第130話 ダンジョン最高到達記録更新者

「スゲー! そんな長く更新されてなかった最高記録が昨晩更新されたってのかよ!」


「へ~、それで一晩中騒いでたのね~、凄いんじゃない?」


「うんうん。私達も寝ようとしてたんだけど、あまりにも騒がしくてこの食堂に降りてきたら――」


 ……完全に寝てしまってたぞ。そんなことならお祭り騒ぎに交ざりたかったのによ……。


 ちと冷めてしまった腸詰めを噛りユウ姉ちゃんが興奮して話しているのを聴いている。


 残念だが寝ちまったならしかたねえか。

 それに、今日のこの後モリブデン伯爵様が主催で八十年ぶりの記録更新をたたえる祭りが街の中心にある大広場で始まり、馬車で一日かけて街を一周するそうだ。


「ふぐふぐ、んくん。ケント、じゃあさ、冒険者ギルド行った後すぐユウ達のダンジョンへ出発しないで見ていく?」


 残ってた腸詰めをフォークで刺し、口に放り込んだアンラ。

 飲み込んだ後にそんな提案をしてくる。


「そうだな、思ったより予定が進んでいるしよ、見てからでも良いか」


 今日から数日は、ユウ姉ちゃん達とダンジョンで修練だと思ってたが、気になっちまうし、どんな奴らなんかくらいは見ておくことにした。


 食べ終わった俺達は、今夜の宿を予約して、冒険者ギルドに向かう。


 ギルドマスターに手紙を渡したいんだが、昨晩の記録更新したパーティーと一緒に祭りの会場、大広場に言ってるそうだ。


 それも、今日一日は祭りに参加するらしく帰ってくるのは今日の夜遅くらしい。


「しゃーねえか、うっし、今日はそのパーティーを見てダンジョンにもぐるか」


「そだね~、ユウ達もそれで良い?」


「そうですね、記録更新した人達がイケメンかどうか気になってましたので、見てからダンジョンに行きましょう」


 いけめん? ってのはよく分かんねえが、今日の予定が決まり、ギルドから出て街の中心に向かう馬車を捕まえ乗せてもらう。


 馬車で普段なら二十分で着くところらしいが、倍ほど時間をかけ到着した大広場は、真ん中に舞台が設置されていて、その上に五人の若い冒険者っぽい男達と、白髪交じりの強そうなおっさん。

 それと高そうな貴族っぽい服を着たこれまたごっつく強そうな男が立って何か喋っていた。


 耳に集中して聴いてみる。


「――このAランクパーティー『暁の狼』がちょうど八十年ぶりに第一ダンジョンの記録、三十階層のボス、あのミノタウロスを見事に撃破! その後も三十四階層まで攻略し、二ヶ月間に及ぶ探索の末、物資不足のため仕方なく帰還した!」


 おお。二ヶ月間ももぐってたんか。

 ミノタウロスはまだ会ったことねえが、確か牛の角を持つデカい二本足だったよな。


 その後も感謝の言葉やたたえる言葉を重ね、最後は一人ずつなんか報酬かよく分かんねえが贈呈するようだ。


「では、冒険者ギルドからと、この街の領主、モリブデン伯爵様から記念品と最高到達階層更新の報酬を渡していきます。暁の狼リーダーは前へ」


 見えなかったが、誰か舞台下で進行役がいるみたいで贈呈式が始まった。


「へぇ~結構格好いいわね、ワイルド感があるし」


 なんかユウ姉ちゃん達は、わいるどとかまた分かんねえ言葉を使い、舞台の上を見ながら話かている。


 まあ、確かに中々やりそうだしな。っと、剣とかもらってっんな、まあ、俺には必要ねえが、聞き逃したがドワーフ製と聴こえたよな。


 ……近い内に防具を頼みてえし、あんな剣が打てんなら防具を頼んでみてえな……。


『ケント、それなら記録更新してみては? 手紙の依頼を終わらせてからになるでしょうが、そうすればあのモリブデン伯爵と話もできるでしょうし』


 クロセルが俺の考えていたことに返事をしてくれた。

 それもそうだな。


「よし、ユウ姉ちゃん達も満足したか? 満足したならダンジョンに行くが、まだ見てたいんか?」


「ん? ううん、もう良いかな、格好いいとは思うけど、まわりのきゃーきゃー聞いてたら冷めちゃった」


 なんか苦笑いしてるが確かにな。

 この大広場にいるほとんどの女の人が魅了でもされたんかってくらい熱い視線と声援を送っているけど、そこまでの事なんかと疑わしいくらいだなと思ってたら――。


「ん~、ケント、アイツらにレイス付いてるよ。上手く隠れてるみたいだけど、中々のものね、中位は確実よ」


「マジか? んー集中して……」


 アンラが言ったように、目に集中して舞台上の五人を見たんだが、行った通りうっすらモヤモヤが漂っているのが見えた。


「……そうみたいだな。強そうだし浄化しておきたいが……なんか方法を考えねえと」


「でしょ。あのレイスが魅了しているみたいね、それもかなり広範囲で強い力だし……早めに浄化しないとまずいわよ」


「魅了? ならユウ姉ちゃん達が魅了されてねえのは?」


「たぶんだけど、渡り人で、そのあたりの耐性を持ってるからじゃないかな」


 アンラの言葉を聞きユウ姉ちゃん達は『嘘っ』『魅了とかヤダキモい』『げっ、一気に冷めちゃった』とかなんとか言いながら顔をしかめた。


「なんにせよ、今は無理だよな、早くて今夜くらいしかこの騒ぎだ、会うのは難しいぞ」


 どう考えてもこの群衆に割って入り、舞台まで行ってクロセルで浄化は無理だ。


「ん~、それじゃあ間に合わないかも。ほら、女の人がどんどん舞台に近付いていってるでしょ? その内騒ぎが始まるわよ」


 くそ、言う通りだ。さっきまで俺達のまわりにも女の人がいたのに今は男の人しかいねえ。


 一か八か覚醒して突っ込むか……。


「仕方ないわね、私が姿を消して、あの男達に近付き引っ張り出してあげるよっと!」


 止めるまもなくアンラは姿を消したのか、ぴょんと飛び上がり、舞台に向いて飛んでいった。


 おいおいとか思いながら、俺も覚醒して人混みをすり抜けながら舞台に向かった。

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