戦中八話 さいごの夏の少年少女たち・・・とオッサン 第1話
1188年7月某日
(これを『つまらない仕事』と言ってしまっていいんだろうか?)
既に東西で戦争が始まっているので誰も目玉選手が出てくる筈がない実質的に最後となるエドナ杯。
女皇アリョーネが「どうしても観戦する」というので、ビルビット・ミラー少佐はやむを得ず「一応チェックだけしておく」という体裁で観覧席にいた。
しかし、陛下本人は“来ない”。
国民の一大娯楽たるエドナ杯に、騎士手合い見物(じゃなくてホントは騎士手合い)が大好きかつ、コッソリ大金賭けていると噂されるアリョーネ陛下が来ていないということになると、国民たちへの説明が面倒になる。
“来ている体裁”にするため、わざわざ予選開始日当日からアリョーネ陛下の影武者オリビア・スレイマン夫人とアルゴ・スレイマン少佐が来ていて、その護衛役としてビルビット・ミラー少佐とティリンス(は紫苑の護衛でバスランに赴任しているのでアルセニア)・オーガスタ少佐が来ていた。
東西の戦場でどんな不測の事態が起きるか分からないのに、大事なナダルや《対の怪物たち》が中央たるパルムを離れられるわけがない。
あるいは傭兵騎士団エルミタージュがゼダの二つの主要騎士団を愚弄する目的で、超本命級の騎士を送り込んできている可能性もないではない。
(だけどハズレもハズレの大ハズレだろうな。伯爵も来ているけどあの様子じゃなぁ)
この大会終了のすぐ後にディーンの招聘を受けるライゼル・ヴァンフォート伯爵が貴賓席に居たが、あからさまにやる気無さそうにしている。
コッチはコッチでゼダ国内が内政的に非常にマズいことになっているので「それどころではない」のに、やっぱり来ていないと格好がつかないので元老院議会の休会期間中だからと、ほぼ無理矢理呼ばれていた。
もはや女皇騎士団にスカウト枠はない。
正騎士枠は表向きすべて埋まっていて、その関係者ほぼ全員がパルムと東西の戦場に散っていた。
そもそもシルバニア教導団自体が役目を終えていて、超特例級の騎士でも出てくればアルベオ・スターム学院長がその本来の役目を曲げてでも手ずから鍛えるだろうが、既にティリンスが耀紫苑の護衛でバスラン入りしていて、“監督役”のアルセニアもエベロンに居ないのにあまり物騒なヤツも雇い入れられない。
むしろそんなのが居てくれたら『剣皇ディーン』が鬼軍曹となったルイスに任せて投入戦力に仕立て上げる。
ティニーの不在を気取られぬよう女皇正騎士ティリンス・オーガスタ役のアニーは、ビルビットの隣の席でマルガ名産のストロベリージュースを旨そうに飲んでいた。
(それこそディーンとルイスが弟子に取ったと聞いてる二人のうちどっちか寄越してくれたら面白い大会になったんだろうケドさ)
それも、あくまで特記6号の情報統制に引っ掛からない程度にビルビットとアルセニアはアリョーネ陛下を通じて聞いてただけだ。
もっともフリオ・ラースは“諸般の事情”で居たら面倒なことになったし、龍虫のベリア侵攻がなければ、作法に則って名前を偽って参加していた筈のミィ・リッテも“参加させられなかった”。
それこそ本選大会でミィにいまだ名無しの大技たる《月光菩薩》なんか使われたら、シャレにならない悪質なテロ事件になってしまう。
ミィとフリオの二人は今まさに前大会の真の優勝者たるルイスにバスラン要塞近郊で、猛特訓か荒行と言えるほどハードに鍛えられていた。
大会出場予定者リストはビリーとアニーが逐一チェックしたが、気になったのはフィン・フォーマルハウトぐらいだった。
リリアン・クレンティエンは残念ながらその母親の才能の片鱗をちょっとだけ覗かせる程度で、既に国家騎士団に入っている。(既に南部方面軍からバスラン入り)
仮に出場していてもギリギリ本戦出場どまりだ。
フィン・フォーマルハウトは年齢が30過ぎと参加者としてはギリギリの年齢だ。
それ以上に「おいおいおい」だったのは既に国家騎士団の少佐である彼が「わざわざ名前も偽って参加している」ことだ。
(なんのつもりなんだか)とビリーは思ったし、よく副総帥のトゥドゥール・カロリファル公爵が、諸般の事情を知った上で許したものだとも思っている。
まあ、彼の家の事情は複雑だし、大方そのあたりの事情が関係しているのだとは思ったが、大会優勝出来るほどの逸材かというとそうでもない。
もともと国家騎士団内でも“あの少佐”は指揮官枠の人物だったし、義理の親兄妹は国家騎士団の現役幹部で東の戦場に在陣していた。
「ビリー、つまんねー大会になりそうだよなぁ」
