33. 新学期は恋人とともに 前編
今日は新年つまり3学期1発目の櫻子の授業!
教室に入ってくる櫻子は……冬の森みたいな深い緑のジャケットに、裾に白い模様が入ったウールの紺のスカートを着ている!
そしてブラウスから覗く首筋には……私とお揃いのあのネックレス!
つまり、櫻子が身にまとっているのは、私がデートで選んだコーディネートにあのネックレス!
私が選んだ服だから手前味噌とはいえ、櫻子が可愛い! 見惚れちゃう!
私はドキドキしてしまう。
「はい、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね。
冬休みの宿題は……清永さん、昼休みにでも集めて図書室に持ってきて。重たくて申し訳ないけれど。よろしくね。」
「え、あ、はい。わかりました。」
夏休みの宿題は先生が自分で持ってってたよね?
教室が少しざわつく。
「清永……ご指名?」
「あの子、藤枝先生のお気に入り? よく当てられるし。」
まずい……! 教職員にバレなくても生徒にはバレるんじゃ……!
胸はドキドキするけど胃がキリキリしてくる。
「はい、はい。少しくらい生徒を頼ったっていいでしょう。授業が終わったら、宿題のワークを清永さんに渡してちょうだい。それでは、今年初の授業始めるわよ。」
櫻子……藤枝先生が生徒達をなだめて授業を始める。
授業本編になるといつもの藤枝先生で、黒板に板書をし淡々と話し始めた。
今、生徒に見せている表情と声は今まで通り冷たいけれど、私だけが櫻子の可愛い笑顔と甘い囁きを知っている。
自分が選んだ服を着て、自分とお揃いのネックレスを首にかけて、仕事をする櫻子の姿を見て、私の顔はほころんでしまう。
やっぱり櫻子は綺麗。黒板に文字を紡ぐたびに揺れる彼女の黒髪と、黒板の上の方に板書するために背伸びしてさらに華奢に見える彼女の身体に見惚れる度にそう思う。
絶対誰にも渡さない。櫻子は私の恋人なんだから。
誰も知らない私の恋人に見惚れながらも真面目に受けた現代文の授業は、あっという間に終わりを迎えて、時を区切るチャイムが鳴った。
櫻子……藤枝先生の指示通り、クラスのみんなが宿題を私に渡してくる。
「琴葉、藤枝先生に気に入られてるな。」
「千利。うん。先生とは仲良しになれたよ!」
「藤枝先生によろしくね。あやめと徹夜で何とか終わらせたよ。」
「私まで徹夜したみたいに言わないでよ、風評被害だよ。私は、エナドリ飲んで死んだ目をしてる美登の横で優雅に漫画読んでたよ。今日の藤枝先生の服、新しく買ったのかな? 福袋? 可愛かったなー。」
「美登、あやめ。また一緒に宿題やってたの。可愛かったよね! さk……藤枝先生の服!」
服を選んだ張本人はここにいるし、そんな可愛い彼女は私の恋人だ! と自慢したくなるのをこらえるのが苦しかった。
「琴葉。重たくない? 手伝おうか?」
美登の優しくもちょっと困る申し出。
きっと櫻子は私を図書室に呼び出す口実でこんなことをしているに違いないから。
「あー。気持ちはすごく嬉しいけれど、このくらいどうってことないし、一人でサクッと図書室まで運ぶよ。ユーフォニアムに比べればこんなの軽い軽い。」
「そう? あ、藤枝先生可愛いネックレスしてたよね。今まで学校にネックレスしてきたこと……無いよね……?」
「そうまじまじと藤枝先生を見てたわけでもないから何とも言えないけど……琴葉ならわかるでしょ。今まで藤枝先生がネックレスしてたかどうか。」
あやめに聞かれる。私が藤枝先生に詳しいのは周知の事実らしい。
……まあ、私が図書室に入り浸ってるところまでは知られてるみたいだしな……。
それ以上詮索されないようにしなくちゃ。
「うーん……冬休み前まではネックレスしてなかったと思うな。可愛いの見つけて気に入ったのかな?」
うーん、我ながら白々しい!
「だよねー。もしかしたら彼氏からのクリスマスプレゼントかも?」
美登、“からの”ではないかな。むしろ櫻子が私にお揃いとしてプレゼントしてくれたよ。言えないけど!
「藤枝先生に彼氏ねえ。授業だと冷たい印象だけど、彼氏の前だと可愛く甘えてるのかな?」
あやめ、そうなの! 藤枝先生の恋人は"彼氏"ではないけどここにいる! 言えないけど!
「藤枝先生、美人だし甘えてると可愛いんだろうなあ。」
美登、その通り! 甘えモードの櫻子の可愛さは私がよーく知ってます!
「ん? 琴葉? さっきからでれ―っとした顔してるけど。もしかして藤枝先生のこと好きになってる?」
美登は鋭いなあ。そんなに顔に出ちゃってたなんて。
「そりゃあ藤枝先生大好きだよ!」
「おわあっ!? 急に大声出さないでよ。じゃあ先生にネックレスあげた彼氏さんには嫉妬しちゃうね。」
あやめ、ごめん。興奮しすぎた。
「ごめん、藤枝先生に彼氏と聞いて騒いじゃった。」
「……とりあえず琴葉が藤枝先生大好きなのはよーくわかったよ。藤枝先生もそれわかってて琴葉を指名したんだろうな。それはさておいて……。」
「? どうしたの?」
「琴葉の声が大きいから、琴葉が藤枝先生のこと好きなのがクラス中に知れ渡ったみたいだよ?」
見渡すとクラス中が私を見ている!
うわあ、最悪だあ! やらかした!
千利、美登、あやめとお昼ご飯を食べて、私はクラスメイトから集めた宿題を抱えて図書室へ向かう。
テスト期間に来る生徒は増えたけど、相変わらず昼休みに来る生徒はほとんどいないらしい。
まあ、昼休みはそんなに長くないから普通の生徒は友達と喋ったり昼寝したりしてたらあっという間でわざわざ図書室に行くのはよほど本好きか私みたいな特殊な例くらいというのが事実であるようだ。
櫻子、いるよね?
クラスメイトの宿題を片手で抱えて図書室の扉を開けた。
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