第60話 討伐依頼

『ケント、目覚めましたか?』


 ああ、クロセル、あれからどうなった?


 クロセルの念話に返事をしていると、右からクローセがソラーレを頭に乗せたまま、俺の顔を覗き込んでいた。


「クローセもソラーレも心配かけたな、こら、クローセ舐めんなよ、うぷっ!」


 ソラーレが俺の顔、ってか鼻と口を塞ぐように落ちてきた。


 息ができねえと思ったんだが、すぐに胸の上へぽよんと弾んで移動してくれた。


『うふふ。みんな心配していましたよ、横のアンラも気を失った後、ケントを抱っこして、お城に突撃したくらいですし』


 は? なにやってんだよまったくよ、だがアンラのお陰で怪我も治ったみたいだしな。


「そだよ、感謝してよね、せっかく治したのに気絶とか驚いちゃったわよ」


 左側から声が聞こえてそっちを向くと、アンラが腕枕のまま、見上げるようにして俺の顔をじっと見ていた。


「すまねえな、アンラがいなかったら死ぬところだったぜ、ありがとうな」


 クローセの頭を撫でていた手を今度はアンラの頭に乗せて撫でてやる。


「そ、そうよ、もっと感謝しなさいよね! ほらほら起きたならみんなに顔見せなきゃ駄目なんじゃないの?」


(な、なによ、頭なんか撫でられても嬉しくないんだからね、仕方なくケントと契約しちゃっただけだし、寿命で死ぬまでは楽しませてもらうんだから)


 なんでか、ちと顔を赤くして起き上がったアンラは寝台から降りて背中を向けてしまった。


 俺も胸のソラーレを手のひらで掬い上げて起き上がり、肩に乗せる。


 寝台から降りて、部屋をぐるりと見たんだが、なんだよこの豪華そうな部屋は……。


 ってか、ソファーがあって、そこのテーブルにはクッキーや見たこともねえお菓子が皿に乗せられ置いてある。


 それにたぶんお茶と、あの瓶はワインだろうな……栓は開いてねえみたいだ。


 後は暖炉があるし、デカい窓の向こうはテラスがあって、そこにもテーブルと椅子が置かれておる。


「なんか、スゲー部屋にいるみてえだが、良いんか?」


「王様とギルマスがここにって言ってたし、良いんじゃないかな?」


 まだこっちを見ないアンラが答えてくれたけどよ、ちと気になる事が……。


「そうなんだ、ところでよ、アンラは姿見せてしまったんか? 角も見えなくなってるしよ」


「見られたわね、プリムが色々とワタワタしながら説明してたし、大丈夫なんじゃない?」


 ああ~、なんだか目に浮かぶようだぜ。


『そうですね、門番や、アシア達が混乱している内に、角は見えなくしてもらいましたから、問題ないかと』


「そうか、じゃあ後でアンラも冒険者ギルドで登録しちまうか」


「あっ、私は消えたままにするわよ、プリム達が村に帰るまで」


 やっとこっちを向いたアンラ、俺の近くまでよってきて、テーブルの上にあった瓶を一本手に取ると、ポンっと栓を抜いてクンクンと匂いを嗅いでる。


「なんでだ? みんなに姿を見せたんなら隠れてなくて良いんじゃねえのか?」


「あら、中々美味しそうじゃない、これってもらっても良いんだよね?」


 アンラは俺の問いには答える事はなく、キュッと瓶に栓を戻してユラユラ揺らしながら聞いてきた……後で聞いてみるか。


「はぁ、ワインか? もらっても良いかどうか分かんねえな、持っていって、王様かギルマスに聞いてからにしろよ。ここで飲むんなら良いと思うけどな」


「今は飲まないわよ、とりあえずみんなに顔見せてあげなさいよ、この部屋のお向かいの部屋に三人ともいるはずだから」


『ケント、アンラはあなたを連れてお城に入った後、プリムに無理矢理背負わせて消える事にしたのです。身分証も無いのであのままケントを抱っこしていれば、捕まっていたでしょう?』


「あっ、そうか、ならやっぱりこの王都から一度帰ってからだな。よし、みんなのところに行くか」


 ワインの瓶をテーブル戻して部屋を出るため扉へ向かうアンラ。


 先に動いたアンラの後を追うんだが、俺はクロセルに頼みテーブルに準備されてたワインの瓶を収納してと頼んでおいた。


『うふふ。分かりました、ほら、もう扉を開けてしまいますから急いで下さい』


 アンラに追い付き俺が扉を開け廊下に出ると、メイドと兵士がいた。


 アシア達の部屋を訪ねてきたんかな?


(あっ、ヤバっ! 消えるの忘れてた! ほいっと!)


 扉が開く音で俺達の方に振り向く前に、アンラは姿を消したようだ。


 そうか、ここにはいねえはずだからな。


「ケント殿、もう動いて大丈夫なのですか?」


 振り向いた兵士二人が俺に気付き、軽く会釈をした後聞いてきた。


「おう。もう大丈夫だぞ、ってかよ、良い部屋ありがとうな」


「いえいえ、王の命令です。それに門前では突如現れたダークスパイダーも倒されたのですから、当然の事ですよ」


 やっぱり王様がこの部屋を用意してくれたんだな。


 真剣な顔に変わり、兵士が話を続ける。


「それと、信じられないのですが、まだこの王城に魔物が出ると聞きました。王は、その前兆を知る事ができるケント殿やプリム殿にも討伐を依頼できないかとこちらに参りました」


 そういや何匹かいるみたいな事を言ってたな……そっか討伐依頼か、中々の強敵だからアンラの酒も報酬に入れてもらえるようにお願いしてみるか。

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