第112話 依頼の品を受け取ろう

「荷物運びの依頼を請けた者だ、荷を受け取りに来たぜ」


「見ない顔ですね? まあ良いでしょう、取引品の手配書を見せてもらえますか?」


 倉庫の入り口で、今出ていった馬車を見送っていたおっさんに声をかけると、マンガンさんが言ってた通り手配書の確認をしてきた。


 ここであの箱ごと出さないと駄目なんだな。


 クロセルに頼み、収納から箱ごと出して見せたんだが、おっさんは『なに!』と驚き、俺の顔をまじまじと見てきた。


「少年、それは収納じゃないですか……馬車が小さいので、少量の配達依頼かと思いましたが……はい、箱の紋章も本物ですね。こっちに来てく下さい、一応馬車ごと倉庫へ、中で手配書を確認いたします」


 そう言うと、軽く会釈をして倉庫に入っていくおっさん。


 それについて馬車を進め、中に入ると、思ったよりデカい倉庫だった。


 こりゃ、両隣の倉庫とも繋がってるじゃねえか。


 中の広さに驚きながらも、すぐに右に馬車を振り、高く積まれた荷物の間を進むように言われておっさんについていくと、そこには倉庫の中に建てられた二階建てのこじんまりした家があった。


「ここで馬車を一旦止めて中で確認をしましょう」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「これは驚きました、馬車で行けない所ばかりじゃないですか、それで収納持ちにマンガン商会長は依頼したのですね」


「おう」


 馬車を止め、家に入った所の部屋で、ソファーに座りながら手配書の確認をしている。


 流石受付をしているだけあって、届け先がどんな所なのかも把握しているようだ。


「ふむ、収納持ちですが、馬車があるのは賢い考えです。たちの悪い商会に見付かれば、使い潰されるって言いますからね。っと、はい、荷物に案内いたします」


 家を出て、倉庫内を歩いてまわり、次々と荷物を収納していく。


 途中、アンラのお酒も忘れない内に聞いて見ると、手紙にもその事が書いてあったため、木箱に十二本のワインが入った物を受け取り、アンラが収納したのを見て、そこでも驚かれたが、結局、大型の馬車数台分にもなる荷物を受け取り終わった。


「いやはや凄いですね君達は。二人共に収納持ちなのも驚きでしたのに、荷物量があれだけあったから分けて収納するのかと思ったのですが、一人で収納できてしまうとは」


 いや、ゴブリンもすげえ数が入ってるんだよな。それだけクロセルの収納能力が桁違いってことだ。


 収納した品物の品名や数量、持っていく村に渡す人の名前、それに値段なんかも俺がもらってきた手配書に書き記し、間違いがないか確めて最後にコクリと頷いて手配書を閉じた。


「ケントさん、以上です。これだけの荷物を運ぼうと思えば、数十人分の依頼料が削減されますよ。しかし……マンガン会長が引き抜かなかったと言うことは、冒険者としてたまに指名依頼をする形なのですね」


「おう、俺も偶々たまたまあちこちの街や村に行く依頼を請けてたからよ、ちょうど良いだろ?」


 手配書を受け取り、馬車に戻る。


 何も積み込まずに馬車に乗り込み、別れの挨拶をして、倉庫内をぐるりと回る道を通って、入ってきた所から街へ出た。




 しばらく走り、大通りに出たんだが、まだ微妙に早い時間だ。

 隣ではアンラがもらってきたワインを取りだして、眺めている。


「飲んでも良いけどよ、どうする? 街を出るか、この街で宿を取るか」


「私はどっちでも良いけど、一番や近い村なら夜には馬車が通れるギリギリの所までは到着できるんじゃない? 地図は……」


 アンラが地図を見てくれるみたいで、クロセルに出してもらう。


 確か、ここを出て一つ目の夜営地までなら行けそうだったが……。


「これね、やっぱり一つ目の夜営地に行っておけば、そこから村に行く道があるはずよ」


「そうなんか、なら、馬にももうちっと頑張ってもらおうか」


 買い足さねえと駄目なもんはなかったはずだし、このまま出ちまうか。




 街を出て、来た道とは別の街に進み、眼科に見える、くねくねと蛇のように折れ曲がるゆるい下り坂を進んでいくと、草原の右手、遠くの方にグリーンウルフが一匹と、それに五人の冒険者らしき人影が見えた。


 冒険者が五人がかりで討伐しているようで、見ているちょっとした間にグリーンウルフは倒され、草の中に消えた。


「中々やるわね、素早いグリーンウルフを簡単に倒しちゃったね」


「おう、一匹だけだが声をあげて仲間を呼ばれる前に上手く倒したもんだぜ」


 と、そっちに意識を持っていってたら、街道を挟んで逆から近付く気配があった。


「アンラ、酒はしまっとけよ、こぼすともったいねえしな。ほれ、団体で来たぞ」


「ほんとだね~、にの、しの……八匹ね。手綱握っておくからケントが魔法でやっちゃう?」


「おう、間に合わねえと思ったら逃がさねえように頼むぜ、次の街で毛皮が売れるしな、傷付けて買い取りが下がらねえようにっ――」


 俺が握る手綱をアンラに手渡し、三センチほどの石弾ストーンバレットを出す。


 まだ五十メートル以上あるが、覚醒してグリーンウルフの眉間を狙い、投げていく。


「――しっ!」


 ビシュッと風を切り、一直線に近付くグリーンウルフに向かい、先頭を走る一匹目の眉間に突き刺さり、後頭部に抜けた。


「よし、小さくても速さがあって、狙いが合えば、動きの速いグリーンウルフでも十分だな――しっ!」


 続けざまに石弾ストーンバレットを作っては投げを繰り返し、七匹目を倒したところで目の前に最後の一匹が飛びかかってきた。


石弾ストーンバレット~、おしかったね~」


 手綱を片手で持ったアンラは俺が作った小さく体を突き抜けるような小さな物ではなく、大きく打撃を与えるようにグリーンウルフの胴体へ石弾ストーンバレットをぶち当てる。


 ゴシャと胸のあたりに命中し、こちらに飛びかかってきたはずが吹き飛ばしてしまう。


 吹き飛んだグリーンウルフは地面に落ちるよりも早くクロセルが収納してくれた。


もちろんクロセルが倒した獲物を収納してくれた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


時おり林のある草原の中を、くねくねと折れ曲がるゆるい下り坂を下り、まっすぐ下りてこれれば半分以下の時間で目的の夜営地に到着できそうな街道だった。


思ったより急で、まっすぐ進める歩きの方が早いんじゃねえかと思ったほどだ。


その夜営地に到着すると、先客がおり、すでにテントを張っている五人の冒険者パーティーと、五台の馬車が止まっていた。


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