いつの間にか一般席側に来ていたライゼル伯爵にビリーもタメ息をついた。
「前回大会が“色々な意味で”面白すぎましたからねぇ」
なにしろ新旧の剣皇(ディーンとファーン=メディーナ)が二人も参加していたし、幼馴染みの二人が直接相見えることすらなかった前代未聞の大会だった。
それこそ準優勝に終わったアリオンも剣聖という《氷の貴公子》だったし、真の優勝者たるルイスに到っては《神速の剣聖》で《紋章騎士》だった。
せめて、当時14歳だったシモン・ラファール現大佐と同い年のビルビット・ミラー現少佐とが、決勝戦で相見えた10年前の大会ぐらいに盛り上げてくれる若くて強い騎士が出場していたなら、まだ面白い大会になったとライゼル伯爵は思っている筈だ。
「エルミタージュが揶揄目的で誰か寄越してくれていたなら、戦闘分析のために役立てられますがねぇ」
「そうだとわかってて寄越す筈もないわな。公称『史上最高の手合い評論家』と、この大会の開催そのものに関与しているもう一人の『騎士手合い分析家』がいるトコに、重要戦力として期待してる騎士を放り込んでくるわけもない」
二人揃ってボヤいた後で顔を見合わせて「たはは」と力無く笑い合う。
万事がそんな調子で決勝戦までの開催期間が終わってしまいそうだった。
しかし実際に始まってみるとそれなりに面白い試合が続いた。
フィン・フォーマルハウトはよく鍛えてきていて、至極あっさりと本戦トーナメント出場を勝ち取った。
「やりますね、あの方も」
「いや、相当本格的に鍛えてきたんだろ」
あまりにもつまらない大会になりそうなので、それこそ東西の戦場に居る筈の連中がコッソリ参加していても、正確な分析やら評論が出来る二人とそれに準ずるアニーとが三人並んで見物していた。
そして看過出来ない一人がナイショで参戦していたことを確認して、三人はあんぐりと口を開けた。
本戦出場を決める勝ち名乗りを受けて、観衆に目一杯に愛想を振りまいている女性騎士。
試合中に一瞬消えたように見えたのは天技の《陽炎》だ。
「ちょっ、聞いてないデス」とアニー。
「嘘だろおいっ!」とビリー。
「誰だアノ、マリアン女官頭にそっくりなの?」とライゼル伯爵。
貴賓席に居るアノ二人も聞いてなかったのだろう。
ニセ女皇陛下と熊オジサンが確認のために立ち上がっている。
いや時世柄その行為は前回大会決勝時のグエン室長みたいなことになりかねず、とても危ないが無理もない話だった。
「エレーニャ・スライムってどういうつもりだ」
うっかり出場者名簿を見逃したビルビット・ミラー少佐が泡を食う。
「アレってエベロンにいる筈のエレナちゃんだよね、どこからどう見ても」とアルセニアさん。
「えっ、実は若作りしたマリアンじゃないの?」
女官頭マリアン・ラムジーはとうにパルムを去っていたがライゼルは知らない。
そして、女官修行のためエベロン女学院にいる筈のエレナ・スレイマンが、どうして此処にいるのかはビリーとアニーにも分からない。
「よくあのアルベオ爺様がユルしたなぁ」とミラー少佐は言うが、大方、アルベオ学院長は許可してなどいない。
女学院の夏期休暇期間中を利用して「実家に戻る」と嘘ついて勝手に参加したのだ。
マサカの女皇陛下代行のオリビア夫人とその夫アルゴの第二子たるエレナ・スレイマンが年齢を詐称して参加していた。
そんな面白いハナシを聞いたらパルムにいるホンモノが乗り込んできそうだった。
しかも使用していた真戦兵をよぉく見たら、手の込んだ改修を施されたカナリィだった。
なんと都合15年に及ぶ三大会連続出場となったラファール家所有の真戦兵カナリィ。
だとしたら《対の怪物》の片割れが“この珍事”に関与しているのは明白だ。
女皇騎士団関係者の想定外の事態に、アノ女子爵が一枚噛んでいるという意味だ。
「スライムはないわ。そんなガキんちょ発想の妙ちくりんな姓じゃ偽名だとバレバレ。っていうか、“仕込んだ本人”がアタシたちがいつ気づくかと笑いながら仕込んだんだ」とアルセニアが言い。
「うわぁ、そうきたか。アノ二人が面白くなさそうな大会に“派遣させられている”俺たちを驚かせるために“仕込んだ”なら頷けるハナシです」とビルビットが言う。
ナノ・マシン操作で見た目だけ10代後半に“見せていた”らしいが、それと分かるのは観衆たちとライゼル伯爵だけだ。
ナダル・ラシールのナノ・マシンによる変装をも見破れるビリーとアニーは、それとわかる“10歳のちびっこ騎士”が堂々と勝ち名乗りをあげているのに卒倒しそうになった。
