第122話 セシウム城に
「確かセシウム王国の王都はデカい湖にあって、その湖の浮き島に城が建ってるって聞いたぞ」
「湖ね、あれかな? ほら湖が沢山あるけど、一番大きいし、湖の真ん中に何か建ってるし」
めちゃくちゃ高い上空のフルフルの上、俺の前に座り背を俺に預けているアンラが指差した先、湖が隣接してある中でひときわデカく、言った通りに湖真ん中にある島に建つ城が見えた。
あれだと確信したが、流石にすっかり明るくなった今、このままフルフルで乗り付けるのはまずいだろうと思い、湖に接してる街があり、そこにデカい船が数隻浮かんでいるのが見えた。
「フルフル、あそこの街の――」
「ほらフルフル、あそこのお城よ! 行っけー!」
「は? 待て! どわぁぁぁー!」
「きゃははははははは♪」
「にゃんですとぉぉぉー!」
アンラの指示を聞き、水平に飛んでいたフルフルが広げていた翼を閉じて、真下に落下するように頭を下げた。
さらに加速するためか、一度羽ばたくとグンと落下の速度が増した。
落とされないようにフルフルの首の毛を必死で掴む俺。
俺の胸元で楽しそうに笑うアンラ。
俺の体になんとか手を回して掴まり叫びながら必死だろうユウ姉ちゃん。
眼下にはもう水面だけが見え――っ!
たと思った思った瞬間。
「ぐへぇっ」
「うがっ」
「ぷぎゅっ」
急降下から水面ギリギリを水平に飛ぶように向きを変えたフルフル。
下に進む勢いのためか、俺はアンラを押し潰すように、ユウ姉ちゃんは俺とアンラを押し潰すようにフルフルの体に押し付けられた。
なんとか目を開けると、後方にズババババと水柱を立てながら水面ギリギリを飛び、前方には城のある浮き島の湖岸が近付き――っ!
ブワッと羽を広げたかと思った瞬間――。
「こんどはにゃに――っ!」
「ぬおあっ!」
「むきゅぅ!」
体を立てて羽も広げて風を受け、一気に速度を落として、ズンと止まった体感の後。
乗っていて力いっぱい掴んでいたフルフルの感触が、フルフルが小さくなったのか無くなった。
無くなったからやっぱり後は落ちるだけだ。
俺達はドサッ、ドサドサと、湖岸だろうところに投げ出された。
「ほにゃ!」
「ぐはっ!」
「はきゅっ!」
咄嗟に抱き締めたアンラの頭の向こうに見えたのは背の高い草と、真っ青な雲ひとつ無い空だった。
それと……背中に感じる柔らかい感触……。
「ふぎぎぎっ、お、重い……」
と……ユウ姉ちゃんの苦しそうな声だった。
「すまねえ――大丈夫か?」
アンラを抱いたまま、ユウ姉ちゃんの上から転がるように地面に降りる。
「ほへ~、何がどうなったのか、良く分かりませんが……なんとか無事のようですね」
座っていても、草から顔が出ないほどの背の高い草のようだが、座ったことによって草の頭から先に見えたのは、城壁のようだ。
「ああ。無事に城のある浮き島には到着したようだけどよ、アンラ、無茶言うなよな、ちと面白かったけどよ」
「あはは……まさかこんな感じで上陸するとは思わなかったよ~」
「死ぬかと思いましたよ! でもフルフルさんありがとうございます。さあ早くお城に行きましょう! 友達が待って……ますよね?」
んなこと聞かれても分かるわけねえし困るが、次は城に入らねえとな。
抱きしめてたアンラを離し、立ち上がり、二人に手を伸ばして掴むと立ち上がらせる。
そして城を見ると、とりあえずは騒ぎにはなってねえようだ。
肩のソラーレに乗るフルフルに、ちと言いたいこともあるが、ありがとうなと言いながら指先で撫でておく。
立ち上がり、三人で城壁に向かって歩き、今度はそれにそってしばらく歩くと城門前の広場があった。
そこには今到着したんか桟橋があり船が停泊している。
その船から沢山の人が降りてくるし荷物も下ろされているのが見え、結構にぎわっていた。
それを横目で見ながら門に近付いたんだが、門番はチラリと見るだけで、他の降りてきた人達と同じように止めることもせず、すんなり通れた。
まあ、船からしか来れねえ城だから入門の警備が緩いんは分かるが、これで良いのかと思わないでもないが、門を抜けるとちょうど兵士の兄ちゃん達がいたから声をかけてみる。
「兄ちゃん達、すまねえがこの城で召喚された人達はどこにいんだ?」
「ああ、勇者様達は今朝から訓練のため修練場に……誰だお前達は? なぜ勇者召喚が行なわれた事を知ってる? おかしいな、まだ城の者しか知らないはずなんだが……」
「おい! それはまだ口外禁止事項だ! 聞いてきたコイツらは不審者だ! 捕らえるぞ! 囲え!」
なんか分かんねえが、秘密だったらしい。
俺達を囲むようにして持っていた槍を構えている六人の兵士達。
「やっ、やっぱり! みんな来てるんだね! みんなに会わせて! 修練場はどこ!」
渡り人は変わってんな。
この状況で普通はそれを聞くか?
だが、ユウ姉ちゃんの言葉に反応した、少し良い鎧と槍を持った兵士が何かに気づいたようだ。
「まさか……あなたは、その胸当て以外の変わった格好は……ユウ・ミカミ様でしょうか?」
「はい! みんなは! みんなはここにいるんですね!」
『召喚したのはここで間違いないようですね、それにユウの名を知っているという事は、ユウと同じくして召喚された友人がここにいるのは間違いないでしょう』
『ケント様、ここは話合いで切り向けられそうですね』
その通りだな、まあこのまま俺達は帰っても良いが、一応会うところまではついていくか。
ユウ姉ちゃんを勇者ってのに認めたようで、みんなのところに案内してくれるようだ。
兵士のおっちゃんは、城の応接室に案内したそうだったが、ユウ姉ちゃんは早く会いたいからと、修練場に向かうようにお願いして、希望通りになった。
ん~、なんであんなに修練場に行くのをためらってんのか分かんねえが、兵士を一人走らせた後、修練場に向かうことに応じたんだが……。
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