第123話 セシウム城からの脱出と

 城の裏手に案内された俺達が目にしたのは、屋根の無い修練場のまん中にテーブルが置かれ、五脚の椅子に座りお茶を飲んでる四人……汗だくで、なんか無理やり笑っている感じがする。


 それに俺達が入ってきた。

 いや、ユウ姉ちゃんが来てるってのに、全然こっちを見ないのはおかしくねえか?


「みんないるよ! おーい!」


 そう言って走り出そうとしたユウ姉ちゃんの前を遮るように割り込んできたおっさん。


「ちょっ、ちょっと邪魔しないでよ、感動の再会なのよ、ここは五人で抱き合うシーンじゃない!」


「お待ち下さい、この修練場に入るにはこの腕輪を装備してもらわないと、思わぬ怪我をしてしまいますので。さあ手をお借りして、お付けしましょう」


 なんか、変な模様が付いた腕輪をユウ姉ちゃんに嵌めようと、手首を握り、嵌めようとしたんだが。


『奴隷の魔道具のようです! あちらの方達にも嵌められています! 防いで下さい!』


 なっ!


 俺は素早く手を伸ばし、おっさんが嵌めようとしていた腕輪を奪い取りる。


「は? な! 何をする貴様!」


「そっちこそ何しやがる。奴隷の魔道具を付けてなにしようってんだよ。とりあえずてめえは敵だなっ!」


 手元から無くなった腕輪に驚き、俺の手にある腕輪を見て、一瞬で顔が真っ赤になり怒鳴り付け、殴りかかって来たが、胸当ての少し下、防具の無い脇腹を、伸ばされた腕を膝を曲げ掻い潜り、おもいっきりひじ打ちしてやった。


「があっ!」


「ユウ姉ちゃん、友達も奴隷にされちまってる!」


 吹き飛んだおっさんに目を取られているまわりにいた兵士達を振りきるように、アンラとユウ姉ちゃんの手を引きテーブルでお茶を飲む姉ちゃん達に向かって走る。


「「ひにゃぁぁー!きゃははは♪」」


 一瞬遅れて俺達の後を追いかけるが、覚醒した俺には追い付けねえ。


「きゃは♪ 悪者だぁ~ね~、魔道具持ってなさそうだし~眠らせるよ~眠りヒュプノス~」


 追いかけてきた者達どころか、テーブルにいるユウ姉ちゃんの友達の近くにいたメイド、兵士達、それに修練場いて各々修練していた者達まで、俺達と、お茶を飲んでる四人以外がその場で眠り、崩れ落ちた。


「流石だなアンラ、助かったぜ」


「まっかせなさ~い。でもすぐに別の兵士達が来るかもね~。ほら、お城のあそこから覗いてる奴らがいるもん」


 アンラが指差す方を見上げると、城のバルコニーから見下ろし何か叫んでる王様っぽいヤツと貴族っぽいヤツらがいた。


「ね、ね、ねえ! 奴隷ってどういう事!? 私の友達が奴隷にされちゃってるの!?」


 加速はやめたが走り、テーブルへ向かう。


 ユウ姉ちゃんが何か言ってるが、今はどうやってこの状況を解決するか考えねえと……。


 そういやアンラが言ってたからもしかしてとは思ってたけど、本当に奴隷になってるとは思わなかった。


「そうだよ~。でも~、ん~と、コイツじゃないし、コイツかな……あっ、持ってた持ってた」


 俺の代わりにアンラが答えてくれている内に、テーブルまでたどり着き、まだにこやかに笑いながらお茶をのみ続ける姉ちゃん達を間近で見た。

 よく見れば、あちこち擦り傷に打ち身で青くなっているところまである。


 それを見ながらもユウ姉ちゃんは座ってる姉ちゃん達を揺さぶり、声をかけているが姉ちゃん達は笑顔で顔を向けることもしないで空になってるお茶のカップを口許に運ぶ。


 無茶苦茶だな、ってかお茶も初めから入っていた感じがしねえ。

 濡れてもいねえじゃねえか!


 怒りが頭を染め、ザワザワと血が騒ぎだしたが気合いでおさめる。

 このまま怒りに任せて暴れると、この前のようになりかねねえから押さえ込んで、そのまわりで倒れている奴らを見ると、アンラが何やら魔道具とか、ナイフ、剣なんかを奪い取り収納しながら収納していってる。


 そして何か見付けたようだ。


「ふぅ……アンラ、なんだそれ? 急いで逃げねえと駄目なんだろ? そんなこと――」


「これは奴隷の魔道具の相方で、命令したり色々できるんだよ~、だ~か~ら~、え~っと、解除!」


 アンラが真っ黒な宝石が付いたネックレスの宝石のところを握り、解除と唱えた途端、パキンと四つの腕輪が真っ二つに割れ、修練場の地面に落ちた。


 落ちたとほぼ同時にバタンと姉ちゃん達は、テーブルに体を預けるようもたれ掛かった。


「みんな! ど、どうしよう! みんな死んじゃった!」


「だ、だい……じょうぶ……、疲れて……動けないだけだから」


 死んじゃいねえとは思ってたが、奴隷の命令で笑いながらお茶を飲んでいたのに、解けたら動けねえほど疲れているなんて、どんな修練してたってんだよ。


『ケント、フルフルがその子達も一緒に連れて、馬を隠したところまで飛んでくれるそうです』


「おっ、そりゃ良いな、クロセル、馬を運んだヤツを出してくれっか、あれで運んじまおう」


『それが良いですね。ケント様、ってかアンラ! そんな奴らの物を回収するくらいなら、この城の武器庫でも漁ってこい! そんなことより今はこの者達を連れてってこら! 姿を消してどこへ行くのだ!』


「にゅふふ♪ ダーインスレイブの言う通り~、このお城の武器とかお酒とか本とかお酒とか魔道具とかお酒とか本とかもらってくるよ~。ケント達は、馬と一緒に待っててくれれば良いからね~、ほいっと!」


「はっ? お、おい……行っちまったな」


 いつも通りぴょ~んと飛び上がり、バルコニーの柵へ着地した。


 着地したところで、王様や近くにいた貴族の着ていたマントなんかがパッ、パパッと消えていく……始めやがったな。


『はぁ、まあ姿を消せば、見付かることもないでしょう。武器などを回収しておけば、シルヴァン王国に攻め入ろうとする考えも、見直さなければならなくなるでしょうし、ここは任せて私達はここから出ましょう』


 姉ちゃん達のところであわあわしてるユウ姉ちゃんと一緒に、広げたワイバーンの皮に四人を寝かせ、俺達は、大きくなったフルフルに乗り込みセシウムの王城から飛び立った。

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