大会出場規定により出場最低年齢は14歳となっており、それ故に前々回大会の最年少優勝記録保持者がシモン・ラファールで、準優勝者も最年少記録保持者のビルビット・ミラーだった。
そうした事情も相まってシモンは本来なら20歳を超えていないとなれない国家騎士団の佐官に特例措置でなれた。
24歳にして大佐というのもやはり最年少記録だし、東征の働き次第で准将に昇進する可能性が高く、既に緒戦のオラトリエス電撃攻略作戦成功の立役者として准将昇進はほぼ決まっているが軍令部がまだ認めていないだけだった。
一方、ビルビット・ミラーは大会後にシルバニア教導団入りして4年後に18歳で女皇正騎士少佐相当官になっている。
その時にはシモン・ラファールは中佐に昇進していた。
実はそちらに関しては国家騎士団が女皇騎士団に対して競争心を剥き出しにした結果であり、同い年の二人が仲良く少佐で良かったものを訓練期間と軍務経験を一緒にされるのはナンセンスだからとお手盛り昇進させたのだった。
「さすがは両親が両親なだけにハンパないわ」
「いっ、アルゴとオリビアってそんなに強くは・・・」とそのあたりの事情をまったく知らないライゼル・ヴァンフォート伯爵は怪訝なカオをしたのだが、ビルビットとアルセニアはよぉく知っていた。
「いえいえ、あの子のバアイ、お父さんがヘビ皇子ふくしれーで、お母さんがマリアンですから」
そりゃ10代後半に容姿変化させたら、母親に似ているわけだ。
早い話、マリアン・ラムジーはトリエルとの第二子と第三子をコッソリ産んでいて、別に子供が何人居てもおかしくない関係者の許に養子に出されていた。
それがエレナとニコの二人だ。
つまり、長女たるマーニャ・スレイマンだけはアルゴとオリビアの実の子供で間違いないが、その妹たちは皇弟トリエルのムスメたちだった。
「はいっ?」
皇室政治顧問のライゼル伯爵すら知らなかった。
誕生当時の皇室吟味役たるトワント・エクセイル公爵が采配したのであろうし、さぞや頭が痛かったに違いない。
女皇騎士団副司令で『剣皇ディーン』の片翼たるトリエル・メイル皇子と元マルゴー王室ルジェンテ家のジョセフィン王女の第二子がエレナの本当の素性だ。
そりゃ、強くて当たり前だ。
そもそも伯父さん(カール)と従兄弟(ディーン)が剣皇なのだ。
その両親が片や無手格闘術を極めた「剣皇代行」で片や「隠密機動かつエンプレスガード」だった。
ゼダ西部での実情に関して、この時点ではなんにも知らない三人は、西で頑張っているエレナの実の両親たちもこのことはまったく知らないだろうし、知ったら目眩がするだろうと察した。
この時点では後に「ベリアの悪魔」の異名とるライゼル伯爵は、西での事情についてとんと疎い。
「騎士なんて血統と才能がその半分だというけどさ」
「大体、シモンもルイスも大会出場当時の身長が180cmくらいあったから大型操縦ルームのカナリィを扱えたんだし、変装しても体格が合うわけが・・・」
ナノ・マシンで見た目をいくら改竄したところで、騎士たちは体格体型がそれぞれ異なるし、シモン・ラファール大佐もルイス・ラファールも騎士としては割と大柄な方だった。
つまり普通に考えたらフットペダルまで足が届くわけがない。
「紫苑だ」というアルセニア・オーガスタの指摘に、ビルビット・ミラー少佐とライゼル・ヴァンフォート伯爵は声を揃えた。
「いっ?」
「いや、ちゃんと操縦席まで“お子様仕様”に改修されてマスがな。ウチのメンテナンサーが悉く西に出払ってて、時期的に出来たのは紫苑か、ハルファの犀辰先代以外にいませんて」
そして、前回大会で精神的ダメージの大きい耀犀辰がこんなのに加担するわけなかったし、大会運営委員会のメンテナンサー(国家騎士団から派遣される)がよく気づかなかったものだ。
双眼鏡を片手にしたアルセニアが指摘するので、ライゼルとビリーは必死に目を凝らした。
騎士覚醒した耀紫苑は相当見境がなくなっている。
実際、見境などなく、バスランで湯水の如く軍資金を使ってトンデモ機体を嬉々として作り続けていた。
護衛役のティリンス・オーガスタがスカーレット・ダーイン2番機を愛用していたので、いずれはビルビット・ミラー少佐とアルセニア・オーガスタは量産型エリシオンのうち、フリカッセ二機をあてがわれて、人類絶対防衛戦線に参戦することになる。
二人とも東部戦線参戦時はパルムでも実機として使っていたファング・ダーイン改だった。
騎士覚醒した耀紫苑はバスラン派遣前の数日という突貫工事で、マリアンから発注されていた風神丸と雷神丸という二機のシャドー・ダーインと
その合間にラファール家個人所有のカナリィを“お子様仕様”に改修するなどお手のものだったのだろう。
