蓋をとじさせていただきます。

最後の顔合わせです。どうかお顔を見てあげてください。」という声掛けで皆続々と顔を見に行った。


喪主である藤子さんの旦那さんが白い布を剥がした時、「ぎゃあ!」という悲鳴が上がった。


発狂しているのは藤子さんで、旦那さんは彼女を落ち着かせようとするが、彼自身も体が震えていた。


何事かとAさんが近寄り、

藤子さんを抱き寄せながら、ちらっと棺桶の窓を覗いた。


そして、目を見開いた。


死化粧が施された美しい顔がどこにもなく、

そこだけ穴が空いたように、

凹凸がない顔が真っ黒な何かに覆われていた。



「ああ、見て!」

女性の悲鳴のような甲高い声で皆が顔を上げると、なんと、藤子さんの娘の顔が宙に浮かんでいた。




目は虚ろでどこかを見つめていて、

口はパクパクと動いている。


その顔は踊りを踊るのと同じ具合で、

しばらく、くるくる回ったり上下したりしていたが、人々が叫んだり絶句する混乱の中、ふっと消えた。




その場にいる全員が唖然として何も出来ずにいると、お坊さんが静かに棺に近寄って、

「戻ってますよ。」と言った。



お坊さんの言葉通り、娘の顔は元通りだった。


だが、Aさんを含めた参列者は、

その場では言わなかったものの、

あれだけ魅力を感じた藤子さんの娘の顔に、何も感じなくなっていたそうだ。




大勢の人間が目撃した

顔が宙を舞う光景。



葬式からだいぶ日がたってから、

Aさんはある事が気になってしょうがないという。



それは、あの時「ああ、見て!」と言ったのは誰だったのか、ということ。


その声は藤子さんでも、自分の娘のものでもない、誰のものとも違っていたのだ。



その場は葬式ということで悲鳴にも聞こえた

甲高い声は、よくよく思い返せば

女性の歓喜する声としか思えない。



踊っていたのは藤子さんの娘か

それとも…



Aさんはその事を考える度、

ぞくっと寒気を覚えるそうだ。




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