第62話 宰相の後ろには二匹目がいた
「ワルダック宰相よ、どういう事だ? 普段用意もないこの菓子は、お前が用意させた物だったな」
宰相は慌ててテーブルの上から水指を取り、懐から出した瓶から錠剤をザラザラと口に放り込んで水指から直接水を飲む。
王様はワルダック宰相を睨み付けている。
「それも解毒剤を用意しているとはな、ワルダック宰相よ、何を企んでいるんだ?」
スッと公爵様は立ち上がり、宰相と王様の間に体を滑り込ませ立ち塞がった。
左手を腰の剣にかけ、右手を柄にかけた瞬間――。
「クソッ、計画が台無しだ! この地位まで、こき使われながら我慢に我慢を重ねて来て、ここぞというところであったのだぞ!」
宰相は、水指の残りの水を撒き散らしながら俺を指差してきた。
「んな事言われてもよ、悪さする方が駄目だろうが。とりあえずあんたは捕まえてやんよ」
背中のクロセルに手をかけ、腰を落とし構えを取る。
アンラは宰相の後ろに回ったり、何やら腰紐にぶら下がっている物を、そ~っと気付かれないようにいただいてるようだ。
(あ~、この宰相も色々と魔道具持ってるわね、毒耐性が付与されるのも持ってるけど、このパクッ、むぐむぐ……毒だと、はぐっ……死ぬことはないけど気は失うでしょうね~)
ってかよ、どんだけお菓子取ってきてんだよ。
口にお菓子を放り込んでは宰相の魔道具を次々と外していってる……。
(あっ、これは眠り耐性だけど、指輪じゃん、ねえケント、これ無理矢理取っても良い?)
俺と公爵様に迫られている間も宰相は、なぜか冷静さを取り戻し、ニヤリと笑った。
ん? それもだけどよ、モヤモヤがさらにハッキリと形が整ってきてねえか?
それはどんどん大きくなり、人形に見えるようになってきた。
「くくくっ、確かコバルト公爵は現役時のランクはAランクでしたね、そちらの小僧はCランクになるための依頼を請けている最中と資料にはありました」
アンラに色々と物色されながら両手を広げ、なんか見下すようにニヤリ顔を向けてくる。
俺はもう宰相の背後に二本足で立ち、部屋の天井、五メートルはある天井に頭が当たってるがまだ大きくなるヤツの方に意識を移している。
『トロールのようですね、愚鈍ではありますが、力はとても強く、防御力も高いです。ですが捕まらないようにすれば良いだけですね、先ほどの蜘蛛より相手取りやすいですよ』
分かったが、どんだけデカくなるんだよ。
「まずはあなた達に死んでもらいましょう、この部屋に小僧達が入ったところで結界を張らせてもらいました。ほら、扉の抜こうからは兵士もぉぉぉぉぉぉ! な、なぜ入ってこれるのですか!」
宰相は自信満々に話をしているが、騒ぎを聞き付け大扉から、俺達についてきた兵士と、大扉前で立っていた騎士達が部屋に入ってきた。
(結界を張る魔道具はこれ~、壊しちゃったし♪ あっ……もしかすると張っておいた方が被害が少なかったかも……)
ミシミシと音をたて出す天井。
その音に反応してみんなの目が、宰相ももれず天井に向いたんだが、俺は宰相の真後ろにいるトロールに集中しておく。
だがトロールは立っていられないためひざをつき、手をついて四つん這いになり、なんとか天井を壊さないでいたんだ。
が、まだ完全には実体化してねえし、見えてもいないようだから、俺とプリム以外は天井しか見てない。
ってかよ、クロセル……やっぱりこのトロール、床と天井でぴったり挟まってるんじゃねえのか?
『はい……大きくなるのも止まったようですね……』
足を抱え込むような姿勢で、動こうとしているが、きっちり過ぎて動けねえみたいだ。
(きゃははは♪ 動けないからってきょろきょろしちゃってるわ、それよりケント、眠りの指輪なんだけど、無理矢理で良い?)
そりゃ良いけどよ! 今の内にトロールを先にやっちまうぞ!
「しっ!」
十分曲げたひざを一気に伸ばして加速する。
クロセルを抜きながら、宰相の横を通り過ぎ――!
ギィンと宰相が俺の速さに付いてきて、進行方向にどこから出したのか細身の剣で邪魔をしてきた。
進行方向に出された剣をクロセルで弾き、その一撃だけで宰相の横を通り過ぎる事ができたんだが――。
「逃がさん!」
しつこく後ろから切りかかってくる。
「てめえは後だ!」
ギィンギギィン
トロールの目の前で何度も突き、払いとまばたきする間もなく攻め立ててくる宰相。
「チッ! どこに向かおうとしているのか分からないが、お前を先に殺してやる! お前がいなければ楽に暗殺できたものを!」
「馬鹿野郎が! んな事駄目に決まってんだろ! 大人しく捕まりやがれ! おりゃりゃりゃりゃ!」
仕方ねえ、トロールはまだ動けねえから先に黙らせてやる!
気持ちをトロールから宰相に移し、大振りだが力押しと速さを意識して、上下左右、宰相に休む間を与えないよう今度はこっちから攻めまくる。
だが宰相の剣の速度が一気に上がった――。
「身体強化かよ! うぐっ! がっ!」
俺の剣を避け、受け流し、その合間に突きを的確に放ってくる。
チクチクと刺さり過ぎて動きが止まらないように浅くだが、手足、胴体に傷を増やしてくる。
「チッ! ちょこまかと! だがまだまだ私には及ばんわっ――ふぐっ!」
(は~い♪ おやつですよ~♪)
宰相の真上に浮いたまま来て、大きく口を開いた瞬間に、アンラはお菓子をぽいっと放り込んだ。
(それから~、指輪はもらっちゃうね~♪ えいっ!)
柄を握る指に嵌まってる、眠り耐性の指輪を無理矢理取るってそういう事かよ!
アンラは宰相が突いた後、腕の引戻しにあわせて指輪の嵌まる親指を、少し伸ばした爪でスパッと切り飛ばしてしまった。
切り離された親指は、剣を引き戻す勢いから外れ、ほんの一瞬宙に取り残されたが、アンラはなにか汚い物を持つように、その親指に嵌まった指輪を摘まみ、手首を振ると、切られた親指はどこかに飛んでいった。
それにまだ気付かない宰相は、また突きを放とうとするんだが、親指無しで剣が握れるはずもない。
細身の剣は、宰相の手からこぼれ落ち、ガシャと床に落ちた。
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