第128話 崩壊(魔道具ダンジョン)
賑やかな食堂の雰囲気が、ザワザワと緊張感のある雰囲気に変わり、ガタガタと音を立てて席を立つ者も現れ、中には開けっぱなしの出入口から外へ飛び出す者もいる。
しばらくして音と揺れが収まり、あたりのザワザワが収まったと思った頃に騒がしい声が外から聞こえてきた。
『ダンジョンの入口が崩れたぞ!』
そんな声だ。
俺達は目を合わせただけで頷いたりはせず、おかわりのお茶を飲み終えて、崩れたダンジョンの入口を見るためバラバラと食堂を出ていく流れにのって外に出た。
この集落にこれほどの人がいたのかと驚くほどの人数がみな同じ方向に進み、ダンジョンがあった場所に到着したんだが、そこには冒険者とセシウム王国の騎士達、それとこの集落の住民のほとんどが集まっている。
「ケ~ント~、いっぱいいるね。大半が騎士みたいだけどさ」
「だな。ってかよ、こんだけ崩れていたんじゃ入口を掘り返すだけで相当時間かかるだろうな」
「はぁ~、見事に崩れちゃってますね、私達の修行場所」
俺の腕をからめとって引っ付いてきたアンラの言う通り、崩れた所を囲むように騎士達がいて『復旧作業にかかれ! 冒険者ギルドにも依頼をかけるぞ!』なんて事を叫び、ちと良い鎧を装備してる奴が、どこから持ってきたんか大きな木箱に乗って指揮している。
騎士達は動き始めたが、冒険者達は『こりゃしばらく無理だな』『違うダンジョンに向かうか』『ここだと稼ぎが微妙だったから良い機会ね』と、移動をほのめかせている。
「よし、俺達もここを離れるか、ユウ姉ちゃん達も、五人で十分やれるようになったしな」
「うんうん♪ たぶん今でもBランクは余裕だと思うよ~」
「はい。それもこれもケントくんとアンラちゃん、それにいつも綺麗にしてくれたソラーレのおかげですよ♪ ここのダンジョンは卒業して、別のダンジョンに挑戦してみたいです」
ユウ姉ちゃん達は代わるがわる肩の上のソラーレを指先で撫でている。
俺達は元ダンジョン前の騒がしい広場から離れ、集落を出る。
出る際、門番もダンジョン前に行ったのか、誰もいなかったんだが……気配を探ると近くには魔物の気配はなかったから、フルフルに頼み、セシウム王国の王都に向かってもらった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ~、お城だけを返すの忘れてたね~」
「そうだと思ってたぜ、まあ俺も忘れてたんだがな」
『はぁ、そんなことだと思ってました。お城を返した後、ユウ達を依頼の予定地、シルヴァン王国のダンジョン街へ連れていくのですよね?』
「ああ。ダンジョン街っていうほどなんだ、夜でも門の出入りができるだろうし、宿も沢山あると思ってな」
セシウム王国の王都上空にたどり着き、夜のためいつもより低いところで大きく旋回してもらっている。
よく見れば、町の灯が賑やかなのに、王都の真ん中だけ真っ暗で、灯りすらない。
ユウ姉ちゃん達と別れる予定の街も決まり、さあお城を戻そうと王城後に着陸してもらったんだが、城壁の外から騒ぐ声が聞こえてきた。
「降りてきた所を見られたようだな。アンラ、気配はこの城壁内には無いからよ、さっさと出してしまおうぜ」
「ほ~い、城だけにして~、中身は空っぽで~、ほいっと!」
ズンと足元から振動が伝わり、目の前には夜なのに真っ白になった城が現れた。
「あっ、お城だけにしたら汚れまで取っちゃったみたい。良いよね? 綺麗だし? ……駄目?」
「くくっ、良いんじゃねえか、返すの忘れてたお詫びに、城を綺麗にして返したと思えばな。よし、行く――かぁっ!」
ギィンとクロセルを抜き、迫ってきた何かを切り飛ばした。
『ケント覚醒して迎え撃つのです! バリスタですよ! すぐにまた撃ってきます! 方向は城門、門の上からです! ユウ達は早くケントの後ろへ!』
切り飛ばしたものを見ると、鉄の塊がついたゴツい矢のようだ。
あんなもん、たまたま俺に向いてきたから防げたが、ユウ姉ちゃん達や、デカいままのフルフルも、防げたかどうか……。
「アンラはあれくらいなら弾き飛ばせるよな? ダーインスレイブ、ただの鉄の塊だ、負けんじゃねえぞ」
「まっかせなさ~い。よっこいしょ」
テクテクと地面に落ちているバリスタの矢を持ち上げ……。
いや、アンラ、お前の身長くらいある鉄製の矢をそんな軽々と持ち上げんなよ。
「にひひひ♪ よくもケントにこんなの撃ち込むなんて、私は怒ったもんね♪ ――っしょい!」
アンラが鉄製の矢を投げるほんの少し前に二発目が放たれた。
俺は覚醒状態でクロセル構え、フルフルを狙った矢の軌道上に素早く移動して――ギィン!
ドゴン! と鳴ったのは城壁の門で、俺が切り飛ばした矢は、ズンとフルフルの少し離れた地面に突き刺さった。
「フルフルまで狙うなんて! よっこいしょ――え~いっ!」
今度の矢は、覚醒して切り払ったせいか少し曲がっていたため、まっすぐには飛ばずに変な回転つきで飛んで行き、最初の一撃で半壊だった門を完全に崩してしまった。
「はは……すげえなアンラ、って、おまっ! その矢はどこから出した!」
「そおいっ! ほりゃ! え? とう! お城の中に? てりゃっ! 沢山あったよ? ほいっと!」
アンラ足元に出された俺達の身長より長い鉄の矢を、城壁の崩れてないところへ気の抜けた掛け声と共に、ビュンッと風切り音を響かせ飛んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます