第71話 二階層で

「す、すまねえ!」


 慌てて手を胸からずらして謝っておく。


「も、もう、責に――ん、じゃなくて仕方ないわね。ほらほら下りるわよ、ちゃんと掴まっておきなさい」


 斜め上に上昇し続けていたが目的地も分かったため、大岩に向けて降下を始める。


 近付くにつれて見えてきたが、大岩の上にも兵士が数人いる。


「アンラ、兵士がいるぞ、逃げ損ねたようだな」


「そだね~、まあ、そんなの放っといて階段に突っ込むよ? 良いんだよね?」


『はい、まずは入って見ないと、魔道具がどこにあるかは分かりませんから、そして見付かったなら、すぐに収納してしまいますので、後はゴブリンを倒すだけです』


「おう! そしたら先に二階層を片付けんぞ!」


 地面が近付いてきて、大岩の割れ目に下へ続く階段が見えた。


 まっすぐそこに向けて高度をさげ、ゴブリンの多さにうんざりするが、階段から外に出た、うじゃうじゃといるゴブリンに比べると、階段から出てくるゴブリンは、それほど多くない。


 こりゃ、表に出て集まってから列をつくって外に向かってるようにしか見えねえ、また、魔物寄せみたいなもんを使ってるとしか思えねえぞ。


「突っ込むよー! せーのっ! 眠りヒュプノス!」


「おう! 離れっぞ!」


 クロセルを重りがわりに振り下ろしながらアンラの背中から手を離し、クロセルに引っ張られるようにアンラより少しだけ早く地面に着地した。


 俺は斜め前に地面をけって進みアンラの横に並んで走る。


 アンラも着地した後まっすぐ前に進む。


 寝てしまって地面に転がるゴブリンを飛び越え進み、階段に到着したんだが、階段から上ってきたゴブリン達と目が合った。


「おりゃ! せりゃ! おらっ!」


 目が合い驚いて止まっているゴブリンを二匹ずつ切り捨てて、二人そろって階段踏み込んだ。


 入って分かったことだが、やはり階段を上がってくるゴブリンはそう多くねえ。


 魔道具で現れるゴブリンの数はそれほど多くはなさそうだ。


 一階層と二階層を繋ぐ、下り階段のちょうど真ん中あたりで壁近くからゴブリンが顔を出したのが分かった。


「あそこにっ! 魔道具があるみたいっ! ねっ! 邪魔だよ、えい!」


「のっ! ようだな! っと! あそこまでいくっ! ぞっ!」


 話をしながらゴブリンを苦もなく切り捨て、出て来たところの壁に走りおりる。


 そこにあった物は、どこにでも落ちてそうな、手のひらに隠せる程度の石ころだ。


 ゴブリンは倒してきたから沢山落ちてるが、それ以外何も落ちていなかった階段に落ちてるんだ、怪しすぎるだろ!


 目に気合いを入れて、その落ちてる石を見る訳でもないのになんか、ダンジョンに入ってからずっと感じてた魔力と違う魔力をその石から感じたほどだ。


「クロセルこれか!?」


『それです! 収納! これでゴブリンの追加はなくなりました、急いで二階層にいる方達を助けに行きましょう!』


 石ころの魔道具をクロセルに収納してもらった後、俺達と叫ぶゴブリンの声、切られ倒れる音に気付き、階段を上ってくる怒り顔のゴブリンを、俺とアンラは走り下りながら切り捨てていく。


「うらっ! よし二階層に入るぞ!」


「あっ、戦ってる声が聞こえるね~」


(ここからはまた念話にするよ~)


 アンラの言う通り、階段を下りきる前から二階層から戦っている音と声が聞こえている。


 出たところには、一階層で見たゴブリンの数とは比べようもないくらい少ないゴブリンが、五十人ほどの騎士達を取り囲んで攻撃を仕掛けているのが見えた。


『見事な陣形ですが長くは持たないです! ケントにアンラ、私達はゴブリンの背後から攻撃して手助けしますよ!』


 見たところ、ゴブリンの数は騎士達の倍以上、百匹は軽く超えているようだ。


 流石騎士と言うだけあって、槍で突き刺し、盾で打撃を加えてゴブリンからは多少の傷は受けているようだが、倒れているヤツは見えない。


 俺達は声も出さずゴブリン達の背後に走りより、攻撃を開始した。


 クロセルに魔力を流して薙ぎ払い、アンラも両手の爪を伸ばして切り刻み始めると、騎士達も俺達に気が付いたのか『援軍が来たぞ! 後一息だ、気を抜くんじゃないぞ!』と攻勢を強め、倒れるゴブリンが増えてきた。


 クロセル収納を頼む! 足元のゴブリンが邪魔だ!


『任せて下さい! 収納! クローセも手伝いなさい!』


 クロセルの一声に、背中のリュックから顔を出して飛び出てきたクローセは、この間のように大きくなり、騎士達を取り囲むゴブリンの周りをぐるりと走り回りながら、体当たりではね飛ばして行く。


「エンペラーキャットだと! ゴブリンだけならなんとかなるがもう駄目――何!? ゴブリンを弾き飛ばしているだと!?」


「こいつは味方だ! 攻撃すんじゃねえぞ!」


 クローセを見た騎士達が動揺して攻撃の手がゆるんでしまったが、俺の声を聞き取り、反応してくれた。


「何だと! だかゴブリンを倒してくれているだと!」


 すでに二周目のクローセを見てなんとか納得してくれそうだ。


 騎士達の中で一人マントを装備した大男が声を上げた。


「エンペラーキャットは味方のようだ! ゴブリンにだけ集中するぞ!」


「「おう!おう!」」


 それからは早かった。


 騎士達も士気が上がったのか、倒す早さが目に見えて良くなり、クロセルが収納していく早さもあがったほどだ。


 しかし、これだけの戦闘音が聞こえてるからあたりまえだが、元々この二階層にいたであろう緑色の毛皮を持つ、グリーンウルフが集まりだした。


 だが、クローセが周りを走り回るせいで遠巻きに見ているだけだ、ゴブリンの後で十分だな。


 しかし、騎士達が作る陣形の真ん中から、炎の槍、ファイアースピアが走り回るクローセに向けて放たれた。


「なに! クローセ危ない!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る