そうなると一体誰が成長期の子供の背丈に合わせた機体改修を紫苑に命じられたかだ。
既にパルムを留守にしているトリエル副司令ではないし、留守がちのハニバル司令である筈がないし、司令代行のグエン・ラシール調査室長でもない。
つまり、女皇正騎士人形番に命令が可能な人間はこの世にたった一人(でなく、制度的に紋章騎士のルイスにも可能だがそれはない)しかいない。
「へーかだ」とビリー。
「無茶苦茶するなアリョーネお嬢は」とライゼル伯。
「考えてみたらエレナも陛下の可愛い姪っ子でしたわ」
その指摘をしたアルセニアもライゼル伯爵とミラー少佐もゾゾゾと血の気が引く。
そもそもエレナはトリエルのムスメなのだから、つまりはトリエルの実姉アリョーネ女皇陛下からしたらエレナも姪っ子だった。
「ゼッタイ、アタシらに対する嫌がらせだ」とアニーさんはぶんむくれる。
「観覧席でつまんねーとボヤいてるであろう、俺たちの心理までお嬢は読んでいたの?」と放心したライゼル伯爵。
「本人がああも喜んでなかったら、単なる児童虐待デス」とミラー少佐もげきおこしていた。
もともと児童虐待の前科前歴がある《対の怪物たち》だった。
その最大の被害者だったディーンは三人が実情を知らないだけで、この頃はトレドで一人黙々と頑張っていた。
いや、龍虫との戦闘中も目一杯にボヤいてましたがね。
児童ではなかったが、より以上の虐待被害者だったというクシャナド・ファルケン放浪子爵は、三人が知らないだけで単身で暗黒大陸偵察任務に赴いている。
「ひでぇことするな」とライゼル伯は頭を抱えたし、「ああ、ヤナ予感してきた」とビルビット・ミラー少佐が嘆く。
ヤナ予感が100%当たる“フィンツ・スターム少佐”ほどではないが、ミラー少佐のヤナ予感だって結構な確率で当たる。
「えーと、アト他に誰がいたっけ?ミロア留学中のテリーの甥っ子さんだって血統的にはエレナと同レベルの筈で・・・」
アルセニア・オーガスタはド忘れしたオラトリエス王太子としてミロア留学中のシャルルの息子の名を思い出そうとして、脳内情報をまさぐっていて、ある貴婦人に気づいた。
「いたっ」
「えっ?」
本人じゃなくてその関係者と思しき人物がわりと近くの観覧席にちゃっかりと居た。
ニコニコしながらエレナに拍手している妙齢の貴婦人。
アレは間違いなく《ブリュンヒルデ》担当のミュイエ妃だった。
「そっかぁ、あの人からしてもエレナは姪っ子だった」
よく考えたらエレナはとんでもねー素性だ。
二親等以内は悉く“怪物”ばっかりだ。
ミロア守護任務ほっぽらかしてミュイエ・ルジェンテが居るというコトはその息子も大会出場者?
「お子ちゃまエレナと『剣皇カール』のムスコたるオラトリエス王太子リシャール殿下が偽名で出場していたら、間違いなく前回大会並のヤバい大会になりますがなっ」
ビルビットの指摘にアルセニアは「それだっ」となる。
「俺、胃が痛くなってきた」
胃よりも先に頭の方が痛かったが、ライゼル伯爵は精一杯自制していた。
どんな試合を見せられようがそれなりの論評にせねばならない。
そうでないと格好がつかないし、せっかく宿代とチケット代を提供し、伯爵の論評を記事にする報道機関も納得しない。
「伯爵が完全に油断していたとなると、アタシらもちゃんと試合見てないと怖いコトになりますって」
本音ではどうでもいいが、建前としては“道楽”で来ているライゼル伯爵はともかく、“公務”として来ているビルビット・ミラー少佐とアルセニア・オーガスタ少佐は、大会期間終了後にオリビア夫人と熊おじさん共々に、アリョーネ女皇陛下に視察報告をしなければならないのだ。
当のアリョーネ陛下ときたら、“公的には居ない”のをいいことに、パルムで社会風刺の劇場鑑賞しまくりで、前の方の席に座してマギー姐さんと一緒にゲーラゲラ笑っているだろう。
そして、なにかを見逃したりしていたらニヤニヤと悦に入る女皇陛下に冷笑される。
「うわぁ、前回大会だって期間中には色々ありましたんで、コッチは散々だったんですよ」
「どういうこと?ミラー少佐」
ライゼル伯爵が見ていたのは観衆と同じ内容だったので、試合そのものの内容としては何もトラブルがなかったように観戦していた。
それこそ準決勝でのルイス対ベルカも、決勝戦の“ルイス”対アリオンもだ。
「まずベルカ・トライン選手のジェッタの組み上げが遅れに遅れていて、犀辰先代が疲労困憊で組み上げていた作業を俺とテリー先輩はヒヤヒヤしながら見ていましたし、ギリっギリ間に合ったものの、ベルカ・トラインは予選終わるたんびに調整してましたし、大会終了後に見事にぶっ壊れました」
