第77話 あっ……またやっちまったか?

「副近衛騎士長と、副魔道師長をお連れしました」


 そう言いながら帰ってきた王子様とおっさんは、苦虫を噛み潰したような顔をして、床に視線を落としたまま入ってくる。


 それと正反対に、開いた扉を見ていた俺の顔を見て、笑みをこぼして入ってくる二階層で指揮をしていた近衛騎士の副団長。


 その横にいたシバく予定の副魔道師長は、目をキョロキョロと動かし、俺や王様達の顔や、全身を舐めるよう見て顔をしかめて俺達が座るソファーの横にやってきた。


 おろ? 後ろ手に縛られてんな……やっぱフレイムトルネードを放った事がヤバかったんだな、あそこにいた全員の命が無くなっちまうところだったし、捕まって当然だな。


 □■□■□■□王妃様・王様・公爵様

 ┏━━━━テーブル━┓ □王子様

 ┃     ┃ □おっさん

 ┃     ┃ □副近衛騎士団長

 ┗━━━━━┛ □副魔道師長


 □□■アンラクローセ


 副魔道師長は、副近衛騎士長に頭を掴まれ、無理矢理下げられると、そのまま床に跪かされた。


 おっ、おいクローセ、シバきに行くのはもうちょい後からだからな、待っとけ。


 俺の右隣にいたクローセが、モゾモゾと戦闘態勢になってる。


 まだ早いと背中に手を置き撫でて落ち着かせていると、三人が揃って礼をした後に副近衛騎士団長が、報告を始める許可を王様に求めた。


「うむ、近衛の副団長は二階層を調査していたな、どんな状態だったか説明を許す」


「はっ!」


 王様はとりあえず副魔道師長の事は放っておいて、少し頭を下げて返事を待つ副近衛騎士長を見詰めながら快く許可を出した。


 副魔道師長の顔を上げさせないように、押さえ付けながら話を続ける。


 聞いていると、王子様率いる一階層の調査する近衛騎士達と分かれ、二階層への階段を下りている時だったそうだ。


 前を騎士団、後方を魔道師団が列を作り、後少しで二階層へ到達するって時に、魔道師達の列を分断するように魔物が出たと叫び始め、後ろを見ると、完全に後方を分断されていたらしい。


 近接攻撃の苦手である魔道師達は、ゴブリン達に追いたてられ、一階層向けて走り上る様子が見え、近衛騎士団側の残りの者達は、二階層へ向けて我先にと階段を走り下りてくる、その者達に押されるように、近衛騎士達も二階層に走り出たそうだ。


「――そこで円陣を組み、中に魔道師達を入れた後、ゴブリン多さもあって、防御に徹しながら援軍を待っていました」


 そこで一旦言葉を止めた。


 そして俺の方を見てまた笑顔になった後、王様に向き直り話を続ける。


「そこにケント殿がエンペラーキャットを従え、我々を包囲していたゴブリンを蹴散らし始めたのです」


「ぐっ!」


 あはは、副近衛騎士長は副魔道師長の頭を握り潰す気か? 痛がってんぞ。


 ふう、短く息を吐き、頭を掴んでいた力を緩め、今度は髪の毛を掴んだ。


「ですがこの者がこともあろうに援軍であるケント殿の従魔に向かってファイアースピアを撃ち、それを防がれた後、魔道師団者達を先導し、こともあろうにフレイムトルネードを唱え、発動させました」


「ではやはり、ケントが言ってたようにフレイムトルネードを遠くにぶっ飛ばしたと言うのは……」


「コバルト公爵様、真です。従魔のエンペラーキャットに跨がり我等を飛び越えながら、頭上に浮かび、渦を巻き始めたフレイムトルネードを、魔力を纏った剣で遠くに弾き飛ばしてくれました」


「なんと……だから副魔道師長は皆を危険にさらした罪で拘束しているのだな」


 うっし、そろそろシバかせてもら――。


「いえ、それだけではありません。この者はゴブリンを排出する魔道具を仕掛けた本人でもあるそうです」


 は? 自分で仕掛けて自分でかかったのか?


「フレイムトルネードを唱え終わった直後、気絶したのですが、あまりにも動きが怪しかったため、その際奴隷の魔道具を嵌めて詰問をしたのですが……」


 言いよどんでいるが、なにかあったんか?


(ぬぬぬぬ! うそ! 三巻に続いてるじゃない! 大公爵のアスタロトが出てきたのに、ここで続くわけ!? さ、三巻三巻)


 ま、まあ良いけどよ、こっちも良いところだぞ……。


 アンラが小走りで本棚に走っていくのを、横目で見ながら副近衛騎士長の話に意識を戻す。


「――そこで無理矢理起こして今回、なぜこんな事をしたのかと聞いたのですが、この騒ぎでダンジョンに近衛や他の騎士達が集まるのを利用して、地下に捕らえられているリチウムや宰相を暗殺ギルドが助けに来る手筈だったとの事です」


 おいおい、暗殺ギルドが城の偉いさんにまた潜り込んでるじゃねえかよ……。


 まあ、だから俺が助けに来て、ゴブリンをバタバタ倒しちまったから、騒ぎが早く終わらないように俺達を攻撃してきたんだな。


「なんだと! それでは今まさに暗殺ギルドが地下に入り込もうとしているのではないのか!?」


「王様ご安心を、すでに副魔道師長から聞き取った、近衛騎士、魔道師団に紛れた暗殺ギルドの者達を拘束し、地下牢に捕らえた後、無実の者達で守りを固めています」


「うむ、よくやった副近衛騎士長よ、他に何かあるか?」


 話は以上のようで、宰相達と同じように暗殺ギルドの情報を引き出すため地下牢に連れていくそうだ。


 するとクローセは、俺の手からスルリと抜け出しソファーから飛び降りると、副魔道師長の前にトトトと走りよる。


 目の前で止まって後ろ足で立ち上がった瞬間、ピョンと少し飛び上がり、バコンと左前足で、副魔道師長の横っ面をシバいた。


 副魔道師長は横に吹っ飛び、ドゴンと執務室の壁にまで飛んでぶち当たった……。


 副近衛騎士長に掴まれていた髪の毛は抜けてハゲができてる。


 副騎士長の手の中にはまあ、ごっそり毛が握られているのが見えた。


 こりゃ、俺がシバくの無理じゃね? 顎が砕けてるみてえだし……ま、まあクローセの尻尾の仇はとっておいてやるか。


 俺は立ち上がって魔力を回して、副魔道師長の毛だけが燃えるように小さな炎を出し、狙いをつけてポイっと放り投げた。


「あががががが!」


 顎が外れてるから言葉になってねえが、見事に頭へ命中した炎の玉は、ほんの数秒で炎が消えるまでに、千切れず残った毛はほぼチリチリにしたから、クローセも許してくれんだろ。


 ソファーに座り、俺の横にクローセが戻ってきて座り、撫でながらまわりを見ると……。


 あっ……またやっちまったか?

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