第3話 音
「カミヤさん、今日はね天ぷら油が安くなってるわよ、お一人様、五本までなんだって」
僕が住んでいるアパートの大家さんと近所のスーパーで出会すと、よく声をかけてくれる。
僕の隣りが大家さんご夫婦なので、僕に声をかけ易いんだと思う。ありがたいことだ。
僕は天ぷらを作ることがあるから、勧められたように一.五リットルを五本買うことにした。
僕が好きな天ぷらの具材は、天ぷらというより、揚げ物になるかな。
冷凍で売られている白身魚フライや、冷凍ポテト。それと、キノコ類、鶏は唐揚げにしたり、とり天にしたりもする。後はかき揚げかな。
独り暮らしを始めた当初、揚げ物は苦手だった。油の温度調整や油からあげるタイミングが難しかった。
冷凍物の中身の焼け具合が中途半端だったり、鷄肉がレアになっていてチンしないといけなかった。
そんなことが続いたので、揚げ物を作る機会が減った時期がある。
その壁を乗り越えたのは、テレビや動画サイトの料理番組だった。
いちばんの要因は〝音〟だった。
菜箸を油に入れて泡が立つと、揚げる物をソーッと油に入れる。
同時に具材から泡が立ち、間隔が短いプチプチって音がする。一旦、音は静まるけど、また、同じような音が復活する。
衣や具材の表面が黄金色に彩られてくると、その音は静かになる。そうなると、泡の大きさが小さくなり、泡の数も減ってくる。
そうなってくると、そろそろ揚がり時。正確ではないけど、早く油に入れたものから上げていく。
漸く、最近になって、自分が納得できる揚げ物が作れるようになった。
家事は奥深い。熱い油が音を立てるように、他の場面でも音がする。
色んな場面で耳を澄ませば、楽しく家事ができそうだ。
終 次回、第四話 音 〜その弐〜
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