「まさかソレ、決勝戦で無茶な大技を使ったせいじゃ・・・」
《紅孔雀・極》は真戦兵への負担が大きい。
搭乗者が乗り込んでナノ・マシン操作しているうちはどうにか原型を保っていたが、降りた途端にアチコチがたがきた。
そして、バルハラに搬入した途端にものの見事に全壊したので、前回大会優勝機体はもうこの世に存在していなかった。
「犀辰先代がソレで病みましたわ。ほぼ完成機のトリケロスとスカーレットも裏準決勝でヒサンなことになり、トドメがそれでしたので」
「なんだその裏準決勝って?」とライゼルさんが怪訝顔。
「半覚醒ルイスとディーンの再戦デス。夜中にコッソリここに運び込んで一戦やらかしたのですよ。会場中に大量の松明並べて照明替わりにして」
「そんなの誰が審判やったんだ?」
ライゼルの言う通り、並の審判なら巻き添えで死んでおり、よっぽどの命知らずにしか出来ない。
それこそ「ビルビットじゃないのかよっ!」だった。
「主審はアランハス卿。そもそもアノ人が面白がってそんな機会もう二度とないだろうから、後先考えずにやっちゃえと言いだして」
「はぁ?なんなのそれっ」とアルセニアまでビックリ仰天。
「しかも、観覧席じゃへーかがテリー先輩と兄妹仲良く身を乗り出して見物」
「それじゃ許可だしたのお嬢か?」
「だから、暗殺計画阻止と国民お披露目のために、わざわざテリー先輩が極秘に運び入れたというのに、暗殺対象のシトが後先考えずにそういう無茶な命令を」
ライゼル・ヴァンフォートはアノ非常識な二人ならやりかねんと冷や汗を垂らした。
真戦兵なんかなくても《陽炎》使いのアランハスがいるならなんにも問題ない。
「しかし、トリケロスにディーンが乗ったら、スカーレットのルイスといえどそうそう勝てないだろっ」
それこそ準決勝でベルカの見せた《虎砲》は、トリケロス・ダーインのような重装タイプでこそ威力を発揮する。
「いや、正に天技連発祭りでしたから」
「えっ?」とライゼルとアニーがギョっとなるのを、ミラーはんだんだと頷いている。
「わかったのでおのおの見たのも含めて10個くらいかなぁ。ルイスの動きが途中から速くなりすぎて、夜間もあって目では追えなかったし、ディーンも応戦速度は本気モードでしたから、垂直攻撃なら誰にも迷惑かかんないと《勿忘草》とか繰り出してるのに、ルイスはスカーレットだったら実戦機だからって平気でかわすし、速度対重量、ナノ・マシンの内燃加速と外部干渉対決みたいになってましたわ」
「はぁ?」というか天技に一番詳しい筈のビルビット・ミラーがわかったのは10個ずつとか言うのに、ライゼルは(なにをどんだけ繰り出したんだ・・・)となる。
「あのときほど“隣に伯爵がいてくれないかなぁ”と思ったことはないです。なにしろまだ名前がない天技だと思われる技が矢継ぎ早に山ほど繰り出されていましたから」
「なんてこったい」とライゼルが驚き呆れる。
前回大会は愛妻メリッサ抜きの子連れで来ていたライゼルは、幼い息子たちへの責任から夜は外出出来なかったし、もともと新聞社共同の要請で子供たちの分まで宿やらチケットまで用意して貰っていた貧乏伯爵だ。
昨今は何処も物価高で経済的にヤバくなっているので、新聞社にも悪いと今大会はせがまれたのに息子たちを連れてきていない。
「やるなら声かけてくれたって良かったのにさ」
「いや、皇国の金庫番が見たら“開発に大金はたいた次期主力機になにさせとんじゃ”と怒るってへーかが」
「ぐはっ」
まさに一番見たかった試合は、ライゼルが“締まり屋サン”だから見せて貰えなかったというわけだ。
しかし、見たら見たで全部の技に名付けないといけないというのはシャレですまない。
そして結局のところ後々に小出しに見るハメになった。
「・・・で結局どっちが勝ったのよ?」と一番肝心なトコをアルセニアは抜け目なく聞く。
「そんなのルイスに決まってマスがな。ナノ・マシンの内燃加速術が《神速》になっちゃってたし、途中からスカーレットがボァっと光り出してて、地に足がついてないみたいになってるんで、ディーンの《影縫い》も不発に。更に浮いてるみたいなところから片手槍で《十六夜》より速い高速連射突きとか繰り出されたら、《浜千鳥》回避のトリケロスの装甲もボロボロになりまして、《百舌》で足を止められたところに、居合いからの《破断》一閃ですからね。しかも、仕返しで《烈火》はコツンと当てた程度デス」
《影縫い》はナノ・マシン外部操作で足を絡め取る天技で、《百舌》は脚部を手持ち武器で串刺しにする天技だ。
