第4話 音 〜その弐〜
休日の土曜日の昼間、読書をしながらうたた寝していると、冷蔵庫が轟音を放った。
轟音といっても不快な大音量ではなく、普段は全く気にならない冷蔵庫が不意に音を立てるので、普段と比べれば、まぁ、轟音と捉えようといった程度の音。
その音のお陰で眠気が消えていった。
すると、直上のベランダからいつもとは違う洗濯機の音が聞こえてきた。
僕は、上の階の家族さん、三〇代後半と思わしき旦那さんと二〇代後半と見受けられる奥様、(少しだけ派手目)来春には小学校に入学するのか、と、いったようなお坊ちゃん。この三人家族の声も聞こえてきた。でも、どんな内容を話しているのかまでは分からない。
その生活音のお陰で、僕も洗濯機を回さなければならないことを思い出した。
僕の洗濯機は全自動で洗いを一回、濯ぎを二回、脱水を二回してくれるプログラムが勝手にしてくれる。
その直上階の家族は僕の洗濯機の一回目の脱水が始まったと分かる音を立てていると、会話は静まり返った。それと、洗濯機のドラムが不安定な回転軸で回っていて、普段よりも不快な音を発していたのも聞こえなくなっていた。
僕は自分の洗濯機がプログラム通り脱水まで終えると、ビーピーピーと合図してくれた。
僕の出番になった。自力で〝干す〟わけだ。
後々、乾いた洗濯物を取り込み、畳むのだが、それが僕は嫌いなんだ。だから、畳む時に煩わしい作業をしないようにと、裏っかいしなっているもは、表に直して干している。
この日も何の変化はなく洗濯干ミッションはコンプリートした。
後日、晩ご飯を準備していると、階段から聞き慣れない男性たちの声と奥様、お坊ちゃんの声が聞こえてきた。
今回も話を内容を詳細に知り得るまでの音ではなかった。
しかしながら、耳を澄ますと、男性たちは何かを運んでいるようだった。
数分後、直上のベランダから声が聞こえてきた。勿論、内容まては分からない。でも、それに加えに物を動かす音が聞こえてきた。なかなかの重量感。
晩ご飯を食べ始めると、再び階段から男女と男児の声が聞こえてきた。
『ありがとうございました』
奥様の声が聞こえると、それが最後の音だった。
僕の晩ご飯が終了に近づくと、再びベランダから声が聞こえてきた。勿論、内容は分からない。それだけではなかった。軽快な洗濯機の音と奥様とお坊ちゃんが喜んでいるような声が聞こえてきた。
僕は思い出した。僕の眠気を掻き消してくれたあの日、洗濯をしないといけないことを思い出さしてくれたあの日を。
洗濯機が壊れてしまって、今日、新品の洗濯機が届いたんだろう。
本気で記憶を遡ってみると、直上階のご家族の洗濯機が壊れたのは二日前だった。
成る程、普段、当たり前のように洗濯をしているが、それが思い通りにできないと不安が募ってしまうはずだ。
上の親子は、その不安が解消されて喜んでいたのだろうと思った。
家事は奥深い。なに不自由なくできていたこと、生活していくため、生きていくために当たり前にできていたことが、できない状況に追いやられると不安でしょうがなくなるよな。
それが、いちばんの幸せかもしれないな。
終 次回、第五話 磨く
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