第129話 崩壊(セシウム城・城壁)
「おいおいマジか……」
少しずつ方向を変えてバリスタ用の鉄でできた矢を投げ続けるアンラ。
ドゴン、バガンと二十メートルは高さがあった城壁に矢が当たると爆発したかのように弾けて穴が開き、そこからガラガラと崩れていく。
次々と数十本の矢を投げて、本来なら見えるはずの無い外壁が崩れた先には立派な屋敷が建ち並ぶ貴族街が見えた。
「ふい~。邪魔な城壁が無くなって見通しが良くなったね♪ にゅふふ~」
「くくっ、そうだな。無茶苦茶だがスッキリしたぞ」
得意気なアンラの側へ行き、優しく頭を撫でてやる。
……が、ちとやり過ぎたかな? 城の正面にあった城壁は全壊してるしな。
「ほえ~、アンラちゃん無茶苦茶強かったんだね」
ユウ姉ちゃん達も開いた口を閉めるのも忘れ、崩れた壁の先にある街並みを見ている。
良く見ると、城壁の向こうでザワザワとしていたのが兵士達と、貴族っぽい服を着てっから貴族だろう事が分かった。
「でしょ~。あっ……ねえケント、城壁壊しちゃったけど、これもまずかったかな? お城は返したけど、城壁も直すのにお金かかっちゃうよね?」
「良いって、今のはアンラがやらなきゃ俺がやりたかったくらいだからな」
『はぁ、今回は仕方ありません。お城を戻したというのに、あちらから攻撃してきたのですからね。それより皆が無事で何よりです』
『アンラよ、私も活躍したかったぞ。それを抜きもせんとはな、ほれ、用事もすんだことだ、シルヴァン王国へ向かおうではないか』
「そうだな、フルフル。また頼めっか? 案内すっからよ。ユウ姉ちゃん達は来た時のようにしてくれっか」
ユウ姉ちゃん達はそれを聞いて、フルフルの足元にあるワイバーンの皮で作った袋の中に入り、準備は良いようだ。
俺とアンラもフルフルの背中に飛び乗ると、足を曲げたのか少し低くなった次の瞬間、延び上がるように地面を蹴り、大きく羽ばたくと、袋のロープを掴んで夜空へ飛び立った。
ある程度まで高度を上げ、旋回を始めた。
セシウムの王都の真ん中、灯りがなかった真っ暗な場所に、白く浮かび上がる綺麗なお城が見え、今度シルヴァン王国へ行った時、あの城も綺麗にしても良いかもとアンラは言うが、止めておけと言っておく。
少しセシウムの王都を見た後、フルフルに進む方向を指差してやると、ひと声鳴いた後、旋回を止め、指差した方向に進路をとった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜でも明かりが灯り、真っ暗な中で浮かび上がる街が見えてきた。
スーッと高度を下げ、少しずつ街の家々も形が分かってくる。
平原にドンと大きく、夜さえ灯が絶えない街がダンジョンの街、モリブデンだ。モリブデン伯爵様がおさめるダンジョンが三ヶ所もあり、シルヴァン王国でも有数の栄えた街と聞いたことがある。
「フルフル、あそこが門だからよ、ちと離れた所に着地してくれっか?」
ひと鳴きした後降下して、草原の中、茶色い街道が見えてきて、その脇の草むらに着地してくれた。
「ありがとうな。肩の上で休んでてくれ。ユウ姉ちゃん達もお疲れ様、ダンジョンの街、モリブデンに到着だぞ。ちと歩くが……ここから見てもでけえ街だな」
フルフルが肩の上にいるソラーレの上に乗り、落ち着いたところで、ユウ姉ちゃん達がワイバーンの皮からあくびしながら這い出てきた。
「あふっ。あはは、ちょっとの移動だったのに寝ちゃいました。フルフル~ありがとう♪」
フルフルをつんつんサワサワと撫でた後、目を擦りながらまたあくびをして、伸びをしている。
「よし、みんな出てきたな。ほら、寝ぼけてねえであそこがダンジョン街だ、さっさと移動して、街に入っぞ」
ワイバーンの皮をしまい、街道に出る。
少し下り坂の先、夜の闇に浮かび上がるようにモリブデンの街が見えている。
その道中、アンラは良く分かんねえが、道端の草を引っこ抜いては収納してる……なんだ? 薬草か?
『ケント様、アンラが摘んでいる草は毒草の一種ですね。効能は下剤、お腹をくだしてしまうものです』
「ダーインスレイブ~、これはこんな道端に生えてる薬草じゃないから高く売れそうじゃん」
ズボッと根っこから抜いて、少し太くなっている根に付いた土を払い落として収納している。
俺も見よう見まねでアンラが抜いた物と同じ葉っぱの根本を掴んで引き抜いた。
「おお、こりゃ良いな。ユウ姉ちゃん達も形と生えてる場所を覚えておけばダンジョンに行かなくても稼げるんじゃねえか?」
「へえ、ニンジンを細くした感じなんだね。えっと、これかなっと――やった! みんなも集めるよ!」
『確かに、魔力が濃いところでしか採取できない
三十分ほどで到着するはずだったが、二時間近く七人で道草を引き抜き進んで、途中から生えているものが無くなり、沢山取れて満足した顔で足も軽く進み、モリブデンに到着。
思った通り、夜も遅かったが問題なく入門できて、門前広場にある宿屋に入った。
宿屋で三人部屋と二人部屋を二部屋取り、ユウ姉ちゃん達と分かれ、寝ることにしたんだが、階下が騒がしい。
「なんだろね~、ちゃんと聞こえないけど喜んでる?」
「だな、乾杯とか聞こえっしな」
ちと気にはなるが……もう夜も遅いよな……眠気に負けて目を閉じると、意識が……。
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