12.5. 伊良湖日々喜、和泉千利に相談する
前書き
琴葉の理解者2名のお話。琴葉の後輩、日々喜ちゃん視点です。
あたしは伊良湖日々喜。どうやら最近、琴葉先輩に好きな人が出来たらしい。
といっても、本人から直接聞いたわけでもない。
ただ、吹奏楽部内で噂は出ている。
今まで散々、他の先輩のコイバナを突っぱねて愛想ゼロの冷淡な反応しか返さなかったあの琴葉先輩が、あの「水辺に願いを」のソロで当初困惑するわ、最終的に本番直前の待機でルンルンだわ。
そしてソロ終わって全部終わった気分になっていた。これは隣でずっと見ていたあたしだから断言できる。
琴葉先輩は、間違いなく恋をしている。
これについては他にも根拠がある。
今までそっけなかった他の先輩のコイバナへの当たりが良くなったらしい。
少なくとも、興味ないと突っぱねることはせず、他人の話は聞くようになったらしい。
しかし……。
琴葉先輩のお相手が誰なのか、決定的な証拠及び証言は無いのである。
誰も琴葉先輩の恋のお相手が誰かわからないのである。
2年生ほぼ全員がかりで本人に問いただしても口を割らないらしい。
先輩、そんな秘密主義者だっけ……?
業を煮やした一部の過激派(言っちゃった。該当の先輩ごめんなさい。)が幼馴染の和泉部長なら聞いてるかもとさらに襲撃を掛けるが成果はゼロ、「知らない」の一点張りらしい。
謎が謎を呼んで、
「あいつにあんな吹き方出来たのか。」
「一体琴葉に何があったのか。」
「あの子は何を見たのか。」
「奴をそこまで変貌させたのはどこの誰なのか。」
と、コイバナ大好きな過激派の先輩方の間では持ちきりである。
(そこまで他人に干渉しなくても、むしろそんな暇があるのかとあたしは思ってしまうがお口チャック。)
が、そんなのんきに他人事のように思っていられる状況でも無くなってきた。
過激派の先輩方の魔の手が、あたしにも伸びてきたのである!
流石にうっとおし……い以前にそんなのあたしも知りたいよ!
……が、襲撃が2〜3日続くといくらなんでも面倒くさくなってきたので流石に和泉先輩に相談することにした。
「ついに日々喜ちゃんもターゲットにされたかあいつらの……。本当に暇なんだなあいつら……。他人にちょっかいかけるくらいなら練習か勉強かしたらどうなんだ全く……。」
どうやら和泉先輩もガチで困っているようだ。
「和泉先輩、本当に先輩も琴葉先輩のお相手のこと知らないんですか……?」
「うーん……。この話、他の奴らのいる所ではやりにくいんだな。練習が終わったら光北駅のトラットリアで落ち合おう。私は少し遅れて入るから先に入店してくれ。それでいいな。」
光北駅は光北高校の最寄り駅である。
トラットリアとは全国展開しているイタリアンファミリーレストランである。お手頃価格なので光北高校の生徒だけでなく、他の高校の生徒もよく見かける。
というわけであたしはトラットリアに先に入店し和泉先輩を待っていた。
和泉先輩は15分ほど遅れてやってきた。
「すまないね。日々喜ちゃんと私が一緒に行動したらあいつらに目をつけられると思ったからわざと遅れた。許してくれ。」
「お気遣いありがとうございます。先輩は何注文しますか?」
「家に晩御飯あるからね。日々喜ちゃんもお家で家族と食べるよね? 生ハムとマルガリータピッツァくらいにしておこう。日々喜ちゃん一緒に食べる?」
「はい! 私はカボチャプリンも食べます!」
「お。それは私も頼もう。」
店員を呼び注文をする。ピークより多少ずれていてお客が少ないからか料理はすぐに出てきた。
マルガリータピッツァと生ハムを和泉先輩が取り分けてくれた。
「あ、先輩! こういうのは後輩のあたしが……」
「いいのいいの。トラットリアを指定したのは私だし。食べたいものも私が決めたし。お金も私が払うさ。」
「流石にそこまでは……。あ、お金先に渡しますね!」
「いやいやいや……じゃあ、半額受け取っておくわ。ありがとう。」
和泉先輩に食事料金総額の半額を渡す。
マルガリータピッツァをつまみながら和泉先輩が切り出す。
「で、本題なんだがな。結論から言うと琴葉が恋をしていることも、お相手が誰なのかも私は知っている。ただし、相手が誰なのかは琴葉から固く口止めされている。琴葉は私を信用して、何もかも打ち明けてくれた。だから、この件については、何も知らないというのは嘘にはなる。しかし、琴葉との約束だ。いくら琴葉の直の後輩の日々喜ちゃんでも明かすことはできない。あいつらには……私からもきつく言っておくが、上手いことあしらってくれ。すまない。」
「ありがとうございます。やっぱり、知ってはいたんですね。」
「まあ、琴葉とは幼稚園からの付き合いだからな……。それに加え琴葉は顔を見れば大体わかるだろ?」
「おっしゃる通りです。あんなに分かりやすい人は他に見たことありません。それにしても、琴葉先輩と和泉先輩が羨ましいです。あたしは小学校の時に遠くから引っ越してきたのでそんな友達はあたしにはいないですもん。」
「中学まではともかく、高校まで一緒だと笑っちゃうかな。まあ元々家が近いからそうなるのもさもありなんだけど。ははは。まあ、この件に限らず困ったことがあったら吹奏楽部関係ないことでもいいから気軽に相談してくれ。」
「ありがとうございます。でも、先輩も抱え込み過ぎないでくださいね。この前琴葉先輩も言ってましたもの。図書室の件だって、和泉先輩があんなふうに頼ってくれるようになったのはつい最近だし、もっと他の人にも甘えるべきだって。」
「まじか。そんなふうに言われてたのか。それなら世話焼きも大概にしとかないとな。……まあ、この琴葉の恋の件だけは私にしかどうにも出来ないだろうから最後まで付き合うけど。」
「また過激派の先輩方に絡まれたらそのときはお願いします。」
「おっけー。よし、カボチャプリン食べてそろそろ帰ろうか。遅くなると親御さんに迷惑かかっちゃうし。」
「はーい。琴葉先輩の恋、叶うといいですね!」
カボチャプリンを食べて会計を済ませ、和泉先輩と分かれてあたしは帰路についた。
それにしても、あの琴葉先輩を夢中にさせる人ってどんな人なんだろう。
光北高校の関係者しか入場出来ない、文化祭にいたみたいだから少なくとも光北高校の関係者のはずだよねぇ。
生徒かなぁ。まさか、教員の誰か?
<後書き>-------
(2022/11/04 追記)
琴葉が恋に落ちた今、第1話で琴葉を辟易させていたコイバナ大好き組が大人しくしてるわけは無いだろと思い書いてみました。
今更ながら和泉千利は僕っ娘でも良かったかなと思いつつキャラが濃くなりすぎるので現行で正解だったと思います。
トラットリアはサイ○リヤそのまんまです。美味しいよね○イゼリヤ。
星月はバッファローモッツァレラのピッツァが好きです。
今後も、琴葉と櫻子の関係進展には無関係だけど裏ではこういうことが起きている、ようなお話を〇.5話として出していくかもしれません。
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