第113話 人攫いの集団

「君達二人か? 高ランクの魔法使いがいたと思ったのだが、馬車におられるのかな?」


 薄暗くなりかけた夜営地で、焚き火で湯を沸かしてる所に話しかけてきた兄ちゃんと、杖を持つ、魔法使いっぽい姉ちゃん。


 キョロキョロした後、じっと俺達を通り越して、後ろの馬車を見ている。


「いや、俺達だけだぞ? なんか用か?」


「「マジかよまさか」」


 そんなに驚くことか? あっ、洗礼を受けたばかりの俺達が乗り合いじゃない馬車で移動してるのは珍しいか。


「てかよ、昼間に草原でグリーンウルフを倒してた冒険者パーティーだよな?」


「君達、あれを見ていたのか。素早いグリーンウルフとはいえ、やり方を間違えなければあのくらいは――じゃなくて、君達もグリーンウルフに襲われていたよな?」


「おう、八匹いたぞ、綺麗に倒せたからな、売る時はちと楽しみなんだ」


「「は、八匹!八匹!?」」


 兄ちゃんと姉ちゃんはお互い顔を見合わせた後、俺達の事を少し怖がるように半歩後ろに下がった。


「で? なんの用だ?」


「い、いや、俺達が見たのは大きな石弾ストーンバレットを放った一匹だけだったからな、魔法であそこまで引き付けてからの倒し方を見て、ご教授願おうかと思っていたのですが……なぁ」


「え、ええ。八匹を相手にしていたとは……ねえ」


 二人は『これは技量が違いすぎる』『さぞ高名な方に違いありません』とか言って、『『手を止めさせ申し訳なお邪魔しましたい』』と自分達のテントに帰っていった。


「よく分かんねえが、あの五人より、あっちの馬車だよな、なんだありゃ」


「ん~、奴隷商の馬車にしたら乗せすぎだよね、一台に十人くらい乗ってるし、寝る時横になれないよね?」


 五台の内、二台の明かり取りの窓もない箱馬車に、あわせて二十人ほど乗っている気配がする。


 他の三台の馬車には一人または二人ずつしか乗ってない。


 後の者は護衛っぽい奴もあわせて十五人ほどが外で夜営の準備をしている。


 それに――。


「なあ、木に繋がれている馬だけどよ、馬具を全部外すなんて、なんでだ?」


 このまま街道を進めば登りだが半日ほどで峠下の街だ。

 馬を休ませるためと言っても、馬具を全て外してしまう事なんてまず無い。


 あるとすればここを拠点に討伐や採取の依頼を請ける時くらいだ。

 後はこの近くにダンジョンがあるならそれも分かるんだが……。


『場所的に見て、この先の村から村人を攫ってきたと考えられます。この先の村人はエルフでしたよね? 容姿の優れた者の多いエルフなら奴隷として高く売れることでしょう』


「マジかよ……だが、確かめてからだよな。アンラ、夜になったら、見張りの奴らを眠らせて――」


 なんだ? 外にいた奴らが五人、俺達の方にやってくる。


「ん~、私の事をジロジロ見てるわね。確かに私はエルフと同じように耳はとんがってるけどさぁ~」


「なんにせよ来てくれるんだ、向こうの出方を見てみるか」


 五人共に腰には剣が装備され、肩にロープをかけている。

 見た感じは装備の整えられた冒険者に見えなくはない。


 数メートルのところまで来た時に五人の中で、一番前にいたおっさんが、俺とアンラ、そして後ろにある馬車を見てから話しかけてきた。


「銀髪のエルフとは珍しいな、それも赤目なんて滅多に見ないぞ」


「ケケケ、少しガキ過ぎるが幼いガキしか駄目って趣味の貴族は多い、顔も流石エルフだ、将来美人になること間違いなしだぜ」


 何を勝手なこと言ってやがる。

 だが、コイツらやはりクロセルの言う通り人攫いのようだ。


 男達は俺達を取り囲むようにして立ち止まり、肩からロープを下ろして手に持った。


(ケント、眠りヒュプノスやっちゃう? それとも少し話を聞いてから?)


 俺は立ち上がりながらアンラを手で待てと合図して、おっさんに話しかける事にした。


「なあ、訳の分かんねえ事を言ってっけど、おっさん達は人攫いなんか?」


「ケケケ、ガキ、良く分かってんじゃねえか、大人しくそっちの女を渡せば命だけは助けてやるぜ? ついでだが馬車も馬ももらってやるからよ」


「そのたいそうな剣も置いていけ、ちったぁー小遣いになるだろうしな……いや、幼い男のガキを好んだ客がいたな、よし、お前も大人しく捕まってもらおうか」


 ニタニタ笑いながらロープをぐるぐると振り回し、男達の向こう側を見ると、さっきの五人組のパーティーも十人ほどに囲まれているのが見えた。


 アンラ、あっちの冒険者を襲ってるのはやっちまっても良いぞ、コイツらはちと痛め付けてやる。


(ほ~い♪ じゃあ馬車で待機してる奴らもやっちゃうね~、眠りヒュプノス~)


 バタバタと倒れていく奴らを見ながら、覚醒しておく。


「なに! な、なんだお前! いきなり髪の色が変わってのびてるじゃねえか! 魔物!?」


「クソ! この男は必要ない、こんな気味の悪いガキなんざ売れるわけねえ! 向こうもすぐに始めるから俺達もやっちまうぞ!」


 剣を抜いてきたが、俺も一気に抜いたクロセルで突き出された剣を横薙ぎにおもいっきり叩いてやった。


 ギンギギギギン! まだしっかり握れてなかったのか、俺の前に出された剣は、クロセルで弾かれて宙を舞い、数メートル先に落下する。


 何が起きたのか理解できてない顔で、軽くなった手元を見るため視線を下ろした。


 あるはずの剣がなくなった手を見つめ、ボサッとしている間に、目の前の男の腹へ蹴りを入れ、次は右の二人。


「ゴボッ!」


「「ガハッ!ガッ!」」


 足がめり込むほど力を入れ蹴ると、三人は吹っ飛び地面をガッ、ズザザと数メートル滑ってとまった。


「なっ! このガキ強いぞ! 油断するな!」


「喋ってるなんざ余裕だなっ! おりゃっ!」


 スッと膝を曲げて体を沈み込ませ、残りの二人に向かって前に飛ぶよう二人のちょうど間に潜り込んだ。


「チッ! コイツ速い! あのお方に知らせしないと! グアッ!」


「そんな余裕無いってのっ! クソ! チッ!」


 一人目の男にはしっかりと、腹に蹴りをお見舞いできたんだが最後の一人は体をひねるようにして、蹴りを避けて後方へ飛び、間合いを開けやがった。


 あの方か! 聞いてやるぜ! アンラ!


「は~い♪ 痛い自白ペインコンフェッション~」

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