夜来化石 ~遊郭に残された謎の四字に秘められた意味は?齢九歳にして天下一の盗賊と噂される俺は、盗みと女装なら誰にも負けねえっ!(「ウチの親方が一番かわいい」手下A・談)~
三之巻、花の吉藁いくさ傳(でん)、尋常に勝負せよ!(前篇)
三之巻、花の吉藁いくさ傳(でん)、尋常に勝負せよ!(前篇)
田んぼの中を大回りして、
(ここだな、金の瞳を持つ
来夜は
だが天下一の盗み屋槻来夜に、これしきの障害は朝飯前。出掛けに付け替えた左手はただの少女の手ではない、「忍び込み用」なのだ。裏ではこういったお
「それっ」
掛け声ひとつ、左手薬指の先が飛んだと思うと、塀の中、妓楼の軒先に引っかかる。よく見れば、手元から紐のようなものでつながっている。紐の長さは、来夜の意志で自由に変わる。
助走をつけて飛び跳ねた来夜の影は、次の瞬間塀に垂直に立っている。思い切り塀を蹴れば、小さな体は空に舞い上がり、ぐんぐん短くなる紐に吸い寄せられて、あっという間に妓楼の屋根に着地した。
ぺん、と薬指を軒下からはずして、にんまりする。
「大成功★」
だが急に心配顔で、ふところから手鏡を取り出し、上目遣いに、かんざしの向きをちょいとただす。紅をぬった唇でにっこりほほ笑んでみれば、我ながらふるいつきたくなるようなあでやかさ。こんなこと思ってるのは自分だけとも気付かず、来夜くんは大満足だった。
お次は店の中にしのびこむぞ、とまたもや薬指を伸ばそうとしたとき、すぐ下から女の悲鳴が聞こえてきた。
「おやめ下さい、旦那様!」
悲鳴に混じって、必死になだめすかす女たちの声も聞こえる。
こんな外見だけど、来夜の持ち前の義侠心に火がついた。女子供が困っていたら助けなければならぬ。
来夜の理論では、自分は子供ではない。なぜなら強いからだ。
何はともあれ、泥棒だけど、弱きを助け強きをくじく来夜の姿勢は、盗み屋マルニンを一気に都の人気者にした。近頃じゃあ、歌舞伎役者も
だがマルニンの前頭目
窓から素早く忍び込み、来夜は走りにくい着物の裾をからげて悲鳴の聞こえる方へ急いだ。
「
問う声に見向きもせず、まだ閑散としている廊下を走り抜け騒ぎの座敷にたどりつく。からりと
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