第76話 執務室で怒られた

「はぁ、ケント、いきなりベランダから飛び下りるから驚きもあったが心配したんだぞまったく……それで溢れた魔物は全部倒したんだな?」


 ソファーに案内されて、出掛ける前の位置にアンラも一緒に座ったんだが、いきなり公爵様が話しかけてきた。


「おう、そこの王子様にも言ったけどよ、魔物、ゴブリンを産み出してた魔道具の回収も、二階層で騎士と魔道師達が囲まれてたのも、途中にいたゴブリンもやっつけたぞ」


 王子様と、怒ってた騎士のおっさんも連れて王様の執務室に帰ってきたんだが、公爵様、王様に王妃様はあきれた顔で見てくる。


 心配させたのは悪いが、ちゃんと帰ってきたぞ? なんだよ三人ともそんな顔されっといたたまれないじゃねえか。


 向かいに座る三人がまた耳打ちで『なんにせよよかったな兄さん』『そうですわね、また褒美を……子爵はどう?』なんで事を言いながら王様が頷き、今度も王妃様がお茶を用意するため立ち上がった時、また騎士のおっさんがまた唾を跳ばしながら怒鳴ってきた。


「小僧! 立ち上がらんか! 座れとも言われてないのだぞ! 王子様でさえお座りになっていない場で、先に座るとは不敬である!」


「あーそっか、飛び出す前に座ってたからよ、良いんかと思ってたぜ」


 俺は立ち上がっておく。


 素直に立ち上がった俺を見て、騎士のおっさんは満足そうに頷いた。


「それでよ、公爵様、二階層でゴブリンに囲まれてた騎士と魔道師達を助けた時なんだが」


 ずっと担いでいたリュックを下ろし、中で寝てたクローセを引っ張り出して王様達に見せてやる。


「副魔道師長とか言う奴が、仲間のクローセに攻撃しやがった、その後フレイムトルネードまで使おうとしたんだぞ、後でボコボコして良いだろ?」


「んにゃ~」


 起こすなよって感じで俺の方を見上げてくるクローセ。よく見ると、やっぱり尻尾の先がほんの少しチリチリになってた。


 後で直らねえかアンラに聞いてみるか、今は本に集中してるからな。


「フレイムトルネードだと! それを副魔道師長がダンジョンの中で使ったと言うのか!」


 そう叫び、公爵様はバンとテーブル叩き立ち上がって聞いてきた。


「まさかあり得ん! いくらダンジョンとはいえ、そんな魔法を使えば騎士どころか自身にまで負傷を負うだろう事は明白! それを助けに来たお前達に向けて放ったというのか!」


「おう、ほら見ろよ、ファイアースピアをはたき落とした時についた焦げがあんだろ?」


 クローセのしっぽをさらに見やすいように前に突き出し、みんながそこに集中する。


「だがフレイムトルネードは俺が遠くへぶっ飛ばしたからみんな無事のはずだ、もう少ししたら帰ってくるだろ? そこで聞いてくれよ」


 クローセは戻して欲しいのか、体をくねくねと動かし、俺の手から逃れようとしてっから、リュックを置いたソファーにおろしてやる。


 だが、俺がソファー方を向いている内に、またおっさんか文句をつけてきた。


「そんな事が信じられるわけ無いだろう! 副魔道師長のフレイムトルネードは、何十人もの魔道師と魔力を併せ、八年前の王都を襲った数千匹のスタンピードで半数以上の魔物を焼き付くした魔法なのだぞ!」


「その通りですケント殿、この者の言う通り、凄まじい威力の魔法を君のような少年がなんとかできるはずがありません。王の前での嘘は重罪ですよ」


 今度は王子様だが、言葉遣いは丁寧だ、でもよ、顔は怒り、体もプルプルと震え、おっさんと同じように腰の剣に手をやっているほどだから相当怒っているようだ。


 俺は嘘もついてねえし、本当の事しか話してねえのに、困ったもんだぜ。


(二階層にいた人達が帰ってくるまで別の話しに切り替えたら? 例えば孤児院の子供が売られてる話とか)


 アンラがそんなこと言うが……。


「黙れルテニウム、そちらのお前もだ、ケントは私とコバルトの客人としてここにいる、二階層に行った、副近衛騎士長と副魔道師長を連れてこい。それと魔道師長もだ! 下がれ!」


 王様は立ち上がりそう言うと、王子達は手を掛けていた剣から手を離し、戦闘の構えのため落としていた腰を上げ小さく頷くと、ギロリと怒りがおさまらない目を俺に向けた後、くるりとその場で向きを変え、執務室を出ていった。


「ふぅ、ケント、少しコバルトに言葉遣いを教えてもらえ、私は即位前にコバルトと同じよう冒険者をしていたからな、多少の言葉遣いは気にしないんだが、はは」


 王子達を見送った後、ボスンとソファーに腰を下ろし、強ばっていた顔を手で撫で付け、王様は空気が漏れるように笑った。


「だから言っただろ兄さん? 過保護が過ぎるって、騎士団の中でチヤホヤされてるだけじゃ王として次代が心配だぞ」


 公爵様があきれたような顔で王子達が出ていった扉に顔を向けている。


「はいはい、お茶を入れますよ、お座りになってね」


「おう、王妃様ありがとうな、いただくぜ」


 ポスッとアンラの横に座り、ちょうど良いなと思い、聞いてみる事にする。


 王妃様は湯気が出てるお茶を、音もなくみんなの前に置き、ソファーに座ったところを見計らって俺は声を出した。


「ところでよ、孤児院はどうなんだ? 調べてんだろ?」


「ああ、孤児院は孤児院で頭の痛くなる状況だな、幾人もの貴族が手を貸しているようだ」


 入れてもらったお茶を口にして、公爵様が話し始める。


「まだ調べている最中だが男爵、子爵達の中には本当に養子や子供の従者、メイドとして、迎え入れた者もいるにはいるが、その者達は正規の決まり通りに背いてはいない」


 ん? なら子供達が嘘をついたんか? 嘘をついてるようには見えなかったが……。


「だが……中には不自然に何度も子供達を手にしてる者がいる。貴族もそうだが、ある商会の名前が上がってきていてな、思ったより調べが進んでない」


 そこはまだ調査しているらしい……なんか根が深そうだ。


 数日中には調べ終るそうだが、王様達が動いて調べんのが遅れるような奴って何者だ?


「コバルト、宰相達にも話を聞いてみてはどうだ? 奴等も正規ではあるが上がった名前に入っていただろ? 暗殺ギルドが絡んでる可能性も――」


 そこで執務室の扉が叩かれ話が止まり、ダンジョンの二階層にいた者を連れて、王子様達が帰ってきたようだ。

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