第63話 まだいる大物の討伐依頼

「げほっ、ペッ、な、なんだこれは! いきなり口に――それになぜ私が剣を落と……ギャァァァァー!」


(きゃははは♪ 気付くの遅すぎ~)


 アンラは指輪を放り投げるようにして、収納しちまったが、アンラ言う通り、口に気がいっちまって、手の痛みに気が付かなかったようだ。


 よし、今の内にトロールをやっつけちまうか。


 右手の親指があった場所を左手で包み込むようにして、宰相は叫びだしたと同時に、テーブルの方でもなんでか騒ぎ始めた。


「「魔、魔物!きゃぁぁぁ!」」


 アシアとエリスが驚きのあまり動けず叫び。


「「いきなり現れたぞ!トロールか!」」


 王様は椅子を飛ばして立ち上がりながら、公爵様も半歩下がり、剣は抜いている。


「王と公爵様をお守りするぞ!」


「「はっ!はっ!」」


 大扉を守っていた騎士が部屋に飛び込んできて、兵士達と共に王様達のいるテーブルに駆けつける。


(や~っと実体化して、見えるようになったみたいね~、ケント~それよりうるさいコイツの事はどうする?)


 トロールに向き直っていた俺にアンラは宰相を指差してくる。


 寝かしとけ! 俺はトロールをやる!


(ほいほ~い、まあトロールは床と天井に挟まってるし動けないでしょうね、宰相は解毒剤飲んだみたいだけど、痺れちゃうと思うし。でもやかましいから寝ちゃっててね~、眠りヒュプノス


「ヒ、ヒイィィィー! な魔物が王城にだ――はへ……」


 うっし、宰相は寝ちまったし、俺はコイツをやってやる!


 実体化して、目に見えるようになったトロールの首の横に置かれた手の上に飛び乗り、ゴツゴツとした筋張った首筋、そこの脈打つ部分に向けて、クロセルを振り下ろした。


「グォォォォォー!」


 ザシュっと切り裂いて、吹き出す紫色の血を被らないように素早く避け、叫びながら手を首に持っていくトロールから飛び退く。


『ケント今です! こめかみに私を突き刺しなさい!』


「おっしゃっ!」


 トロールの手から飛び下りトロールの顔に向かって数歩移動した後、勢いを付けて飛び上がり――。


「くらいやがれ! うおぉぉぉおりゃぁぁぁぁー!」


 首に手をやり無防備になってるから、なんの妨害なしで、ズプンと思っていた抵抗もなく、一気にクロセルの根本までこめかみに刺さり込んだ。


「うおっ!」


 ビクンと痙攣したトロールの動きに合わせ、刺さったクロセルの柄に捕まりながら振り回される。


「こ、こら、暴れんな!」


(任せて! 反対側からも~、ほりゃ!)


 見えねえが、アンラが俺と同じように向こう側から爪を刺したんだと思う。


 何せ反対側の俺が刺した所の脇から五本の爪先が姿を見せたからなんだが。


『離れて下さい! トロールの魔力が暴走しかけています! 弾け飛びますよ!』


(え? それじゃあ素材が取れないし勿体ないじゃん! 任せて! 魔力を~吸引サクション!)


 クロセルの念話通りにクロセルを引き抜いて離れ――ってか、抜けねえぞ!


 ってかアンラがなんかやりやがったぞ!


 アンラの唱えた魔法の後、トロールの痙攣も無くなり、力をいれてガチガチのゴツゴツに見えた体は力を抜いたようにダランとなって、押さえていた手が首から離れ、あげていた顔も、ズシンと同時に床へ落ちた。


「おわっ!」


 強ばっていたトロールがダランとなったせいか、ガチガチで、抜けそうもなかったクロセルがズルリと抜けて、ぶら下がっていた俺は床に降りることができた。


 その瞬間にクロセルがトロールを収納してくれたんだが、噴き出して一面に降り注いだ紫色の血も全て無くなってしまった……。


 なんで血まで収納しちまうだ?


(そっか~、トロールの血は上級強化ポーションの素材だからね~、結構良い値段で買い取ってくれるわよ)


 そうなんか、まあとりあえず二匹目はなんとか怪我もなく無事に終わったな。


「王様、公爵様、ちと頼みがあってな、城まで来させてもらったんだがよ」


 クロセルを背中の鞘に戻しながら話しかけ、テーブルのところまで戻る。


 王様と公爵様の前でポカンと立ち尽くす騎士と兵士の間を通って二人の真ん前までやって来たんだが、なんか違う話になってるようだ。


「トロールを一人で討伐してしまうとはな、コバルト、そんな事ができるのかDランクは」


「できる訳ないだろ、そもそも商人の護衛依頼を終えてCランクだ、それも上がったところだがな」


 二人は俺のランクアップについて話を続けてんが、今はそれより孤児院の事が優先だよな。


「今はそれじゃなくてだな、孤児院の話を持ってきたんだぞ、そっちを先にして欲しいんだが」


 あっ、毒の話も大事だよな、ってか、やられかけたお前らが忘れんなよ。


「ああ、その話は聞いているぞ、今、別室で質問しているところだ、王都にある教会が運営しているところも加え、四ヶ所全ての孤児院を調べる予定で進めている」


 そうなのか、なら良いんだがよ。


 そう言えばあの部屋にはアシア達の三人しかいなかったな、そっちに連れていかれたって事か。


「蜘蛛にトロール討伐もだが、それともう一つ重要な話ができたな兄さん、まずはあまりの事に忘れていたが宰相を捕まえておかないとな、王族への毒殺未遂だ」


 騎士と兵士に命令して、床で寝ている宰相を捕まえさせて、連れていかせる。


 たぶんしばらく起きねえが、キツく取り調べしてやってくれよ。


 宰相が引きずられて部屋から出ていくのを見送った後、俺達を案内してくれたメイドに別の部屋を用意するよう命令し、部屋を移る事になった。


 そこで褒賞話の次に、新たに王様から依頼されたのは、まだ、城の中にいるトロールと同じ程度の魔物の討伐依頼だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る