第110話 宿屋での出来事

「協力感謝する」


「おう、なら俺達は衛兵の詰所には行かなくて良いんだな?」


 一旦冒険者ギルドに寄るみたいなことを言ってたが、盗賊六人の冒険者資格を取り消す間に、アンラの痛い自白ペインコンフェッションで洗いざらい白状させたため、一緒に来ていた衛兵達がその場で今回の火事と、余罪について色々と聞き出していた。


 あらかた聞き出せ、俺達が完全に被害者だった事と火事を消した事を、あの場で消火活動をしていた衛兵の証言で、俺達への用事が今のところなくなったようだ。


 消火に参加した際の報酬をもらい、俺とアンラは解放された。


 冒険者ギルドを出てすぐの所にある宿に向かい、焼けた左側の宿だ。

 おばちゃんは忙しそうに、客へ両手に持った料理を運んでいるのが見えた。


 俺達は受け付けの前に立ち、まだ若い姉ちゃんに焼けた宿に泊まる予定だったと伝えると、おばちゃんを呼んだ。


「お義母さん、お客さんだよ!」


「はーいよっ! ちょっと待ってねお客さん!」


 言ってた息子さんの嫁さんってことか。


 元気良くおばちゃんを呼び、おばちゃんは料理をテーブルに並べながら返事をした。


 こっちに来たおばちゃん受け付けをしてもらい、部屋の鍵を受け取った後、心配した馬を見に行くことにした。


 宿の裏手に回ると、沢山の馬が厩舎に入れられているのが見えた。


「あら、前の厩舎より大きいから馬達も広々ね、あ、あの子がいるわよ」


「だな、元気そうだし、煤も落としてくれたようだが、うちのじゃねえけどよ、何匹か火傷してるみてえだな、治してやっか」


 うちの馬、鼻先からおでこまで白く、茶色の牝馬なんだが、元軍馬で結構な歳だ。

 現役の時は大量の荷物を運んでいたそうだが、今はほとんど空荷の小さい小型の馬車を引いてもらっている。


 良く見ると、たてがみが少しだけ焦げてるようだが、火傷はない。


 その隣にいた黒馬は、お尻のところと尻尾の毛が焼けて、手のひら三つ分ほどの火傷を負っていた。


 早速火傷に向けて手をかざし回復ハイヒールを唱える。


 手のひらに魔力が集まり、光の玉が出て、馬のお尻に吸い込まれ――。


「うちの馬に何をしている! 離れろ! は?」


 ――た所へ声がかかり、走りよってくる時には馬の火傷が癒えていくところだった。


 背後から肩を掴まれたんだが声をかけてきたおっちゃんっぽい声の主は、そこで止まった。


「おっし、もう痛くねえだろ」


「うんうん、しばらくしたら毛も生え揃うんじゃないかな、良かったね~」


 アンラは火傷が治ったお尻をペタペタなでなでしてる。


「な、治った……回復ハイヒール? お前じゃない、君は回復魔法が使えるのか、じゃなくて使えるのですね! 素晴らしい! ありがとうございます! おお! ただれていて痛々しかったのに! 良かったなぁ」


 俺の肩から手を離し、ブンブンと頭を下げてお礼を言ってくるのを見ると、やっぱりおっちゃんだった。


 おっちゃんは治してやった馬のお尻をアンラと同じように触り、頬擦りし始めた。


「おっちゃんの馬だったか、勝手しちまったけどよ、あまりにも痛そうな火傷だったからな。他にもいそうだ、回復魔法の練習がてらやっちまうか」


「頑張ってね~、私はうちの子のブラッシングでもしておくね~」


 そう言うと、収納からブラシを出して、たてがみから始めた。


「しゅ、収納ですと! き、君達はどなたかの商会に所属していますか? もしどこにも所属してないのであれば、私共の商会『ジブリール商会』に入りませんか!」


 馬に頬擦りしていたおっさんがアンラのことを見て、ガバッと馬のお尻から顔を離してそんなことを聞いてきた。


「ジブリール商会? あっ、うちの村にも来てたところだな、でもよ、俺達は冒険者だから護衛をたまに請ける事はあっても商人にはならねえぞ」


「そだね~、まあ私はケントにくっついてるだけだからどっちでも良いけどね」


「いえいえ、入ると言っても、たまに荷を運んでもらう依頼を請けてもらいたいのです」


 手をブンブンと振り、俺の言ったことを違うと言い、馬車が行くのには不便な村などの店に荷を届ける仕事があるそうだ。


 今までは、近くの村や町までは馬車で行き、その後は何人もの人を雇って歩きで配達していたそうだ。


 そのために、その運んでもらう人用に馬車が必要で、村に届ける商品の値段がつり上がっているとのこと。


(ねえねえ、面倒だけど、私達が今回行く所だけなら良いんじゃない?)


 そうだな、小さな村にも手紙を届けなきゃ駄目だったからな……。


「なあ、俺は今、依頼で街や村をまわってるんだけどよ、その届ける村がその中にあるんなら……そうだな、依頼料に美味い酒をつけてくれるんなら構わねえぞ」


「ケント! それ!」


 アンラは目を輝かせ、抱き付いてきた。

 フルフルはソラーレの上でビクッとしてるし、リュックからは『ふにゃっ』って聞こえた。


 ……クローセすまねえ。


「くふふふ、その程度、人用に馬車を出して人を雇うことを思えばお安いご用です。あっ、私はジブリール商会商会長のマンガン・ジブリールと言います」


「ケントだ、こっちはアンラ、それにソラーレにフルフル、リュックの中にクローセがいる。とりあえず、他の火傷してる馬を治してしまうからよ、話は飯でも食いながらにしようぜ」


 ジブリールのおっさんは笑顔で頷き『では私が夕食をご馳走します』と自分の馬の顔を撫でてから宿に引き返して行った。


 それを見送った後、アンラが俺の頬にちゅっとキスをして、ブラッシングに戻る。


 俺も厩舎を見てまわり、火傷、たまに怪我してる馬もいたが一緒に治してしまい、回復魔法の良い練習ができた。


 アンラもブラッシングを終えて飯食いに戻ったんだが……。

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