そして、《破断》は下段から突き上げる《浮舟》と中断突きの《烈火》のコンビネーション天技で、“ルイスのお母さん”の得意技だが、居合いから繰り出すのはライゼルもまだ見ていない。
高速連射突きが後に《千手観音》とルイスが勝手に命名してたのを“ライザーさん”が追認した絶技だった。
しかも、準決勝でディーンに倒れたところにコンコンとやられた屈辱を、裏準決勝では《烈火》をコツンで倍返ししたようだ。
試合終了時には“究極のリベンジャー”たるルイスさんに「勝負ありっ!」と宣言したアランハス卿以外は全員固まっていた。
特に悪ふざけが過ぎたアリョーネ陛下がトラウマレベルで青くなっていて、トリエルも見たこともないほどヘンな顔をしているのをビルビットはジトっと三白眼で見たというわけだった。
しかもそのあと、スカーレットから飛び降りたルイスはトリケロスの操縦席で失神していたディーンを「ベルカさまぁ」と黄色い乙女の声で叫ぶや、引き摺りだして抱え上げた上でまんまと拉致った。
ルイスさんがナノ・マシンの減速操作を怠ったせいでスカーレット・ダーインは形状を維持出来ずに、そのまんま燃えカスのように灰(ナノ粒子)になったし、翌早朝にボロ雑巾のようなトリケロスと何処にも見当たらないスカーレットに耀犀辰サンが文字通り灰になったのだ。
男一人抱えて走ってるというのに、あんまり速すぎて反応の遅れた“アランハスまで巻かれた”。
そうしてマルガの街でディーンとルイスは丸一日以上失踪した。
そしたら翌々日の昼過ぎだとか待ち合わせ時間に大幅に遅れ、体中にキスマークつけたディーンが、トリエルとビルビットの前にすっかり精気を抜き取られた幽霊みたいになって現れたので、テリー先輩とビリーは「皆までいうな、あとはオジさんに任せろ」、「あと一戦大丈夫だよね?」となったのだ。
さすがにルイスさんも精神的に安定したら、自分の暴挙を思い出して赤面モノだろうと思って《真・鏡像残影》で、ビルビットは二人の認知を書き換え、「あるならまたの機会まで」に「失踪していた間にあったことをなかったこと」にした。
そして、決勝戦終了後更にトリエル副司令の指示で「ディーンが告ってルイスがフッた」ことに認知記憶を書き換えたのだが、ディーンはフラれてても筋を通そうとエイブ・ラファール准将を通じてルイスとその家族たちへ婚約を申し入れたが、一向に返事はなく5年も経ってから、ルイス本人からOKだという返事を貰ったのだ。
ソレがディーンせんせことベルカの一夏の苦すぎる思い出だ。
今年の4月末にビルビットがナダっちからディーンとルイスが結婚したのだと聞いた時には、緊急特務従事でディーンこと「フィンツ・スターム少佐」の姿が騎士詰め所になく、お祝いの言葉を言い損ねて「アレっ、ひょっとして・・・」と思ったのだが、特記6号条項による情報統制で、ディーン本人から直接話を聞けなかった。
だが、裏準決勝を見たあとだというのにビルビット・ミラー少佐はつい失念していたが、ルイスさんは「究極のリベンジャー」だったし、ディーンまで仕返しを企んでいた。
そして、ビルビット・ミラーには少しも悪意がないことを知っていたテリー先輩は、ほとぼり冷ましの時間稼ぎのために先に自分が出向いて、なんとか二人を言いくるめようとしたものの、西の戦況が思った以上に悪かったせいで、そんな話をすっかり忘れていた。
そして、時限爆弾がセット済みのビリーとアニーにはいずれ天罰として悲劇が訪れるのだ。
「な、な、なんつー、肉食系」と、拉致話と失踪後の内容を具体的に想像したまだ乙女のアルセニアさんは顔を真っ赤にした。
(あー、アニーは同類じゃないヒトだったか)とビルビット・ミラーは若干安心した。
ビルビット・ミラー少佐はヒドい目に遭ったナダっち本人から酒の席で「教官たちから性的虐待“だけ”はされていない」(が、デリカシーのない二人のハダカはちゃっかり見ていた)とは聞いていたので、破壊王シスターズもそこまで節操なくはないとは思った。
ビルビットも訓練生時代からこっち、いきなり押し倒されたりするとかはなかったので、そこは大丈夫だろうと思ったが、ナダっちにはもっと節度のない女皇家モンスター女子が、文字通りベッタリ唾つけて童貞喪失させていることを思い出して、本能的に危険察知したのカモと思い起こした。
なにしろナダっちの愛しのお姉さんときたら、超絶肉食ワンコ1ごうだ。
ライゼル・ヴァンフォート伯爵は二の句が継げずに、お地蔵さんになっていた。
倅のヨメってやっぱりアノ一族だわとなる。
