10. 恋心は甘い調べに誘われて 5

前書き

※「水辺に願いを」は架空の楽曲です。



 文化祭2日目。私にとっては今日が本番だ!(言い切ってしまうとクラスのみんなには申し訳ないけれど。)

 タイムスケジュールは以下の通り。


10:00 筝曲部

10:30 (場面転換)

11:00 吹奏楽部

12:00 (休憩時間)

13:00 ライブ ライナロック 

14:00 ライブ サイコロジー・ロック

14:30 ダンス  ☽Lunatic Lovesick♡

15:00 ダンス ★Shooting Star彡

15:30 (フィナーレに向けて観客席の椅子撤去)

16:00 実行委員会によるフィナーレ 体育館で光北ダンス!


 ……ダンスとライブのグループ名、なんか似てるのが集まってるような、そしてどっかで聞いたことあるような気がするのは気のせいだろうか。

 筝曲部の発表を聞いた後、私達は音楽室から楽器を搬入しセッティング。ありがたいことに体育館の舞台に乗り切れないほど私達は人数がいるので、パーカッションと金管楽器を舞台上、コントラバスと木管楽器、そして指揮台を舞台下の特設ひな壇に配置する。

(前にうちの高校は人数が少ないと嘆いたが体育館の舞台に乗り切れないというのは、一年生がいっぱい入ってくれたのと、うちの体育館のステージが狭いという、嬉しい話と悲しい話の合わせ技である。)

 部員で手際よく椅子やひな壇、楽器を配置しセッティングは時間余裕5分で完了した。

 さあ、いよいよ本番だ!!


 吹奏楽部のセットリストだ!

 

  1.宇宙戦艦ヤマト

  2.サンバ・ベアー(ダンスあり)

  3.シング・シング・シング

  4.ムーンライト・セレナーデ

  5.水辺に願いを

  6.エル・クンバンチェロ (振付あり)

  Ex.ルパン三世のテーマ


 頭3曲が明るく楽しく、4曲目5曲目でしっとり(もちろん私の最大の見せ場は5曲目!)、6曲目でハチャメチャバカ騒ぎ、最後のアンコールでさらにアゲていく万全のセットリスト!(※少なくともやる側はそう思っている)

 時間余裕たっぷりのセッティングを経て舞台袖…には入りきらないので渡り廊下へ待機、私はこの時間が一番緊張する。開演していざ舞台へ上がってしまえば後は練習通り演奏するだけ、頭も体もフル回転、だから緊張なんてしてる暇もない。だけれども舞台袖(今は渡り廊下)の待機時間は必要なことも余計なことも考える余裕があるから緊張する。

 今日の緊張は今までの吹奏楽の本番でも最大、いや、人生最大だ。私は中学でも吹奏楽をしていた。その時からずっとユーフォニアムだ。ソロ自体は中学でもやったことはある。しかし、今回は今までのソロとは意味が違う。目の前にいる聴衆の数はだいたい700~800人程度だろう。

 しかし、私が聞かせたいのは藤枝先生ただ一人だ。よく緊張を紛らわすために客を全員ジャガイモだと思えという言い回しがあるが、今の私にとっては藤枝先生以外の誰もかれも何もかもがジャガイモだ。美登をはじめ見に来てくれる友人達も含めて。申し訳ないけれど。藤枝先生はユーフォニアムがよく見える上手側に座ると仰っていた。『水辺に願いを』が始まるまでに頑張って探しておこう。

 こんなことを考えている間に開演5分前。恒例のアレの時間だ。どこの吹奏楽部でもやっていることかもしれないが、舞台袖で円陣を組んでおー!ってやるアレである。

 部長である千利の号令で全員が円形に並…べないので2列に並んだまま。

「楽しむぞー!」「おー!」

 客席まで響かないように小声で鬨の声をあげる。

 開演を告げるベルが鳴る。

 体育館の引き戸が開かれ、照明が落とされて暗い中を舞台に向かって進む。

 楽しい本番の始まりだ!!

 全員が席に着き、舞台の明かりが灯される。

 オーボエがB♭を鳴らしチューニング。

 木管楽器、金管楽器の順にオーボエに合わせてチューニングをする。

 木管楽器がチューニングしている間に……あ、藤枝先生! 見つけました!

 あまり客席を見すぎると不自然なので、藤枝先生の場所を覚えたところで視線を指揮者に戻す。

 再度オーボエがB♭を鳴らし、金管楽器のチューニング。よし、大丈夫。

 更に木管楽器と金管楽器でB♭を合わせる。

 これでチューニング完了だ。

 指揮を振る顧問が指揮台に立ち一礼、私達のほうに振り向き、指揮棒を振り上げ構え、私達を見て指揮棒を振り下ろす。

 GO!!!!!!!!!!

 1曲目、宇宙戦艦ヤマト。おなじみのあの曲だ! もはや老若男女問わず知られた名曲ではなかろうか。掴みはばっちりだ! ちなみにこの曲もソロではないがユーフォニアムがメロディーやっている。藤枝先生、気づいてくれたかなあ。

 2曲目、サンバ・ベアー。おなじみ「森のくまさん」を愉快なサンバにしたものである。舞台の両端で有志がリラ〇クマとかプ〇さんとかあらゆるクマキャラクターの着ぐるみでキレよく踊る!

  3曲目、シング・シング・シング。有名な吹奏楽映画……いやあれは女子高校生がビッグバンド組む話だから吹奏楽とは違うな。まあ、細かいことは置いといてあの映画で有名になったらしいよ。それ以外にも某冒険とイマジネーションの海で世界的に有名なかっこいいネズミさんことミ〇キーがカッコよくキメてるらしいよ! まあ私はリアルで見たことなくてYoutubeでしか見たことないけど! 戯言(たわごと)は置いといて明るく楽しくレッツジャズ!

 4曲目、ムーンライト・セレナーデ。これもあの女子高校生ビッグバンド映画に出てきたらしい。同じジャズであり一つ前のシング・シング・シングと打って変わり、クラリネットメインの甘く柔らかい一曲。

 ……ここまで順調。今、ムーンライト・セレナーデが終わった。さあ、いよいよ5曲目、『水辺に願いを』だ。

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