第70話 一階層と

「ルテニウムよ何事だ、お前は近衛騎士団を率いて調査をしているはずだが」


 父上と呼んで、答えたのが王様ってことは……王子様かよ! ま、まあ王子様なら、こんな入り方してもまあ、良いことじゃねえけど許されるんかもな。


 その王子様と、後から来た三人もソファーの横で立ち止まり、綺麗に整列して何かを喋ろうとしているが、俺を見て、口をつぐんでいる。


「ルテニウム、このケントはダンジョンの事を知るものだ、構わんから続けよ」


 王様の許しの後、話し始めた王子様なんだが、よく見ると良い感じの革鎧が傷だらけだ、他の騎士も同じように爪痕が残っている。


 小さい傷だが多いなとジロジロ見ちまったが、王子様は王様の言葉を聞き、頷いてから話し始めた。


「はっ! 一階層から二階層に通じる階段に魔道具らしき物が取り付けられて、そこから魔物が次々と溢れてきています!」


「なんだと! 誰がそんな事を! では二階層以降に進んでいた者達はどうなっている!?」


「連絡は取れていません、近衛騎士団でも主力の者達がいますので、そうそう全滅も考えられませんが、このままでは体力が尽きて――」


 おいアンラ! 助けに行くぞ!


「王様! 俺が行ってやる! 任せとけ!」


 俺が窓に向けて走り出すとすぐに、アンラは本を開いたままだがついてきた。


(今良いところだけど仕方ないわね、行くわよ! ほいっと!)


 バンと乱暴に窓を開け、ベランダに飛び出した俺達は、ベランダの柵を飛び越えお城の中庭に向けて飛び下りた。


「た、高いじゃねえか!」


 後ろから『待つのだ!』と公爵様が追いかけてきたが、飛んでしまった後だから待てる分けない。


(もうケントは確認してから飛び下りなさいよね、うんしょ、ほいっと!)


 ガシッと背負ったままのリュックをアンラが掴み、眼下に見えていた、庭にぽっかり空いた穴に向けて軌道修正してくれる。


 穴の回りは頑丈そうな石組の壁を組んで、高さも五メートルはあり、入口だけは鉄で補強された木の扉だ。


 外には王子様達と同じ革鎧を装備した騎士達がいるんだが、中はゴブリンが次々と穴から出てきているのが見えた。


(壁に着地して、ゴブリンだし突っ込むよー)


「うっしゃぁー! 行っけぇぇぇー!」


 一メートル近い厚みのある壁にダンと着地して、一歩踏み込み真ん中の、ゴブリンが湧いて出てくる穴に向かって飛び下りる。


(着地は任せて! 眠りヒュプノス!)


 アンラが俺達の着地場所にいる、ゴブリンに向かって左手を伸ばし、眠りヒュプノスを唱える。


 その効果はすぐに現れ、直径五メートルほどの範囲でバタバタと倒れていくゴブリンを、踏みつけないようにして着地した。


「一気に行くぞ! 遅れんなよ! しっ!」


(誰に言ってるのよ! ケントこそ遅れないでよね! えいっ!)


 ズバッ!ザシュ!と行きなり現れた俺達に驚き、動きが止まったゴブリン。


 着地と同時に穴に向かって走り、一気に数匹のゴブリンを、俺はクロセルで倒し、アンラは伸ばした爪で切り裂いて、正面を切り開いた。


「ケント! ほいっと! このまま突っ込むの?」


 俺がクロセルを振り、引き戻す合間にアンラは伸ばした爪を振る。


 交互に振るため振りきった後の隙に、ゴブリンが近付いてくるのを防ぐ。


 そこまでしなくても、その場で戦うだけなら問題ないが、今は少しでも早く進んで魔物を産み出す魔道具をなんとかしなきゃなんねえ。


 走りは止めず、ほんの数秒で穴に到着してその勢いのまま、アンラと並んで見えた階段に足を踏み入れた。


 大人五人が横並びで歩けるような広さがある階段を、ゴブリンがゾロゾロと上がってくる。


「アンラ! いちいち相手をしてらんねえ! 倒さなくても良い! 蹴落として進むぞ! 落ちろ! しっ」


「うん! えりゃ! おりゃ!」


 どれだけ蹴落としても、見えている魔物はゴブリンだけだ、魔道具で出てきてんのはゴブリンだけなんだろう。


 薄暗い階段は、入ってすぐ分かったが、長くはないようだ。


 階段の先に、光が差し込んでいるのが見えたからだが、こりゃ迷路じゃなくてダンジョンの中に草原があったりするヤツか。


「ほら考え事してないで行くわよ! ゴブリン多すぎだし面倒だから飛んじゃうから! ほいっと!」


「うなっ!」


 ガシッとまた背負っていたリュックを掴まれ、アンラは斜め下に向かって階段を飛び下りた。


 飛んでいく俺達に驚きながら目で追い、上を向くが手を出せるヤツはいない。


 そのまま明かりが差し込んでいた出入口に飛び込んで見えたのは、思った通りの草原で、所々に林や、岩が点在していた。


「ん~と、二階層への階段どこだろ?」


 表に出て、たまたまそこにいたゴブリンを踏みつけて出てすぐのところに着地した俺達は、ズラリと帯びのように列をなして階段に押し寄せるのを目にした。


「アンラ! この列の先だ! いっきにいくぞ! この数を相手になんかしてらんねえ!  先に魔道具だ! 飛んでくれ!」


 いつまでもリュックを掴んでいてもらうのも、なんか恥ずかしいってのもあるが、俺はアンラの背後に回り、肩越しに抱き付く事にした。


「ひゃっ! にゃにをいきにゃり!」


 見ると耳まで真っ赤になってっけど、これもちと恥ずかしいかも知んねえな……。


「こ、この方がアンラも手が両手つかえるんだから良いだろ! ほら頼む!」


「り、了解だよ! もーケントだけなんだからね! だからぎゅっと掴まって離しちゃ駄目だからね! 行っくよー!」


 そして空高く、そうだ、地下に下りてきたのに空までありやがる。


 ダンジョンってすげえな、ってこんな時に考える事じゃねえだろ!


 下に目をやると、俺達が向かっている方向に続くゴブリンの列が見えた。


「方向は間違ってねえな、あそこの大岩から出てきてるようだぞ」


「そ、そのようね、そ、それよりケント……あなた私のその……おっぱい触ってるからね」


 ん? そういやなんか柔らか――あっ!

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