堅物で大真面目な顔してエイブ・ラファール現准将は、7つも年下で当時15歳の少女と婚約し、迫られてやることヤッちゃったクチ(それで長男シモン大佐誕生)だし、どうもティリンス(本当はアルセニアね)・オーガスタ少佐の態度から察して、男前で軽薄そうに見えるビルビット・ミラー少佐は節度があるというか、頭の中はエキュイムと騎士戦闘解析しかない堅物(というわけでもなく、物凄く優柔不断で、将来のお相手を美人姉妹のどっちにするか決めかねていた)のようだけど、その親友だという父親似のシモン・ラファール大佐は、上官の娘でもあるラシーヌ・エリオネア中佐とは「懇ろな仲」だと聞いていたので「夜は狼になるヤツ」だと見做していた。
そおいうライゼル・ヴァンフォート伯爵だって「最初の妻」は18歳で妊娠させた(それが正にディーン)学生事実婚だったので他人のことはあまり言えない。
「まぁ、なんだなぁ、そうした諸々を考えあわせると、前回大会は猛烈に面白かったということなのかな?」と石化解除したライゼル伯爵が言うので、「そぉいう解釈が一番無難です」とビルビット・ミラーはハンカチで額の汗を拭きながら言った。
(ぜってー、そうじゃないって)とアルセニアにしては珍しく言葉にはしなかった。
翌日、ライザーさん、ビリー、アニーの三人は、またも並んで観戦していたら、今度は「シャール・レジェール」という聞いたことのない若くてゴッツい猪首の騎士が、本戦出場を勝ち取る場面に出くわした。
猪みたいな無骨な見た目に反し、見事なまでに洗練された技を駆使して、ヴェロームから借りてきたと見えるバーロッタで、やり過ぎない程度に対戦相手を倒していた。
「コイツだぁ!」とアルセニアが立ち上がる。
ゼッタイどっかで応援していると思ったら、昨日とおんなじ席でミュイエ王妃が立ち上がって拍手していたので、三人揃って「ヤッパリね」となる。
「俺、行ってくるわ」とライゼル・ヴァンフォート伯爵はメモとペンを手にして席を立った。
朝から伯爵はわざわざ筆記用具を持参していた。
「ありっ?伯爵が自ら取材でもすんの?」とアルセニアさんは怪訝なカオをしたが、事情通のビルビットが首を振る。
「ミュイエ妃はウェルリで家族と爆弾テロに遭って以来、聴覚障害者なんだよ。だから筆談しないとね」
しかし、どうにも嘘くさいなぁとアニーさんは感じていた。
お妃さんは他の観客たちの拍手が「聞こえて」いないと説明のつかない絶妙なタイミングで立ち上がっていた。
「あのひとってば《ブリュンヒルデ》担当だよね?」
《ブリュンヒルデ》とは超級の極秘戦力だ。
「そうだよ」とミラーはこともなげに、マルガ名産のストロベリージュースをグビリとやった。
昨日、アニーが飲んでいたのを「美味しそうだなぁ」と思っていたので売店で購入していた。
「ってことは間違いなく覚醒騎士だよね?だったら、ナノ・マシン操作で後天的な障害なら自分で治せるんじゃ?足をそっくり失うとかでなかったらさ」
「・・・・・・」
障害とはいえ、先天的だろうが覚醒騎士が聴覚機能を操作し、ビルビットが本人の「聞こえない」という思い込みを《真・鏡像残影》で半永久的に書き換えてやったら問題なく治る。
まぁもっともビルビット・ミラーの《真・鏡映残像》はそんなものがあると知られるだけで、絶対に悪用しているだろうと疑惑の目を向けられる。
「知らなかったことにしとこう」
ビリーさんはせっせと筆談しているライゼル伯爵とミュイエ妃に視線を向けつつ、(聞こえないフリしてた方が楽だし、ズル出来るな)とか考えていた。
その後の試合は《銀髪の悪鬼》サン本人に言わせたら「お子様同士のどつきあい」だったので、伯爵とオラトリエス王妃サマは試合そっちのけで延々と筆談している様子だった。
「他はあんまりスゴい子はやっぱり出てないねぇ」
アルセニアさんはシルバニア教導団の訓練教官だったから教え子たちはやっぱりエリートだったんだなぁとしみじみ振り返る。
やはり実力でナダっちは群を抜いていたが、他の子たちも並以上の腕前だ。
「まぁ、養成機関育ちでもない子のフツーはあんなもんでしょ。まだ予選ラウンドだしねぇ」
しかし、続いて出てきた選手の一人に試合開始前だというのにアルセニア・オーガスタとビルビット・ミラー少佐は本能的に危険察知した。
出場選手プロフィールを確認したアルセニアは「ヴァスイム・セベップ」という名に緊張を漲らせる。
「間違いない。エルミタージュの本国傭兵騎士だ」
ビルビット・ミラー少佐は東征妨害作戦で本家エルミタージュのセル騎士とは散々やり合っているので感覚でわかる。
「陛下のお命か?大会の破壊が目的か?あるいは・・・」
