第72話 フレイムトルネード
「にゃっ!」
クローセに向かってゴーと風切り音を響かせ、確実に当たる軌道で迫ってくるファイアースピアをクローセは、ゴブリンを弾き飛ばしながら走り、チラっと目を向けて、動かしたのはしっぽだ。
にゃっと鳴いて一振したしっぽは、ボフンとファイアースピアを叩き落として、何事もなかったようにゴブリンを弾き飛ばし走り続けている。
「はぁ! やるなクローセっ! 無事で良かっ! たぜ!」
向かってくるゴブリンを、クロセルを振り回して片っ端から倒し、クローセを見ていると、少し離れていたアンラを見て不味いと思ったのは同じのようだ。
(あのさ~、あれ、狙って撃たれたわよね、ゴブリン相手にファイアースピアなんて使うわけないもの、ファイアーボール、ファイアーニードルでも十分だし)
それはそうだ、ゴブリン相手には魔力の無駄遣いだよな。
クロセルを振るいながら耳に集中すると、騎士達の声が聞こえてきた。
『副魔道師長! 何をしているのですか! あれは味方だと――』
『やかましい! 魔物は倒さねばならん! あんな魔物は制御できるわけがないだろうが!』
副魔道師長が撃ちやがったのか、まったく、やるにしても目の前のゴブリンが終わってからやるだろ、今はゴブリンをやっつけてんだからよ。
『ぬぅー! ファイアースピアが駄目なら、副魔道師長命令だ! 魔道師団全員で総攻撃をかけるぞ! 戦術魔法のフレイムトルネードだ! 私に併せよ!』
(フレイムトルネードね~、クローセには効かないけど、この距離で撃てば自分達も火傷しちゃうのに、何を考えてるの?)
爪を伸ばした腕を縦横無尽に、それも踊るように振るい切り裂きながら、そんな事を言ってくる。
ヤバいな、アンラ! ここは俺だけでやるからよ、魔道師団のやつらを眠らせてくれっか!
(ほ~い。行ってくるね~)
騎士達にぐるりと囲われて真ん中にいる魔道師達に向かって飛んで行く。
その途中でも、五メートルほど伸ばした爪で、サクサクとゴブリン達を切り裂きながら飛んで行く。
あっという間に囲いの真上で止まったアンラは、そこで
『魔道具を持っているようですね、少し時間はかかりますが、フレイムトルネードなら、呪文を唱えるまで数分かかりますから、間に合うでしょう』
なら俺は安心してコイツらをやっつけておけば良いって事だな。
それに俺とアンラが倒したものと、クローセが手伝ってくれたお陰で、半分は倒せたはずだ。
(もー! 何コイツら! 体中が魔道具だらけじゃない! ねえもう服ごと全部収納しちゃって良い!?)
馬鹿! 裸にすんのは駄目だろ! なんとか頑張れ!
(でもー! コイツ詠唱が早くてもう唱え終わっちゃうもん! 私とクローセは大丈夫だけど、ケントとソラーレは燃えちゃうよ!)
マジかよくそっ! どうすりゃ良いんだよ!
『アンラ! 副魔道師長を気絶させなさい! その者が魔法の中心だから不発にさせるのよ!』
(分かったよ! ……コイツかな? 一番偉そうにしてるし収――)
『来たぞ! くたばれエンペラーキャットめ! フレイムトルネード!』
(――納! あっ!)
騎士達の頭一つ上に、呪文が唱え終わったのか杖が見えた。
次の瞬間、十メートルほど上空に一抱えほどの火球が現れ、ズンズンと大きくなり始めた――が。
(にゃー!
見えていた杖がフッと消え、浮かんでいた火球はそのまま宙に浮かんだまま残っている。
なんだよ! 消えねえじゃねえか!
(この大きさなら大丈夫! なはず!)
はず、じゃ駄目だろうが!
大きさは、予定より小さいようだが火の玉は消えず、その場で渦を巻き始めて、魔道師達が騒ぎ始めた。
『副魔道師長が倒れたぞ!』
『不味い! 魔力を送り込む前で小さいが、魔法が暴走する! 制御しなければこのまま発動してしまうぞ!』
「クロセル! あの火球を殴って遠くに飛ばすぞ! クローセ乗せろ!」
ちょうど俺のところに走ってきたクローセに飛び乗る。
「あの火球をぶっ飛ばすぞクローセ! ギリギリ横をかすめるように飛べ!」
「んにゃ!」
俺の声に反応して、周りをぐるぐると走っていたのをガガガと地面を削りながら舵を切り、騎士達に向かって走り加速する。
ドン、ドドドンと行く手のゴブリンを弾き飛ばし、一瞬で騎士団の手前まで走り、火球に向かって勢いを殺さず飛び上がった。
「ぬおぉぉぉー! ぶっ飛べ! どりゃぁぁぁー!」
大きく振りかぶったクロセルに、これでもかと魔力を流し込んで、火球とすれ違いざまにぶっ叩いた。
火球はゴーと唸りながら回転して、渦までできてたが、魔力で伸びたクロセルが真ん中にぶち当たると、グニャリと食い込んだ。
チリチリと服から煙が出て滅茶苦茶熱いが、火球も限界までへこんだかと思った次の瞬間――弾かれるように横方向へドヒュンと飛んで行った。
クローセに乗った俺は、騎士団とゴブリンの上を飛び越え反対側に着地した。
「うっしゃ! 遠くに行っちまえ!」
二百メートルは飛んだ。
ぶっ飛びながらも少しずつ火が大きくなり、渦を巻きながら竜巻に変わった火球は、これだけ離れていても肌に暑さを感じるほど熱風が俺達を巻き込んだ。
「おいおい、こんだけ離れてんのにこの熱さだぞ、ぜってえ全滅してただろこれ」
俺は後でぜってえぶん殴ると決めて、クローセから飛び降りゴブリンの討伐に戻った。
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