第111話 山頂の街から出発
「おお! ケントさんアンラさんもこちらです!」
ジブリール商会のマンガンさんが宿の食堂で、待っているとは言ってたが、なんだか様子がおかしい。
大きな声で俺達を呼び、立ち上がって手を振っているんだが、まわりにいた人達も、俺達を見てニコニコと笑ってやがる。
「ケントさんが火傷を負った馬達を治療しているとここで言ったのですが、その後こっそり厩舎を覗きに行かれまして」
なんだ見てたんか、沢山練習できたからお礼なんか良いんだがと思ってたが。
「うちの馬達も治してくれてありがとう」
「若いのに凄いな、私の馬も治療いただき感謝です」
と、次から次へと感謝の言葉が飛び交い、案内されたテーブルには沢山の料理が並べられ、それに――。
「お酒が沢山! ねえねえこのお酒飲んでもいいの?」
アンラは空いてる席にささっと座り、ワインの瓶を手に取っていた。
俺も促されるまま、席に座り、目の前のオークステーキに目がいっちまってる。
「スゲー美味そうだな、こんなん食わせてくれんのか?」
「はい、馬の治療をしてもらった皆さんからのお礼ですので遠慮無く飲んで食べてください」
「「
俺達の挨拶の後はみんなも近くの席に戻り、食事を始める。
同じテーブルに座るマンガンさんも、食事を始め、お腹も落ち着いてきた時、荷物運びの依頼について聞いてみた。
俺達が向かう方面と、村名を教えると、何ヵ所か運ぶ予定の小さな村がある事が分かった。
「では、この街で仕入れられる品ではない物がありますので、向かう先はランタン伯爵領ですか……峠を降りたところにある街にジブリール商会の倉庫があります。そちらで荷を受け取ってもらえますか?」
「おう、手紙かなにか書いてもらえりゃ受け取って持って行っとくぞ、金はどうするんだ? 俺達がもらうと、元の街に帰るのは面倒だよな」
「次の街のジブリール商会に持っていけば良いんじゃないの? 大きな商会なんでしょ? 街ごとに支店くらいはあるんじゃないのかな?」
アンラの案はそのままとはいかず、冒険者ギルドに預ける方法が採用された。
はじめはジブリール商会の誰かを一人、一緒に連れていく予定だったそうだが、その分の賃金も節約できるから大歓迎とのことだ。
しかしよ、そんなに信用して良いんか? とも思うが、良いと言ってるから良いんだろうと納得して、食事を終わらせた。
部屋に行き、食事中に来た冒険者ギルドの出張所にいた姉ちゃんが『悪魔に魅いられた花嫁』の読めてなくて、抜けていたところの本も持って
俺は腹も満足して眠くなったから、クローセ達のご飯を出した後、寝てしまうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ケントさん、アンラさんこちらです!」
翌朝、階段を下りて食堂に入ったところでマンガンさんが声をかけてきた。
「おはようさん、席を取っててくれたんか?」
「はい、それに渡したい物がありましたからね」
席について、テーブルにトサトサっと束ねられた紙を出してきた。
近くを通ったおばちゃんに三人分の朝ごはんを注文して、出してきた物について聞くことにする。
一つはどこの村に何をどれだけ誰に渡して、いくら受け取るのか書かれ、束ねて本にされた取引品手配書と、次の注文を聞くための用紙と受け取りの署名をもらう用紙。
パラパラと取引品手配書をめくり結構な品数に量だと分かった。
これは運ぶために大人数を雇わないと無理だと素人の俺でも分かる量だ。
そりゃ多少多くても収納で持って行けて、俺達だけで行けるんなら俺達に報酬を払う方が安上がりだしな。
「峠の下にある街についてた後、ジブリール商会に向かってもらい、この取引品手配書をそこの者に見せれば、村ごとに荷を分けて準備してくれます」
「おう、分かったぜ、マンガンさんは一緒じゃねえんだな」
「はい、私はまだこの街での仕入れがありまして、少し時間がかかりますので」
マンガンさんは書類をひとまとめにして、なんか紋章の彫られた木箱に入れて渡してくれた。
この木箱の紋章がジブリール商会の紋章で、この箱がないと、いくら手配書があっても偽物か、盗んできた物とされ、捕まるそうだ。
忘れないようにしなきゃな。
そこへ朝ごはんが運ばれてきて、依頼の話は終わりかと思ったが、食べ終わった後、冒険者ギルドで村ごとの荷物運び依頼を出して、それを俺達が受けることになる。
後から考えると、冒険者としての依頼を請けれたのは、昇格するのに必要なことだから助かったし、依頼にはいくら持ち帰るかが明記されてっから渡し忘れなんかも防げるってもんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ちと遠回りになったが、昨日借りた本を返した後、大通りを戻り街を出た。
俺達は峠を下っているが、前も後ろも少し時間がズレたせいか、俺達しか走っていないし順調に初日の夜営地に到着。
二日目からは夜営地で一緒になった商隊の間に入り、何事もなく三日目のお昼過ぎに峠をくだりきり、ランタンに入って最初の街に到着した。
門を抜け、門番に聞いたジブリール商会に向かい、そこで聞いた街外れの倉庫へ向かう。
「お店と倉庫が分かれてるのね」
「店が街の中心にあったからよ、倉庫にできる場所が無かったのだろうな、っとあれかな?」
馬車が余裕でスレ違えるほどの道の先には、街壁にくっついた様に建てられている、飾りの無い石造りの大きな倉庫で、今もちょうど開かれた大きな扉から二頭引きの荷馬車が出てきたところだった。
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