第64話 城の地下へと続く階段

「なあ兵士のおっちゃん達は待ってて良いぞ、あぶねえしよ」


 クロセルとアンラが言うには、後一匹だけ上位になりかけの奴がいるらしい。


 とりあえずソイツをやっつけるんが依頼なんだけどよ……。


 地下に下りて、薄暗く長い通路を進む。


 灯りは無く、兵士達は光の魔道具で足元を照らしているが、俺は目に集中してっと、普通に見えるから手ぶらだ。


 だがよ~、ゾロゾロと八人の兵士が俺についてくっから、カチャカチャとうるせえんだよな。


「いえ、私達はケント殿の補助をするよう命ぜられておりますので――」


(ねえねえケント、こんなに捕まえたよ~、見てほら~逃げようとしてにょろにょろだよ~)


「うおっ!」


 いきなり目の前にモヤモヤを出してきたアンラ。


 モヤモヤなのに、なんか牙を剥き出しでガチガチと歯をならしてやがる。


「ど、どうしましたケント殿」


 兵士の一人が俺の横まで進みでできて顔を覗き込んできたんだが、アンラがここに来るまであちこち走り回り、前に後ろにとうろちょろして捕まえてきたモヤモヤに、ズボっと頭を突っ込んでやがる……。


 に、兄ちゃん、兜を噛られてんぞ……。


 だが気付いてねえようだし、大丈夫そうだ……大丈夫だよな?


「な、なんでもねえ、すまねえな、驚かせてしまったみてえだが大丈夫だ、後ろに下がっていてくれ、そろそろ近そうだからよ」


「はぁ、分かりました」


 兵士は納得してない感じで首を傾げて一歩離れ、噛みついていたモヤモヤも口を離した。


 そして歩みを少しゆるめて後ろにさがり、後に続いていた隊列に戻った。


 よし、大丈夫そうだな。ってかよ。


(きゃはははは♪ ケントの驚いた顔ってば、こ~んな顔だったよ――)


 俺はクロセルに手をやりアンラを睨んでやると、捕まえていたモヤモヤを『ひっ!』とか言いながら握りつぶして浄化してしまった。


(そ、そこの階段を下りたところにいるよ~、ち、地下室にいるのかなぁ~、さ、さあ頑張ろう!)


 器用に後ろ向きで俺の真ん前を歩くアンラの向こう側に、扉はない、入り口が見えた。


 言ってた通り下りの階段があるようだな、だがよ……。


『アンラ、これが終わった後お仕置きです』


 そうだな、三十分はクロセルを担いだ俺がおんぶしてやるからな。


(え? あ、あのさ! ほんと~にピリピリするんだからね!)


 バタバタと手を振ったり、俺の服を摘まんでクイクイ引っ張ったりと後ろ向きで歩きながら階段へ。


(……でもケントにおんぶしてもらえるのか、それはそれで……きゃっ)


 なんかぶつぶつ念話で呟いてもちゃんと聞こえてんぞ、ってかおい!


 地下へ下りる階段に入った途端、見てなかったから当たり前だが、足を踏み外してゆっくりと、まるでコマ送りの絵を見ているように、後ろ向きに倒れていくアンラ。


 くっ!


 摘ままれていた服が引っ張られたが、強くは摘まんでないため手が離れ、俺に向けて手を伸ばしている。


 俺も手を伸ばし、アンラの手を掴んで引っ張り――っ!


 ズルっと俺も階段を踏み外してしまった。


「どわぁぁぁぁぁー!」


(ひにゃぁぁぁぁー!)


 アンラを引き寄せた拍子に、俺に抱き付いてきたが、今は急な階段に投げ出され宙を舞っている。


 それにアンラが下でだ――。


「このっ!」


 ぐいっと体の上下を入れ換えるようにひねり、階段に打ち付けられる前に、俺は腕の中にアンラを抱えたまま、背中を階段に向けた。


「ぐあっ!」


(ケント!)


 ドン! と、階段に背中を打ち付けられ、ドドド――ドン! と、何度も背中や頭もぶつけながら、階段の最後まで落ちてしまった。


(……え? ケント? うそ! うそうそうそ! ケント大丈夫!? 私なら飛べるんだから大丈夫だったのに! ねえケント! 返事して!)


 俺の腕の中でもぞもぞしてからガバッと動き出すアンラ。


「はは、大丈夫だ、アンラは怪我無いか?」


「ケント殿!」


『ケント、声が出てます、兵士が下りてきますよ。それからアンラ、ケントなら大丈夫です、覚醒したままですから少し擦りむいたくらいでしょう』


(ふえ? よ、よがっだよーごべんなざいー)


 ったくよ、ちゃんと足元確認しておけよ。ほら、大丈夫だからな。


 泣くアンラの頭を撫でて、背中をとんとんと叩いて落ち着かせる。


 ふと階段を見ると、十メートルほど上に、明かりの魔道具を持って急な階段を走り下りてくる兵士達が見えた。


 それに思った以上に背中も痛くなかったが、背負っていたクロセルが盾になってくれたみてえだ。


 ありゃ? てかよ……これって俺が足を踏み外したって見えてるよな……ちと恥ずかしいじゃねえか……。


 ダダダと駆け下りてきた兵士達、あんまり情けねえ格好は見せてらんねえし、俺はぐいっとアンラごと体を起こし、兵士達を見る。


「すまねえな、足を踏み外しちまったぜ」


「はぁ、ご無事で良かったです、しかしここですか」


 俺の横で片ひざをついた兵士は落ちた階段の先を見て呟く。


 俺も兵士が見ている方に顔を向けると、長い通路があり、左右には等間隔で鉄格子が無数にある。


「地下牢だな、誰か入ってんのか?」


「はい、ここには見た通り地下牢で、罪を犯した者が入れられております」


 耳にも集中すると、あちこちから息づかいが聞こえてくる。


 気配も感じるな……こりゃ相当な人数がいるぞ。


「処刑待ちや、他国の貴族で処刑する事ができない者達、処刑までの罪ではないのですが、刑期が終えるのを待つ者達が入っております」


 なるほどな。この奥に上位近い奴が取り付いてる悪者がいるって事か、うっし、さっさとやっちまうか。


 まだ抱き付いていたアンラの肩を押して体を離すと、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔が見えた。


 泣きすぎだぞまったくよ、ほら泣くな、可愛い顔してんのに勿体ねえだろ。


 涙と鼻水を袖で拭ってやり、俺たちは立ち上がった。


 まだ、下を向いて俺の服を摘まんだままのアンラ。


「んじゃ、どんな奴がいるか分かんねえが、気を付けて進むぞ、この奥にいるみてえだしな」


 裾をつかむ手を外す事はせず、アンラと兵士達を引き連れ歩きだそうとした時、奥から叫び声が聞こえた。

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