第14話 魔物が出やがった

「行ってくるぞ!」


「おう、一応気を付けていけよ」


 あまりデカくないリュックだが、色々詰めて背負い、クソ爺の見送りを背に受けて歩き出す。


 剣もリュックの横に取り付けてあるんだが、クロセルが軽量化してくれたから全然重さを感じねえのは助かった。


 村の中央広場まで付くと、乗り合い馬車が準備をしていて荷物を積み込んでる。


 客はガズリー達も街に行くため、一緒の乗り合い馬車になると思ったんだが、いないのか? 来るなら乗ってきているはずだしな。


「んなぁ~」


「おろっ、クローセ見送りに来てくれたのか?」


 いつの間にか足元に来ていたクローセは、そのまま馬車に近付く俺の横に並んでついてくる。


「ん~なっ」


「お、おい! ついてくる気か?」


俺を追い越し、少し前に出て構えたかと思ったら俺に向かって飛び付いて、肩に乗り、そのままリュックの上に移動していったと


(ありゃりゃ、リュックに乗っちゃったわね~、連れて行って従魔にしてあげたら良いじゃない? エンペラーキャットは強いし)


「はぁ、クローセはぐれるんじゃねえぞ、まあ夜営の時に冷え込んだら暖が取れるしいっか」


 リュックの蓋を器用にめくり、クローセはリュックの中へ。


 予定に無かった旅のお供を加えて乗り合い馬車に近付くと、野菜の入った木箱を積み込んでるおっちゃんが声をかけてきた。


「おっ、乗るかい?」


「おう。おっちゃん街まで頼めるか」


「任せとけ、街までは大銅貨三枚だ、二日で到着だな」


 俺は腰袋に手を突っ込みクソ爺がくれた大銅貨を三枚数えて出すとおっちゃんに手渡す。


「おう、ちょうどいただくぜ、もう少しでとなり村に持っていく品物が積み終わるからよ、待っててくれ」


そう言うと、荷台に何箱か乗せて、自分も荷台に上り、奥に木箱を運んでる。


こりゃ手伝った方が早く終わるなと思い、まだ地面に置かれてる木箱を持ち上げ荷台の端に乗っけていく。


「よいしょっ! おっちゃん手伝ってやるぞ、俺が持ち上げっから上で取ってくれよ」


「おっ、すまねえな、助かるぜ」


 残り五箱だったがさっさと積み終え、馬車に乗って待ってると、積み荷の主は、背負子の籠に野菜を満載にして背負ってやって来た。


「なんだ、アシアの父ちゃんが隣村に野菜持っていくのか」


「ああ、弟の店で出す野菜だ。これでだいたい十日分だな。ケントは冒険者登録に行くんだろ?  アシアが寂しいって言ってたから早く帰ってこいよ」


馬車に乗り込んだアシアの父ちゃんは、荷台の前、木箱を置いたところに背負子ごと下ろした。


「よいしょっと、洗礼受けたのにまだまだガキだな。しゃあねえいくつか依頼を請けてから何か土産でも買って帰ってくるよ」


「ああ、喜ぶだろうな」


 馬車に乗り込み朝に村を出発して、お昼には王都方面にある村に到着してアシアの父ちゃんの荷物を下ろす手伝いをして銅貨五枚をもらい、この村から乗る者が二人やって来て、馬車は街に向けて出発した。


 この後は村もなく、街まで一本道で、一回目の夜営も何事もなく過ぎ、冒険者登録のできる街、リチウムに到着した。


「ケント、冒険者登録だろ? あそこが冒険者ギルドだ、近くで止めてやるから頑張ってこいよ」


「ありがとうな、おっちゃん」


(へえ~。街の様子はあまり変わってないわね、途中の村も封印される前とそう変わらなかったから、期待はしてなかったけど……もしかして、そんなに長く封印されてなかったとか?)


『いいえ。私がアンラを封印していた期間は約五百年ほどです』


 ほう、そんなに昔なんだな、そんな話を聞きながら冒険者ギルドに到着して、止めてくれたおっちゃんと、ここまで一緒に来た夫婦に別れを告げて馬車から飛び下りた。


 馬車を見送ってから、背後にあって、早くは入りたくてウズウズしていた冒険者ギルドの中に突撃だ。


(へえ~。冒険者ギルドってこんな感じなんだ。初めて入ったよ。おっ、お酒があるの! 何よ、冒険って言うからガチムチのおっさんばかりだと思ってたけど、良いところじゃない)


 こら! 登録した後に買ってやるからじっとしとけ! クローセを見習え! 大人しいもんだぞ、まったく。


 入った正面にある受け付けに行けば登録できるんだったな。


 俺はまっすぐ受け付けに向かい、垂れ耳のウサギの獣人が空いてたからそこに向かう。


「おう、冒険者登録をしたいんだ、頼めるか?」


「はい。冒険者ギルドにようこそ。登録ですね、ではこの魔道具に手を乗せてくれるかな」


「何だこれ?」


 耳がピクピク動くウサギの姉ちゃんが、カウンターの上に出してきたのは透明な玉だ。


なんだ? 手を乗せると良いんか、よし! いっちょやってみるか。


ペトっと触ってみたんだが、何も起こらねえ。


「あら、中々優秀ね、レベルは低いけど、魔法は四属性使えるみたいだし……え? 四属性? そ、それに回復魔法の反応も? ね、ねえ、君の名前とスキルは!?」


 ウサギの姉ちゃんは耳をピンっと立てて、カウンターから身を乗り出しながら聞いてきた。


ちと怖いぞ、鬼気迫るような勢いだしな。


「俺はケントだ。スキルは『努力』ってやつだ」


「……ああ、なるほどね」


(そういう事ね。それなら納得かな、賢者かと思って驚いちゃったわ)


なんか分かんねえけど、納得してくれたんなら良いよな。


「ケント君っと、スキルは『努力』ですっと。はい、登録が終わりました。冒険者ギルドの規則は知ってますか?」


「おう。師匠ギャスパーに聞いていたからな。自分のランクか一つ上のランクの依頼しか請けれねえんだよな。それから失敗ばっかりしてっとランクが落ちたりだろ?」


「うんうん。その通りよ。後は失敗ばかりだと上のランクの依頼が請けれなくなるから気を付けてね。あっ、悪い事をすれば除名になったりするから気を付けるのよ」


「ありがとうな。そうだ、ウサギの姉ちゃん、まだ昼だし、今からやれる依頼はあんのか?」


 宿を取ってから軽くこなせるものがあれば良いんだが。


「今からだと、そうね。草原でスライムの捕獲十匹で銅貨一枚って依頼があるわよ。少し前にゴブリンが溢れてまあ、倒しちゃったんだけど、それの血にスライムが寄ってきてね、沢山いるからすごく集まっているし」


「そりゃ良いな、初依頼はそれにするぜ。登録頼む。あっ、それとクローセの登録も頼めっか、忘れてたぜ。クローセ、顔出しな」


 俺がそう言うと『んにゃ』と返事をした後リュックの中から蓋を押し上げて顔を出し、カウンターに飛び乗った。


「あら猫ちゃんね。猫ちゃんの登録は······へ? し、尻尾が二本······」


 んどうした?


「おい! 魔物が出たぞ!」


 おっ、もしかすると討伐依頼が初依頼になるかもな。よし、やってやるか!

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