アルセニアは貴賓席のオリビアと一般席のミュイエを見比べる。
可能性として一番高いのがアリョーネ暗殺か、オラトリエス王太子リシャール・ルジェンテを公の場で排除することになる。
決勝ラウンドに入ると抽選会で予選ラウンドを勝ち上がった選手から対戦相手が決められることになるのだが、リシャールの実力なら準決勝あたりまで余裕で勝ち上がれる。
「奴等がマルガにまで潜入しているとなると、目的は揶揄や示威であってくれればいいが・・・」
アルセニアは化粧を直すフリをして手鏡を取り出し、貴賓席側にいるアルゴ・スレイマンにサインを送った。
アルゴが「了解」を意味するハンドサインで返答する。
「オリビア姐サンは名前で気付いているし、アルゴも今のではっきり確認した」
アルセニアは歯噛みした。
「せめて教導団の現役訓練生をエントリーさせておくべきだったか」
「いや、実戦まで戦っているエルミタージュの騎士なら訓練生程度は一蹴するだろう。出来ればまだ大会出場経験のないナダルを潜り込ませて《執行》させないといけない。アニー、他にはいないかもう一度リストを確認してくれ」
気が付くとやはり青い顔をしたライゼル伯爵が席に戻っていた。
筆談に使っていたメモ用紙の束をそのままビルビットの軍服ポケットにねじ入れる。
「確認は後にしてくれ。そして、内容は大至急でお嬢に電報しろっ!」
「!」
「それにハニバルが来ている。ビリー、アニーと話すフリをしてそのまま二列後ろの席を確認してみろ。ミュイエ王妃の警護役を誰も寄越していない筈はないとは思っていたが、マサカ、ベルヌから本命が来ているとは思っていなかった。それに“イライザ・サイフィール”も来ているらしい」
現在、ハニバル・トラベイヨはヴェロームに出張中という建前で公都ベルヌにて、エルビス・ヴェローム公王として執務中だった。
ベルヌをガラ空きにしてでもマルガを守りに来ていた。
それはつまりハニバル司令がエドナ杯が危ないと判断したことになる。
盗聴を警戒して電話連絡を避け、アルゴにもビルビットにも秘密で会場内に潜伏していた。
そして、女皇騎士イライザ・サイフィール。
議会認証を通していない影の女皇騎士だ。
ロレイン、タリアと続いたサイフィール侯爵家は現在は事実上誰もいない。
空白の侯爵家名跡が使われるというのはイセリア・ヴェロームにその必要が生じたという意味に他ならない。
ハニバルとイセリアの親娘が揃って会場内に待機している。
だが、やり取りすれば何処かにやはり隠れているエルミタージュブレインズに察知されかねない。
(そういうことかっ。自分より目立つミュイエ妃を見せ駒にして司令とイセリアの存在を消している)
他に女皇騎士団メンバーで競技会場周辺にいるのはマルガ空港に停泊中の旗艦ロード・ストーンのパベル・ラザフォード艦長だけだ。
しかし、試合会場に来ていないのはエウロペア各国から多数の観戦や視察、そして出場選手のサポートの為と様々な目的でマルガに来ている騎士団所属飛空戦艦に、どさくさで艦を奪われるリスクを防ぐためだ。
(万一に備えて搭載しているファング改を会場周辺に伏せておくか?)
ロード・ストーンにはビルビットとアルセニアのファング・ダーイン改が搭載されてはいたが、整備状況は芳しくない。
それというのもロード・ストーンの兼任メンテナンサーたちが引き受けることになっていて、腕利きのメンテナンサーたちは西のバスランか、ハルファの開発部に居た。
真戦兵専属整備士によるフルメンテナンスはしばらくやっていない。
限られた人員でやり繰りつけている女皇騎士団はやはり受け身になってしまう。
苦渋の表情を浮かべるビルビット・ミラーの眼前でヴァスイム・セベップ選手は、エルミタージュのセル構成員たちが多用する利き手側の長剣を囮としたダガー攻撃で一本取って勝利していた。
勿論、本命相手でもないので大会規定通りに、いずれも刃引きしていない武器にプラスニュウムカバーをつけているが、熟練騎士なら打突技はかえって攻撃力が増す。
(今のが俺達への宣戦布告かっ)
ビルビット・ミラー少佐の真価が今まさに問われていた。
己の名を冠した大会運営を正常に保つ。
暗闘への予感に武者震いしつつ、ビルビットは席を立っていた。
「小用に。アニーは引き続き警戒を厳にしてくれ」
《銀髪の悪鬼》ビルビット・ミラーが臨戦態勢に入っている様子に、ライゼルとアルセニアは思わず息を呑んでいた。
(中編に続く)
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