第144話 ミミズのトンネル
「おいおい、どんだけだよ」
「あはは……馬車五台分もあるのね~」
朝ごはんを食べ終わり、厩舎から馬を連れて来て、馬車に繋いでいたところに、昨夜使いとして来たおっちゃんがやってきた。
馬車を五台引き連れて。
「はっ、これでもお渡ししようとしたお礼にはまだ届かず……持ってきてはみたのですが、フェンサー子爵様の馬車には乗りませんよね」
「馬車には乗らねえが、こんなにもらって良いんか?」
「良いんじゃない? じゃぁ~、収納♪ にゅふふ、こっちも収納~」
横にいたのに、いつの間にか幌無し馬車の荷台に飛び乗ったアンラは、一台ずつ荷台を空にしていく。
それを見ている馬車の御者達と、使いのおっちゃん。
目を見開き言葉も出ないようだ。
「ほいっと、おじさんお酒ありがとうってブロンズ男爵に言っといてね~、これならしばらく買わなくても良いかもね~」
「ん? その街の名産とかなら買えば良いじゃねえか、本は中々売ってねえし、本よりは安いんだしよ」
馬車の荷台を全部空にして戻って来たアンラ。
ドワーフの街も、酒が有名だから絶対に買うだろうと思ったのは秘密にしておく。
「す、素晴らしい! それほどの収納容量があれば、大商会でも幹部として重用されますよ!」
「え~、そんなの興味ないない~。私はケントと冒険の旅、あっ、修行の旅でもあるけど続けるんだもん」
バッサリと断るアンラ。
俺と旅を続けてくれるってのは嬉しいぞ。
「だな。まあ商人か、ずっと年取ったら考えても良いけどよ、今は考えられねえな、っと、準備も終わったし行くか」
まだ収納で唖然としている御者達と、商人の話を断られるとは思ってなかったのか、それに驚いているおっちゃんを置いて馬車に乗り込む。
馬車が動きだし、手を振る俺達と、首だけ動かし見送ってくれたおっちゃん達。
門をくぐり、チラッと後ろを見たんだが、まだ宿の前で動いてない姿が見えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
切り立った壁と壁の間を馬車は進む。
ブロンズ男爵の街を出てから岩山へ続く一本道を進み二日が経った。
すれ違う者は鉄を運ぶ重量のある、四頭引きの馬車と、食料なんかを運んで行ってた大型の幌馬車だけだ。
所々、渓谷の岩から染み出す水場があるだけで、代り映えのない景色が続き、そろそろ飽きてきた頃、渓谷の突き当たり、行き止まりかと思うような壁に、馬車がすれ違えるほどの穴、トンネルがあった。
トンネルの入り口に門があり、ここがドワーフが住む鉱山に唯一行ける道だそうだ。
「でけえ穴をよく掘ったもんだな」
「ほんとよね~、これだけ大きく掘るの大変だろうにね~、あっ、ケント、ギルドカード見せないとダメみたいだよ」
前を行く者も馬車もなく、直接門まで来た俺達は、門番にギルドカードを見せ、荷台を見せて、トンネルに進んだ。
入ったところからは出口の光は見えないが、魔道具によってトンネルの中は夕方の日が落ちる手前ぐらいの明るさがあった。
「へえ~、結構涼しいんだな」
「だね~、でもこれが数時間かかるんでしょ? ぶつけたりしないようにね」
「それに魔物が出るかも知れねえんだよな。ミミズのデカいヤツが」
「たまに空いてる穴があるでしょ? あれから出て来るらしいよ。出て来て倒せたらドワーフには高く売れるから、歩いている冒険者もそこそこいるって」
「おー、言ってたな。デカい穴から入って探したりもするらしいぞ」
とそんなことを言ってると、トンネルの先が騒がしい。
ミミズが出たかと馬車を進めると、五人の冒険者が穴から頭を出したミミズに攻撃をしていた。
「モリをもっと突き刺せ! ロープをそのへんの岩に固定して逃がさねえようにするんだ!」
「「
すでに三本のモリがミミズに刺さっていて、モリから伸びたロープを近くの岩に結んでは、次のモリを手に、のたうち回るミミズに向かって行く。
「すげえな、あんな感じで逃がさねえようにしてから倒すんか」
「あ~、でも逃げそうね、あの刺さってるヤツ抜けちゃいそうだもん」
アンラの言う通り、刺さってる三本の内、二本がすでに抜けかかってる。
バタンバタンと激しく動き回るから、追加で刺そうと投げたモリも表面を傷付けるだけで、ほとんどが跳ね返されている。
「あっ、抜け――」
一瞬だった。
頭を上げたミミズが体を振り回すようにした瞬間、抜けかけていた二本はもちろん、モリの半分ほどまで刺さり込んでいた物まで一度に抜けてしまった。
「離れろ!」
さっきから指示を送っていたおっさんも一言叫びながら、ブオンと風を切るミミズの胴体を掻い潜り、前方に身を投げ出し間合いを取ることに成功した。
だが――っ!
「アンラ手綱を頼む! 覚醒!」
馬車から飛び降り着地と同時に地面を蹴る。
「間に合え! だりぁっ!」
クロセルを抜き様に、倒れている男の上を飛び越えながら振り抜いた。
ズバンと弾くようにミミズの巨体が吹き飛んだ。
――が、切れねえだと!
『突き刺すか、切るなら魔力をまとわせなさい!』
「おっしゃぁぁ! 大人しくなりやがれ!」
気合いを入れ、さらに間合いを詰め、刃渡りを魔力で伸ばしたクロセルで、体ごと体当たりをするつもりで突き刺した。
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