第109話 盗賊達の仲間
ブオンと風を切り、俺が出した水の玉に向かって飛んだアンラの
「よし! アンラ、馬のところへ行くぞ、火傷とかしてなけりゃ良いんだが」
「そうね、していてもケントが治してやるんでしょ?」
その通りだと頷き、解放をやめアンラと手を繋ぎ、屋根から水浸しの大通りに飛び下りた。
「うおっ! や、屋根から! ってことはあのすげえ水魔法はこの子達が? あんなの見たこともねえぞ」
「きゃっ! 本当にこの子達が! ……す、凄いわねあなた達、隣の家に燃え移る前に消しちゃったもの」
飛び下りた途端に消火に協力していた冒険者や街の人達に囲まれてしまった。
バシバシと、ソラーレとフルフルが乗ってない方の肩や背中を叩かれて、褒めてくれてるんだが、それより馬を見に行きてえんだが……仕方ねえ、どいてもらうか。
「すまねえ、ちょっと通してくれ、俺達の馬がそっちに避難してたからよ、怪我とかしてねえか早く見てやりてえんだ」
「そうよ、もう! 退きなさいよね!」
そう言うと、囲んでいた人達は俺が指さした側の囲いを『そうだったのか』『おい、退いてやれ』『火消しの二人が通るぞ』『あら、可愛い子達なのに凄いわね』とか色々言いながらも道を開けてくれた。
人垣が割れた道の先、宿から少し離れた所に見えた俺達の馬と、一緒に泊まっていた人達の馬が十頭ほど固まって、宿屋の受け付けをしてくれたおばちゃん達が手綱を持って落ち着かせている。
急いでそこに向かい、見た感じは
「おばちゃん怪我は無いか? 馬達も怪我してんなら治すぜ」
「あんた達は……あっ、泊まり客だね、覚えてるよ、大丈夫だったかかい? 私達も、預かった馬達も大丈夫なんだがね、宿が燃えてしまっただろ? 部屋にあった荷物なんかは持ち出す時間がなくてね」
「いや、俺達は荷物を置きにも行ってなかったから怪我が無ければ俺達は問題ねえよ。……でもよおばちゃん、なんで燃えたんだ?」
聞けば二階の部屋から火が出たそうだ。
俺達は部屋をとって、馬を預けた後すぐに山頂を目指したからな。
元々荷物はクロセルに収納してもらっているから関係ねえが。
「それでね、火が出たのはあなた達が取った部屋なんだけど、なにか知ってるかい?」
「は? 俺達はまだ部屋にも入ってねえぞ? 受け付けして馬を裏手の厩舎に預けに行ったまま山頂へ登ったからよ」
「そうだったね、なら不思議なこともあるもんだね、確かにあんた達に案内する部屋から火が――」
そこで思い出した。確か山頂で襲ってきた奴らの仲間が馬車と部屋に行くって言ってたぞ。
「ケント、アイツらのしわざよねこの火事って、それしか考えられないんだけど。どうせ何もなかったから腹いせに火をつけたんじゃない?」
Bランクになりそうな冒険者だったか……。
アンラの言葉を聞いて、思い当たったのか、まわりをキョロキョロと見始めたおばちゃん。
「なあおばちゃん、宿にBランクになりそうって言いふらしてる冒険者は宿に来てねえか? たぶんソイツらが火をつけたんだと思うぜ」
「まさか……でもあのお客さん達は確かにあんた達が泊まる部屋のある近くの部屋に居座ってたけど……いたっ! ねえあんた達、ちょっと聞きたいんだけど」
少し離れたところ、宿から大通りを挟んだ向かいにある家の壁際で、沢山の荷物を抱えた三人が、おばちゃんの声と振る手でこちらに気付き、えっちらほっちらと荷物を持ってやって来た。
「どうした女将さん、俺達への迷惑料でも払ってくれるのか? まったく、あの部屋に泊まった奴らは何かやらかすと思っていたがとんでもない事をやって逃げ――ってなんでガキどもがいやがる! アイツらしくじったか――あっ!」
「俺達がなんだって?」
大人や馬に囲まれていたせいか、俺達の事は見えていなかったようだ。
それに、火を消して、屋根から飛び下りた時に俺達を見てなかったんなら、火消しも手伝ってなかったんだな。
「い、いや、そ、そうだ、お前達が部屋に火を放ったんだろ! どうしてくれるんだ! もうすぐにBランクの試験を受ける俺達にこんな迷惑をかけやがって! 有り金全部出してもらおうか!」
何言ってんだコイツ、無茶苦茶だな。
三人の男達は腰の剣に手を掛け、カチャリと少しだけ抜いた所に一人のおっさんが人をかき分けやってきた。
「待て、お前達三人には衛兵の詰所に来てもらおうか」
「誰だお前って、ギルマス? どうしたんだこんなところで? 放火した犯人ならこのガキどもだ、捕まえるんなら銀貨五枚でBランクになる俺達が手伝うぜ、手足の骨でも折れば逃げられねえだ……ろ?」
いやいや、ギルマスが来たってことは出張所の姉ちゃんが報告したってことだろ? 放火じゃなくて、盗賊行為の方で来たんだと思うが……。
人垣の中に入ってきて三人の前で止まると、後ろからも、中々強そうな兄ちゃん達がゾロゾロと六人がついて来て、ギルマスの横で止まった。
その手にはロープを持っている。
そしてさらに後ろから衛兵が五人、こちらは煤まみれの四人と、良く見たら出張所まで一緒に行った衛兵のおっさんだった。
火事の消火をしていた仲間を連れてここに来たようだ。
「お、おい? こんなガキ二人を捕まえるにしちゃAランクパーティー連れて来て、衛兵までとは大人数じゃないか?」
「捕まえるのはお前達三人だ、仲間の三人は盗賊として捕まり全てを話してくれたそうだぞ。抵抗せず大人しく捕まることを進めるが、この人数で抵抗するか?」
ギルマスがそう言った後、後ろに控えていた者達が三人を取り囲み、Aランクが相手だからか、文句は言うが抵抗せずにロープで縛られてしまった。
「おい! そっちのガキどもは捕まえねえのか! 火をつけたのは――」
「黙れ! 火が出た時間にこの少年達は街の外でお前達の仲間に襲われていたんだ、どうやって街の真ん中にある宿に火をつけられると言うのだ!」
そう言われてしまえば黙るしかねえよな。
だがギルマスは俺達の方を向いて、コクリと頷き冒険者ギルドを指さした。
「すまないが少年達も話を聞きたい、ついてきてくれるかな?」
「だよな。でもよ泊まるところはあるんか? 燃えちまったし、馬も預けたいんだが」
俺の心配事は、宿屋のおばちゃんの一言で解決した。
燃えてない両隣も、おばちゃんの旦那さんと息子が営む宿だったから、そこに部屋を取ってくれて、馬もそちらに移してくれるそうだ。
仕方ねえが、まだゆっくり休めねえようだ。
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