12. 恋心は甘い調べに誘われて エピローグ
文化祭翌日。授業はあるが部活は珍しくお休みだ。本番の翌日くらいゆっくり休めという話である。
放課後、私はいつものように、しかしいつもよりも軽やかに、図書室へ向かった。
期待通り、図書室には藤枝先生がいた。
「来ると思って待っていたわ。吹奏楽部が休みなのは確認しておいたから。」
藤枝先生が、待ってくれていた。え、私の心を読まれていた!?
「まあ、実はそもそも放課後は図書室開けてるから私はどのみちここにいるのだけれども。」
私のためだけに待っていてくれたわけではないのね、そうだよね。
「ここにいれば貴女が来る。そう思うと、あまり人が来なくてもここにいようって思えるわ。むしろいっそ、こうなったら人が来ないほうが……いいえ、今のは聞かなかったことにしてちょうだい。」
人が……来ないほうが……いい……??
藤枝先生が……それを言うの……??
「あの、先生。」
「なんでもないわ。それより、昨日の『水辺に願いを』、素晴らしかったわよ!!! 最初の方は寂しそうに吹いていて、真ん中ですごくエネルギッシュというか情熱的に強くなって、最後はまた願うように静かに締め。音量や音色も良かったけれど、何より吹き終わったあとの貴女の笑顔が素敵だったわ。うふふ、貴女から事前にソロのこと聞けて良かったし、貴女に発破をかけた甲斐もあったわ!」
「藤枝先生、ありがとうございます!!! 先生に褒めてもらえて、私すっごく嬉しいです!!!」
「うふふふふふ。可愛いわ。頑張り屋さんの清永さん♪」
可愛いと頑張り屋さんの2段構え! はわわ、耳まで赤くなるのが自分でもよくわかる。
「先生!」
照れるあまり言葉も出ない。
「うふふ。さて、その情熱を、そろそろ中間テストのお勉強にも分けてあげてね。」
「は、はーい。ガンバリマス。」
満足感でぶっちゃけ完全に忘れていた中間テスト、こっちでも藤枝先生にいいところを見せなくては。
帰宅時間ギリギリまで藤枝先生とお話できる貴重な日。私は部活の日と同じくらいの時間まで図書室で藤枝先生と過ごした。
下校時刻はあっという間に訪れ、私は名残惜しいまま図書室を後にした。
琴葉を帰したあと、藤枝櫻子は司書室で小テストの採点を始めようとしたが手につかなかった。
(駄目よ。図書室の管理者が、図書室に人が来ないほうが良いなんて思っては。いくら人がいないのが普通だからって……。生徒がたくさん来るよりも、清永さんに来てほしい、清永さんと2人で過ごすほうが幸せだなんて、私は何を考えているの。あの子は……生徒の一人、他の子と同じ……。)
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