かぼちゃが苦手

女子大生の松下(仮)さんはかぼちゃが食べられない。

味が苦手なのか聞くと、そうではなくて…と言葉を濁す。



「信じてもらえないと思うんだけど…。」


苦虫を食い潰したような顔で、

かぼちゃが食べられなくなった理由を教えてくれた。



彼女が高校生だった頃。


バイト終わりで、だいぶ遅い時間に家の近所を歩いていた。


そろそろ家が近いというところで、

足を止めた。


そこにあったのは何もない空き地。

かつて緑だったであろう芝は、黄色く枯れて地面はごましおみたいにところどころはげている。



(こんな場所あったっけ…)


ぼんやり見つめていると、空き地の真ん中に

何かが落ちているのを見つけた。



誰かの落し物か、不審物か。

だとしてもなぜ真ん中にあるのか…

体は疲れて帰りたがっているのに

その何かが気になって仕方なく、その場から動く気になれなかった。



近づくのは怖くて、ただじっと見つめていたその時。


それがぐるんっとこちらに回転し、松下さんは絶句した。



こちらを向いたそれは、真緑色に変色した男の頭。


口はぼかっと開いて舌がだらりと出ていて、

白目をむいている。


眼球がぴくぴくと痙攣したかと思うと、

ごろんと落ちた。


顔にあいた二つの穴からは、ウジ虫がはい出て、ぼとっぼとっと地面に落ちた。



そのあとのことはよく覚えていないが

気がついたら家のベッドで寝ていた。



翌朝、その空き地があった場所の前を通ったが、

なんとそこにあったのは古びた家で、

家の前にはベタベタと黄色い立ち入り禁止のテープがはられていたそうだ。




「なんだったのか、分からないんだけどね。

ああ、その数日後だったかな。

お母さんが台所でかぼちゃを切ってたの。

まな板の上に置かれた

所々傷がある緑色のかぼちゃに

ズドンって包丁が入って真っ二つになって。

びっしり種が詰まったかぼちゃの断面が

ちらっと見えたんだよね。

それ以来、かぼちゃ、食べられなくなったんだ。」



松下さんはそう言って、力なく笑った。

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