四之巻、秘めたる花に想い初(そ)め
「くそぅ、
「マルニンの四人もでさあ。ったく、大物が六人もいっぺんに現れるたあね」
「今日罪を犯したのは
静かな声は捕り方たちの後ろから聞こえた。昔の
年の頃なら三十手前か、端整な顔立ちに理知的な黒い瞳が冴える、この男こそ、ここ数年来夜たちを追っている警部、原亮だった。
奉行所には警察部屋、裁判部屋、土地戸籍部屋、都税部屋など様々な部屋が設置されており、「警部」は警察部屋の警視の下、警部補の上、捕り方たちをまとめる役職だ。公務員採用試験合格者は警部補として採用されるから、原亮のように若くして警部となる。だが優秀な原亮が、一向に警視に昇進しないのは――
「警部は現行犯以外では捕まえようとされねえから」
「警部なりの正義とか、浪漫があるんだろうけど……」
小声で言い交わす捕り方たちは、不満そうだ。それに気付いているのかいないのか、
「私は先程堀の中へ落ちた修理屋を救出してくる。
言い残して大門の方へ足早に去っていった。
堀から助け出した修理屋ふぁしるは、気を失っていた。
ふぁしるの腕は天下に鳴り響いているが、その商売はかなりあこぎだと聞く。金持ち客相手に、足元を見て高額な治療費をふっかけるばかりではなく、未だ証拠は揃わぬが、買い取った
「修理屋、聞こえるか?」
肩を揺さぶるが、ふぁしるは目を開けない。
(心臓は……)
鼓動を確かめるため黒い服の上からそっと左胸に手を押し当てる。ぷにゅ、とやわらかい感触。
(女だ――!)
大変な秘密を知った気がする。
(ちょっと失敬)
呼吸の確認を口実に、目の下から顎までを覆っている黒い布をそっと下ろすと――
(――――)
この日初めて、原亮は恋を知った。少年時代青年時代を勉学に捧げ、成人してからは警察部屋の仕事に夢をかけていた男が。
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