第143話 ブロンズ街到着
朝、いつもよりゆっくり起きた俺達は、軽く朝ごはんを食べ、次の街に出発した。
何度か休憩をはさみ、何事もなくその日の夕方、入門の列に並ぶことができたんだが、暗くなる前に入れるかどうかと言うところだ。
「ねえねえ、この街の次ってケントが楽しみにしていたドワーフがいる鉱山の鍛冶街でしょ?」
「おう、鍛冶だけじゃねえぞ、鉄、革や布も何でも使って色んな物を造ってるそうだ。そこで俺のもそうだがよ、アンラも服とか造ってもらおうってな」
アンラが着ているのは全部俺のお下がりだ。
気に入って着てくれてるようだが、袖とかほつれてきてるし、この機会に俺のと合わせて造ってしまうつもりだ。
「ん~、私はこれで良いんだけど、ちょっとほつれたりしてるから、手直しはしたいかな」
「おう、手直しも新しいのも両方にしようぜ、金はダンジョンでたんまり手に入ったからよ」
「あっ、そっか、なら手直しして、新しい服は良いのあればケントが選んでよ」
『ケント様、お話し中失礼します。前の馬車が進みましたよ』
俺とアンラの話を遮り、十数分ごとに数台ずつ進むんで、動き出すとダーインスレイブが教えてくれる。
後数回は待つことになるだろう、ってところまで来た時、入門を待つ馬車を止まらずに追い抜き、門へ進む馬車と騎馬が後ろからやって来て、俺達の馬車の横を通り過ぎた。
「おっ、ブロンズ男爵の到着か。思ったより早かったな」
「そだね~、あの時叫んでたお嬢様がまた駄々をこねたのかもね~」
それもありそうだなと眺めていると、領主だからもちろん入門で止められることもなく、門の中へ消えていった。
その後、一時間ほど経ったところで俺達も門にたどり着き、門番にギルドカードを見せ、荷台も簡単に見てもらい、無事に街に入ることができた。
「ふう、やっと入れたな、宿屋は……おっ、あそこだな、空いてるか聞かねえとな」
「冒険者ギルドも門前広場にあるね~、部屋だけ取ったら行くんでしょ?」
「おう。夕ごはん前に済ませてえしな」
宿の前に、一旦馬車を止めて空きを確かめ、ちと心配したが問題なく部屋が取れた。
馬を預けて馬車を収納した後、俺達は冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドは思ったより混雑しておらず、受け付けまで待つことなくたどり着けた。
「おっちゃん、ギルドマスターに手紙を持ってきた。依頼書はこれだ」
手紙を見せながら、依頼書を見せる。
おっちゃんは、カウンターの上に置いた依頼書の文字を目で追いかけ、コクリと頷くと手を出してきた。
「ん? ギルドマスターなんか?」
「ああ、たまに受け付けや、買い取りもしているんだ」
なるほどなと手紙を渡し、受け取りの署名をもらった時、後ろから小声で声をかけられた。
「フェンサー子爵様、この後お時間いただけますでしょうか? ブロンズ男爵様の使いです」
依頼書をクロセルに頼んで収納してもらった後、振り向いたそこには夜営の場所を明け渡せと言ってきたおっちゃんがいた。
「おう、宿屋の食堂で良いか? 出てすぐの所に宿を取ったからよ」
「はい。ありがとうございます。後ろをついていきますので、よろしくお願いいたします」
それ以外は話しかけられることも、絡まれることもなく冒険者ギルドを出て、宿屋に向かう。
宿屋に入り、食堂で二人前と、クローセ用の小さめの肉を頼み、ブロンズ男爵の使いと一緒に座った。
「で、どんな用なんだ?」
ガヤガヤ賑やかな食堂だ、多少大きめの声でもまわりに紛れてしまうだろう。
「はい。お時間を取っていただきありがとうございます。今回、ご迷惑をかけたフェンサー子爵様にこちらを、ブロンズ男爵様からです」
おっちゃんはテーブルの上にマントの下から拳程度の革袋を音が出ないようにそっと置いた。
「なんだ?」
持ち上げると、ずしりと重い。
そっと口を縛ってあるヒモをほどき、開けると、金貨だ。
さっと見て五枚は入ってる。
「ちっ、気を遣いやがって、おっちゃん、こんなの要らねえぞ、俺達は場所を譲っただけじゃねえか、そうだな、ここの夕ごはんをおごってくれれば良いぞ」
「そだよね~、ブロンズ男爵もそんなに気を遣いすぎるから娘さんがわがまま言うんだよ、たまにはガツンと言ってやらなきゃ」
革袋の口を縛り直して、おっちゃんの前に置いてやる。
「しかし受け取ってもらわねば、お叱りを受けます」
驚いた後、困った顔をしてそ~っとまた俺達の方へ押し返そうとしてる。
あっ、ちと良いことを思い付いたぞ。
「ならよ、美味い酒を頼む、アンラ、それなら受け取るだろ?」
「きゃははは♪ そうね、この街はお酒は作ってないの? あるならそれが良いわね」
アンラは俺の話に乗ってくれた。
そして笑顔で注文をつける。
「は、はぁ、ブロンズ男爵領は水質の良い湧き水が自慢で、麦を使ったお酒が有名です。では、一旦話を持ち帰り、対応させていただきます」
「おう、すまねえな。だがよ、明日の朝にはここを出発すっからよ、来るなら早めにな」
「はっ。ではお食事前にまたお邪魔しまして、申し訳ありませんでした」
使いのおっちゃんは、金貨入りの革袋をマントの中へしまい込むと立ち上がり、深く礼をして宿屋を出ていった。
まあ、酒くらいなら、明日の朝までに宿にでも預けてくれっだろ。
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