1-5. 初めてのデートはクリスマスイブイブ

27. 初めてのデートはクリスマスイブイブ 素敵な恋人の手を取って

 今日は栄都で藤枝先生と初めてのデート!

 ウッキウキの私は、朝から服を選び、髪は丁寧に梳かしてヘアオイルを塗ってドライヤーをかけ三つ編みとハーフアップを組み合わせて紺地に銀糸のシュシュで留め、顔には丹念に化粧水や乳液を塗り込んでいた。

 紺地にレースとフリル、大きな白い襟に、胸元には水色のリボンをあしらったワンピースに、灰色で雪の模様が入った薄いベージュのタイツと黒のショートブーツ。

 持っている中で一番かわいくてお気に入りの服を選んだ。

 上から水色のコートを羽織って完成!

 時間には余裕たっぷり。

 さあ、栄都に向けて出発!


 余裕を持ち過ぎたのか、待ち合わせ場所である栄都駅の地下噴水広場には10時半ごろに着いた。

 待ち合わせ時間の11時までにはあと30分ほどもある。

 適当に近くのお店を見て15分ほどつぶし、また噴水広場に戻ってきて持ってきた文庫本を読みながら待つ。

「お待たせ。琴葉。早かったのね。」

 待っていた声を聞いて本から顔を上げる。

 目の前の藤枝先生は、学校で見る姿よりも綺麗で可愛くて、見惚れてしまった。

 紺のベルトでウエストを締めた淡い青緑色のワンピースに、クリスマスで飾る樅の木や柊のような深緑色のカーディガンを羽織り、灰色のタイツに黒の編み上げロングブーツ。

 その上に紺のコートを羽織っている。

 一昨日学校で見たコートと同じものっぽいけれど、明るい今よく見るとウェストがリボンで締められていてそこから下がスカートみたいに広がっていて可愛い!

