第78話 依頼の終わりと始まり

 壁際で頭から煙が立ち上っている倒れた副魔道師長以外が、ソファーに戻った俺とクローセを見ながら唖然として固まり、口をポカンと開けている。


「エ、エンペラーキャットだったな、普通の猫に見えていたから失念していたよ……後ケントの魔法も色々と言いたいが、今回は不問としておこう」


 数秒経ったところでやっと王様が声を出し、みんなも開いていた口が閉じた。


「そ、そうですね兄さん。ケントの事は国で管理するより、冒険者ギルドが目を光らせておいた方が良いだろうな」


 よく分かんねえが、俺は冒険者が良いな、騎士とかも格好いいけどよ。


「それから、叙爵の見直しだ、一代限りの準男爵ではなく、男爵、功績的には子爵でも良いと思うのだが……兄さんはどう思う?」


「うむ、他の貴族達も色々と今回の件に関わっていそうだからな、席も空くだろうし、反対しそうな宰相もいないから、すぐに処理できるだろう」


 壁際でぐったりしている副魔道師長を無理矢理立たせ、執務室から副近衛騎士長が執務室から引きずるように連れ出し、部屋の前で待っていた部下に引き渡し戻ってきた。


「でだ、ルテニウム、以前からコバルトと相談していたのだがお前、冒険者を経験してこい、この閉鎖した城の中だけの経験ではお前に王位は譲れんのでな」


「お待ち下さい! 私は近衛騎士団の団長としての職務が――」


「構わん! ルテニウムよ、民の暮らしに触れて成長してくるのだ、それまでは王位継承権一位から二位に下ろし、テルル第一王女を一位に上げて、お前がやっていた公務も任せておく」


「そうだな、テルルは幼少時から街に出て民とふれ合っておったからそのあたりはルテニウムより格段に優れているぞ、冒険者の登録もしているし、もうすぐ従者と共にBランクになりそうだぞ、兄さんも知っているよな?」


 王様と公爵様に言葉を遮られ、口を挟むこともできず、なぜか俺の顔を見て怒り顔だ。


「それからお前もだぞ、ルテニウムの従者だからな、一緒に頑張ってこい、そうだな、せめてテルルが上がるだろうBランクにはなってこい」


 王子様の隣にいたおっさんにも飛び火して、冒険者にならねえと駄目らしいな。


 いい歳して、Eランクからか……ま、まあ、辞めさせられるって言っても、近衛騎士団なんだから多少の討伐くらいは余裕だろ。


(ん~、見てるとそんなに強くなさそうだよ、ケントが覚醒してなくても余裕で勝てそうだもん。王子とその従者って立場で上に立ってただけじゃない? そこの副近衛騎士長の方が全然話にならないくらい強いよ~)


 アンラ、それマジかよ……んじゃちと苦労するだろうな、一人だとゴブリン十匹もいたら負けんじゃねえか? まあ、数年で上がれたら良い方だ、見たところ二十半ばだから三十歳くらいには戻ってこれっだろ。


(真面目に頑張ればそんなところでしょうね、ってより『悪魔に魅いられた花嫁Ⅲ』がないの! 良いところで止まったら気になって仕方ないじゃない!)


 うん、そりゃ気になるが、王子達が泣きそうなんが心配になっちまうよ。


「分かりました、仲間を集めればBランクなどあっという間ですから!」


「いや、テルル同じように従者とで頑張るのだぞ」


「は? ふ、二人でですか? Aランクのパーティーを従えようと思っ――」


「馬鹿者! それでは王子の身分を使っているではないか、身分はあかさず、王子とバレずに他の冒険者と同じよう日々依頼を請け、宿に泊まり、民の生活を感じてこい、それまでは戻ってくる事は許さん」


 王子様は足に力が入らないのか、ガクガクと震える膝に手をつき、前のめりに倒れそうになっているが、それをおっさんはなんとか支えている。


「よし、この話はこれで終わるが、まずはお前達、ケントに謝罪をせねばな、あのままだと見た通り、少年に向かって二人がかりで剣を抜くところだったのだ、まずはそこからだな」


 あ~、まあ謝って貰わなくても良いんだけどよ。


 二人はなんとか俺に謝り、明日の朝、王城を出発する事に決まった。


 一人金貨五枚だけで、後は平民達が着てるような服だけを着て行くそうだ。


 まあ、準備金で金貨十枚ありゃあ駆け出しの冒険者なら十分過ぎる装備が買えっだろ。


 二人は明日の準備のため執務室から出て行き、副近衛騎士長もついて出ていった後、叙爵した証であるナイフ……仮で王家の紋章入りを貰い、家名入りの物は後日受けとることになった。


 そして俺が請ける依頼について話を聞いて、部屋に戻ってきたんだが、ちと面倒なことになっている。


 請けた依頼だが、この国のダンジョン街にも行けるのはよしとしよう。


 どうせ冒険者ギルドを巡って手紙と魔道具を渡すって話だから、その内行くことにはなってるんだが、俺がまわるところはギルドも何もねえ場所までありやがった。


『ちょうど良いですね、ケントの修行には良い場所ですよ、魔族も住む地域ですから魔物も豊富ですし、タイラントカウの肉は絶品と言われています』


(タイラントカウ! あれがいるのね♪ 美味しいわよ、食べ過ぎて今度は魚が食べたくなったくらいいっぱい食べたわ)


 いやいや、魚を食い過ぎて封印されたんだろうが……。


 新緑の森なんだが、確か魔族だけじゃなく、エルフが住む村もんあんだよな……その奥はドワーフもだったか。


 優先順位がついてっけど、上の方だな……なんにせよなんか楽しみがあるんはやる気も出るってもんか。


 ゴタゴタしたが、王都での用事は終わった。

 アシア達を村に送り届けてから俺はこの依頼に取りかかる。


 他の冒険者も参加する依頼なんで、ちと出遅れる形になるが絶対一番で終わらせてやる。


 んで、なんでか子爵への叙爵は略式で終わったが、この依頼が終わった後に国中の貴族が集まり、正式な叙爵式があるらしい。


 面倒くさいぞ……。


 ソファーに座る俺は、クロセルを手に取りやすい近くに置いた。


 今日泊まる部屋を見渡すと、どこからか『悪魔に魅いられた花嫁Ⅲ』を見つけてきて読み始めた寝台の上で寝転ぶアンラ。

 その横で丸くなり寝ているクロセル。

 そんで俺の肩でぷるぷるしてるソラーレと一緒にこの国を巡る冒険の旅が始まる。


 そう思うと、今夜は興奮して眠れそうもねえな……。




(ぬおー! まだ続くじゃない! やっと王子を追い詰めたのに『悪魔に魅いられた花嫁Ⅳ』はどこにあるのよ! ん? ケントったらソファーで寝ちゃってるじゃない)


『アンラ、ケントを寝台に移してください、覚醒を続けていましたから相当疲れていたようですね、明日は村に向けて出発準備をしないといけませんから』


(仕方ないわね、褒美は王都のお酒ね、うんしょ、どっ――こいしょ、ふう、続きの本は無いし、私も寝ちゃおっと、おやすみケント……)

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