第58話 蜘蛛

「お客さん、もうすぐ王城の門前に到着ですよ」


 ガタガタとケツに響く振動を我慢しながら約一時間が経った。


 あの路地であった出来事の後、冒険者のおっさん達と子供達を王城に連れていくため、乗り合い馬車を捕まえて、やっとの事で到着するようだ。


 ちょっと王城までって気持ちでいたが、ここまで遠いとは思わなかった。


 大通りからまっすぐ進めば王城があると思っていたんだが……。


 だってなぁ、馬車を捕まえに大通りに戻って気が付いたんだがよ、お城は大通りの先に見えていたんだぞ……それなのに、ぐるぐると王城を中心に迂回して行くしか近付けないようになっていやがった……。


 御者の言う通り門が見えて、速度が落とされた時、何回目になるか忘れたが、また冒険者のおっさんが聞いてきた。


「な、なあ、ギルマスに会いに来てよ、なんで王城に来てるんだよ、おかしいだろ? ふつうは冒険者ギルドにいると思うぞ?」


「だから、リチウムにある冒険者ギルドのギルマスが今ここに来てんだよ、それに、王様にもこの事教えられっかも知れねえだろ?」


 そんな俺達をよそに子供達とアシア達はどんどん大きくなってくる、デカいお城を見て盛り上がっている。


 ってか、俺もじっくりデカい城を眺めたかったのによ、ずっとおっさん達に話しかけられっし、迷惑だよな。


 本当に何回聞けば良いんだよ……。


(きゃははは♪ ケントが長髪からいつもの短髪に戻った時のあの顔! 鼻水までたれてたしね♪)


 ああ、それもだな、適当に本気だしたら姿が変わるって言っておいたが、信じてねえみてえだしよ。


『うふふ。覚醒を本気に変えているだけで、力が増すって事は本当の事ですからね』


 だろ? ってかさ、もうさっきまで見えてたお城の一番高い尖塔も、ぐるりと囲うように二十メートルはある城壁に阻まれ見えなくなったしな……よし、帰りは後ろを見て帰ってやる。


(ん~、それよりさ、んとねえケント、お城にもうすぐ上位になりそうなレイスが何匹かいるよ、捕まえてきていい?)


 んあ? 良いけどよ、上位の手前つったら強いんだろ? アンラ、大丈夫か?


(なぁ~に~♪ ケントったら心配してくれるんだ♪ 大丈夫、任せておいてよ~、最上位でもちょちょいっと捕まえられるからさ)


 分かったけどよ、気を付けろよ……んで、どこにいんだ?


 俺は声の方を見たんだが、アンラはいつの間にか、片足立で、手を鳥のように広げ、馬車を引く馬に乗っている。


(一匹目は~、門番に取りついてるね、ほら、左の門番の顔見たら分かるでしょ?)


 顔見ても分かんねえよ!


 だがアンラの言う通り、モヤモヤはいるんだよな……。


 俺は目を細め、集中してそのモヤモヤを見る。


 なんだ……ハッキリとした形してんぞ? ありゃなんだよアンラ。


(ダークスパイダー、闇魔法を使える蜘蛛だよ~、凄く動きが早いし、毒持ちだけど~、あの脚はね、実体化した時に倒せば焼いて食べれるんだよ)


 そ、そうなんか、ちと食べてみたいな……。


(良いけどケントって毒耐性無いよね? 食べたら死ぬけど、食べたいの?)


 駄目じゃねえか! 毒耐性なんか持ってる分けねえだろ! ったく、普通に食べれる物だと思うだろ!


 その時――ガクリと俺達が見ていたモヤモヤ蜘蛛付きの門番が膝をついた瞬間を見てしまった。


 ほぼ止まりかけていた馬車は、倒れた門番まで二十メートル足らずの位置、そこには真っ黒で、赤と黄色の雷のような模様があり、馬車ほどの大きさがある蜘蛛が現れた。


(あっ、実体化しちゃった、門番が死んじゃうよ)


「ちっ! 覚醒! タリャァァァー!」


 バキッと床が割れる音が鳴ったが馬車から蜘蛛に向かって跳ぶ――!


「しっ!」


(毒針に気を付けてねケント! 体に生えた毛を飛ばしてくるよ!)


 馬車から飛び降り、地面を蹴って、蜘蛛に向かって間合いをつめる。


 俺の横でアンラがそう言うが、クロセルを抜き向かってくる俺に気付いたダークスパイダー。


「ひぃ! ま、魔物が出――ギャアァァ!」


「大丈夫――ウギィィ!」


 倒れた門番の近くにいた二人の門番を八本ある足の一本で吹き飛ばしてしまった。


 ズザザザと石畳を滑り、動かなくなった門番、俺は加速して一気にダークスパイダーへ近付き、俺に向かって振り抜いてくる足をクロセルで弾き返す。


 ガキンと弾いたその瞬間、蜘蛛は後ろに飛び退き門の上、城壁に張り付いた。


(ケント任せて! 下に落とすよ! ほ~っりゃっ!)


 俺の横から飛び去り、城壁に張り付いたダークスパイダーのさらに少し上にくるりと中で方向を変え、足で城壁に着地すると――!


(落ちろ! ほりゃ!)


 蜘蛛のデカいケツを城壁に立っているように足を振りかぶって蹴飛ばした。


 アンラに蹴飛ばされたその巨体は、城壁に張り付いてられず、地面に向けて落ちてくる。


 俺はその落下地点に向かってクロセルをおもいっきり振り抜いた――。


 ダンっと着地して、石畳に少し突き刺さったダークスパイダーの足を一本、ズバッと切り払う事ができた。


「んりゃっ!」


 さらに攻撃を続けるが、ダークスパイダーの体に生えている毛が逆立った。


「ぐあっ! く、くそっ、これが毒針かっ! 負けねえぇぇぇ!」


 レイピアの尖端のように鋭い毒針が肩、足、腕に刺さったが、気合いで痛みを我慢して、連続攻撃をダークスパイダーに浴びせかける。


 ガキン! ズバッ! ガキンと、何度も上手く弾かれたりもしたが、二本目を切り飛ばした。


 だが――!


「ぐほっ!」


 切り飛ばした足に目がいってしまったんが失敗だった。


(あっ!)


 目線を向けた逆の脇腹に衝撃がきた――。

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