第59話 蜘蛛野郎との決着

「ケント! こーのクソ蜘蛛! なーにやってくれてんのよ!」


 アンラが城壁から蜘蛛に向かって飛び降りてくる。


 俺は速攻で効いてきた毒のせいか、痛みより痺れが来たり、ガクリと足の力が抜けた方がヤバい。


 ここで倒れる訳にはいかねえ、足に力を込めるように気合を入れる。


 前のめりに倒れかけたのを利用し地面を蹴り、蜘蛛と地面の間に飛び込む。


「喰らいやがれ!」


 だが蜘蛛も敏感にそれを感じ取り反応してくる。


 太く鋭い牙を俺に突き立てようと、俺の飛んだ先に頭を下げてきた。


「うおぉぉぉおりゃぁぁぁぁー!」


 クロセルをその牙と牙の間に滑り込ませ、背中に牙がかするがさらに地面を蹴り、クロセルを突き立てたまま、腹の下を駆け抜ける。


「あー! 蜘蛛なんてさっさと死んじゃえ! えいっ!」


 アンラの声が聞こえたが、蜘蛛の上からだ、姿が見えねえがなんかやったよう――なに!


 抜けようとした蜘蛛のケツの方からなんかくる。


 なんだ!? あっ! アンラの爪か!


 鋭く、地面の石畳さえなんの抵抗もないように切り裂きながら、俺が向かう方から迫ってきた。


「アンラ! 爪の隙間を開けやがれ!」


「え? 生きてる!? ひゃっほーい♪」


「ぬおっ! 狭い!」


 アンラが気付いた! だが爪の隙間が開ききる前に、蜘蛛を切り裂きながら俺の目の前に。


「くっ!」


 俺はクロセルを、毒針の刺さっていない右腕だけに持って体を傾ける。


 蜘蛛の腹を切り裂きながらせまってくるが、なんとかアンラの爪の間に体を滑り込ませた。


 が、俺も蜘蛛のケツまで切り裂いた後、俺の足は力尽き、もつれて勢いのついたまま石畳の上を滑り、転がり仰向けで止まった。


 痺れる体に気合を入れて、なんとか首を捻り蜘蛛を見るつもりだったんだが目の前にアンラの顔が……。


「おい、蜘蛛のやろうは?」


「にゅふふふ、やっつけたわよ、それよりケント……」


 手で俺の腹をつついたり、ペチャペチャと溢れてくる血で音が出るように触ったりしている。


 痺れで痛くねえが、その音はヤバくねえか……。


「大丈夫? お腹に穴空いてるけど死なないよね?」


「ヤバいかもな、体が痺れてっから痛くねえが、結構な血が出てっだろ」


「ん~、とりあえず押さえておいた方が良いよね、よいしょ」


 アンラはボロボロじゃねえが、俺の昔の服とお酒を自分の収納から出して、傷口にお酒をかけた後、服を傷口に当てて、押さえてくれている。


「ねえクロセル、あなた回復魔法使えないの? 私がやっても良いけど」


(ん~、悪魔の回復魔法ってあまり人間には合わないんだけど良いのかな)


『私に回復魔法はありません、アンラ、ケントの傷を直して下さい、今の覚醒中なら大丈夫です』


「あっ、なるほどね、んじゃケント……ちょ~っと回復魔法をかけてあげるから……覚悟してね♪」


 ニヤリとなんか、俺……ヤバくねえか?


 アンラは俺の傷を押さえていた服をぽいっと上に、投げ捨てたはずが消えた。


 ん? 収納したんか? ってかよ、何で爪がちと伸びてんだ?


「まずは毒ね♪ いっくよ~、ちょっと痛むけど気絶しないでね♪ えいっ! そして~解毒デトックス!」


「なっ!」


『アンラあなたなにやってるのですか!』


 ズブっとアンラは俺の腹に、一センチほどの尖った爪を刺しやがった――それも指の第一関節が食い込むほど深くだ。


 だが、毒で痺れて痛くねえから、何か刺さったなって感触しかない。


「おい! 怪我を増やすなよ!」


「きゃはは♪ この方が綺麗に毒を抜けるんだもん、良いでしょ?」


 解毒の魔法が唱えられた瞬間、体の何か、たぶん毒だと思うんだが、それがアンラの手の方に集まっていってるのが分かった。


『アンラ! そのやり方だと――』


「ん? んがぁぁぁぁ!」


 クロセルが何か言い出したと思った瞬間、毒のせいで痛みを感じていなかった傷口というか全身が、解毒されたらどうなるか。


 毒針が刺さった手足に腹もだが、牙がかすった背中からもこれまで感じた事がない激痛が走った。


 痛みで体が暴れそうになるが、治してもらってんだ、これくらい痛くねえ!


「ん~、うん! 毒は抜けたね、じゃあ次は回復魔法行くよ~、ちょ~っと今度は痒くて仕方なくなるけど、我慢してね~、痒回復イッチーヒール


「か、痒い? くうっ、分かんねえが早く頼む、これ以上血が流れるろやはいかほ……」


 毒が抜けたせいか力は入っていたが、血も出しすぎた、ろれつが急に回らなく……。


『……アンラ、あなたわざとやってるでしょう……』


「え? あはは、だって悪魔だもん、ちょっと悪ふざけくらい許してよね、ほらもう傷口は塞がったんだから」


(本当は怪我の表面だけ治して、痒いから掻いちゃって傷口が開いちゃうんだけど、今回はちゃんと治してあげたんだからね)


 何か言ってるようだが……駄目だ……気が……遠く………………か……ゆ……い。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 次に気が付いた時、目を開けたんだが、見えるのは何か豪華そうな天井だった。


 それに、体が沈み込むようなこの感じは……。


 俺、寝台です寝かされてんのか? それに、何か酒くせえ。


 右を見ると、真っ黒なクローセの顔が見えた。クローセの上にソラーレも乗ってる。


 ぼーっとクローセとソラーレを見ていて、やっと完全に目が覚めてきたんだが、左腕に痺れがあるのに気が付いた。


 左を見ると、俺の左腕を枕に寝ているアンラがいた。


「おいアンラ、枕にされてっから痺れてんだが」


 はぁ、完全に寝ているようだが、まあ治してくれたし今は放っとくか。


 なんだか気持ち良さそうに寝てるしな。


 ……あっ、蜘蛛を倒した後どうなったんだろうか。

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