 黒髪は先がゆるくふわりと巻かれていて、学校でのストレートとは印象が全然違う。

 顔のお化粧は学校で見るときとそれほど変わらず、白い肌にローズピンクの口紅が咲いている。

 そして、あの甘いラベンダーがふわりと香る。あの香りを嗅ぐだけで私はどきどきしてしまう。

「先生、可愛いです! 綺麗です! 髪巻いてるの好きです!」

「ありがとう。貴女も可愛いわ。良く似合ってるわよ。」

 藤枝先生は私の顔を見つめてくる。

 いつも照れてしまうけれど、今日は先生が可愛いから私も見つめ返してみる。

 先生がまばたきすると、紫色と桃色のアイシャドウがほんのりきらめいて華やかだ。

「やっぱり貴女はお化粧しなくても十分可愛いわ。肌が綺麗でうらやましいくらい。」

「貴女のためならメイクしてみようかな、って思いはしました。でも……いきなりやって上手にできるのか、そもそも何を買えばいいのかさっぱりで……。」

「今の貴女はそのままが一番可愛いわ。私は変な飾り気がなくて真っ直ぐな貴女が好きなんだから。」

「貴女がそうおっしゃるなら、高校生の間はお化粧しないでおきます。」

「そういう素直なところも好きよ。今だって、チーク塗ってないのに頬がアセロラみたいな赤色で、ファンデーションもしてないのに肌はクリームみたいに白くて綺麗だもの。」

「そんなに言われると照れちゃいますよ!」

 まだ待ち合わせで合流しただけなのにこんなに照れてて私は今日一日持つのかな。

 このままだと立ち話で時間が過ぎて行っちゃう。

「あの先生。そろそろ行きません? お昼でお店が混んできますよ?」

「あら、そうね。さて、どんなお店に行きましょう?」

「クリスマスマーケットは食べ物がいっぱいありますので、お昼は軽めがいいと思います!」

「じゃあ、カフェのようなところが良さそうね。歩きながら、良さそうなところにしましょうか。」

「はい。」

 藤枝先生の手を取って歩き出す。地下街は人がいっぱいで、手を繋いでいないとはぐれてしまいそうで心細い。藤枝先生はぎゅっと握り返しながら隣を歩いてくれる。

 これだけ人がいると、うっかり知り合いに見られないだろうか、逆に人が多すぎてわからないのだろうか。

 などと考えながら良さそうなお店を探す。

「あ、ここはどうでしょう?」

 猫が看板に描かれた可愛らしいカフェだ。

「良いわね。入りましょう!」

 カフェに入り、メニューを見る。

 メニューをめくっていると巨大なパフェの写真がドーンと目に入ってきた。

「そういえば大学生の頃、友達とこういう巨大パフェに挑戦したことがあるわ。懐かしい。ゼミの子ともサークルの子とも行ったの。文芸部と演劇部。あの頃は若かったわ。」

「まだ若いですよ! それと文芸と演劇もやってたんですね。」

「うふふ、貴女達を見てて年取ったなあって思っちゃってたけれど、貴女がそう言ってくれるなら、貴女とお付き合いするなら若々しくいないとね。

 そうなの。文芸は緩い集まりだけどみんな仲良くて楽しかった。

 演劇は脚本担当が多かったかな。大道具とか小道具とかも手伝ってたわ。実際に演技するよりも裏方のほうがしっくり来て、そうしてる方が多かったかな。」

「そうだったんですか。見てみたいです。先生の書いたお芝居と文芸の作品。」

「映像も台本も部誌もしまい込んじゃったから探さないと出てこないかな……。見つかったら見せてあげるわ。」

「楽しみです。あ、せっかく2人で来ましたし、久しぶりに挑戦してみませんか? 巨大パフェ。」

「お昼を軽めにするためにカフェに来たんじゃなかったかしら……? うふふ、でもせっかくだしやってみましょうか! 

 そうなるともう食事は本当に軽く、2人で一皿をシェアにしましょう?」

「そうですね。サラダ1つと何かメイン1つ、そしてパフェですね!」

「まあ。じゃあメニュー選んでちょうだい。貴女に任せるわ。」

「うーん、全部私が決めるのなんか申し訳ないです……。」

「じゃあサラダは私が選ぶわ。メインは貴女が選んで。パフェは……2人だとこれかしら?」

「はーい。じゃあ、オムライスでいいですか? パフェは……今ネットで見てますけどやはり2人だとこれでなかなか良いボリュームらしいですね。」

「ええ。オムライスでいいわ。種類も任せるわね。パフェ、私がギブアップしたらその時はよろしくね。」

「わかりました。頑張ります。オムライス、これにしますね。」

「ええ。サラダ、これでいいかしら?」

「はい!」

 店員を呼び注文をする。

 しばらくして料理が運ばれてきた。シーフードシーザーサラダとハッシュドビーフオムライス。

 美味しそうと思っていたうちに藤枝先生が手早く料理を取り分けていた。

「わー! こういうのって後輩というか年下が率先してやるものなのに!」

「うふふ。甘えておきなさい。甘えるのも世渡りの一つよ? もう少し大人になったらわかるかもしれないわ。」

「世渡り、ですか。」

「上の人に甘えるのも、社会でやっていくコツの一つよ。さあ食べましょう? いただきます。」

「いただきまーす。」

 藤枝先生が取り分けてくれたサラダとオムライスを食べ始める。

「美味しいわね。ここにして良かったわ。」

「美味しいですね。」

 千利や日々喜ちゃんとトラットリアでドリンクバーをお供にドリアやパスタを食べに行ったときも、友人とする食事は楽しいし美味しい。

 しかし私は今、恋人の藤枝先生と一緒に、藤枝先生が取り分けてくれた料理を食べている。

 なんて幸せなのでしょう。

「随分久しぶりに、ゆっくりお昼を食べられているわ。学校だとどうしても早食いになってしまって。」

「図書室を開けるためですか。」

「それも1つだけどそれだけじゃないわね。結局、授業の準備もあるし、生徒が来たら対応いるし。」

「本当に大変なんですね……。」

「慣れよ。それに図書室を開けていたから貴女とお話できて、こうして恋人にもなれたわ。大変ではあったけれど、貴女に会えると思ったら、いつの頃からか急いで食べていても心弾んでいたの。」

「そう言ってもらえて私、幸せです。」

「うふふ。さあ、そろそろ食べ終わるけれど貴女、パフェに挑戦する余力はあるかしら?」

「あります! 先生はいかがですか?」

「行けるわよ。貴女と一緒だと、なんだか学生だったあの頃に戻っていく気がするの!」

「先生、素敵です! じゃあ、パフェ頼みますね!」 

 パフェを注文する。20分くらいかかると言われたがメニューにもそう書いてあったし問題は無い。のんびり待とう。 

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