第6話



 律斗とは気ずいたときにはもう一緒にいた。


 お母さんから聞かされた話だけど、昔律斗一家が家族旅行に行くことになり一緒にいられなくなるとわかった私は、大泣きしたらしい。多分そんなこと律斗はもう覚えていないんだろうな……。


 もう一人の御坂とはいい女友達だと思う。暇なときは喋って……。御坂とは昔からは仲が良かったわけではない。「そういえばいるなぁ~」といつも顔を見ていたが、小学生のとき今のように仲良くなった。今では私と同じ、律斗の愛人だ。


 千弘とも幼馴染だけと……まぁ、私はそんな仲良くない。


 そんな恵まれた幼馴染に囲まれた私は、幼馴染である律斗のことが気になって仕方がない。

 この『気になる』という気持ちは自分でもよくわからない。他の女の子と一緒にいたら心がムズムズしちゃう。


 だから私は、日頃から律斗に抱きついている。


「って、また腕に……。いやそのままでいいや。あんまりこういうことは俺以外の男にしちゃだめだからな」


「はぁ〜い。もしかして律斗、私のことを心配してくれてるの?」


「当たり前だろ。大事な幼馴染なんだから、いつ結愛が変な男に引っ掛けられるのか心配なんだよ」


 えへへ。そんなふうに思ってくれてたなんて嬉しいぃ。


「安心して! 私は律斗以外にこんなことしないからっ!」


「そ、そうか。しないのならいいんじゃない? 知らないけど」


 思わずドキッとするようなことを言ってるけど、さすが律斗。全然テレてくれない。こうなったら……。


「そういえば今日の放課後は御坂と千弘の二人、帰り遅くなるみたいだってね」


「へぇーそうなんだ」


「うん。だから今日、放課後一緒に愛人としてデートしない?」

 

「デート? 遊びに行くんじゃなくて?」


「そう! やっぱり私たち、せっかく愛人になったんだしそれなりのことはしないとねっ!」


「お、おう。じゃあ放課後はデートするか」


 私たちは慣れないことを口にしたせいで、ぎこちない歩き方をしながら学校に入った。



***



 愛人ではなく彼女彼氏の距離感でデートをするなんて、まるで付き合っているみたいじゃないか。

 そんな疑問を頭に残しながら、俺は結愛といつも通っているゲームセンターに来ている。


「うわ〜! 見て見て! とれた!」


「お〜すげぇ」


 手に持っているのは、手のひらサイズの2つのブサイクな猫のぬいぐるみ。とてもじゃないがかわいいとは思えない。

 結愛はその一つを差し出してきた。


「これ、あげる」


「ありがと」


「ふっふっふっ。これで寂しくなったらいつでも私のことを思い出していいんだぞっ!」


 冗談交じりに胸を張って言った結愛は、クレーンゲームに興味が失せたのかコインゲームの方に行った。

 言われなくても、一人で寂しくなったらこのぬいぐるみで結愛のことを思い出すつもりだったので恥ずかしい。


「ふぅ〜もうこんな時間になっちゃったんだ」


 ゲームセンターを一通り遊んだ俺たちが外に出る頃には、空は夕焼けが終わり暗くなり始めていた。

 

 デートと言ってゲームセンターで遊んでいたが、普段となんら変わらなかった。

 まだデートっぽいことは一切していない。


 もちろんこのままじゃ結愛はこれだけじゃ満足しておらず。


「ねぇ、ちょっと歩かない?」


 人気のない道を指さして、そんなことを提案してきた。


 薄暗い道。

 

「律斗ってさ、御坂のことどう思ってるの?」

 

 無言を突き通して隣を歩いていた結愛から、思いがけない質問が飛んできた。

 

「幼馴染だけど……」


「な、なら私も同じ幼馴染? 同じ愛人だって思ってるの?」


 どこか悲しげな声が鼓膜を刺激する。


「……なんでそんなこと聞くの?」

 

 どう答えるのが正解なのか分からず、逆に質問し返してしまった。結愛は「んんん?」と首を傾げ、同じように返答に困っている。


「なんでなんだろう……? ねぇ律斗。私、律斗が私以外の女の子と喋ってるのを見ると心がズキズキするの。それってなにか関係あると思う?」


「さ、さぁ? わかんないや」


 片思いだと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。


 結愛は俺と同じ気持ちを抱いていることに気づいていない。それが『恋愛感情』だということは、俺から伝えると気まずいので口に出さない。


「律斗でもわかんないことあるんだねっ!」


「そりゃあるよ。ずっと俺と一緒にいるのに、欠点がないと思ってたの?」 


「はっはっはっ! 冗談やめてよ」


「冗談じゃないんだけどな……」


 その後俺たちは暗くなった街を歩きながら、対して意味のない他愛のない雑談をして家に帰った。


 最初こそ普段と変わらなかったが最後はデートっぽかった。

 だが、『片思いじゃなかった』という衝撃の事実を前にして家に帰る頃には、どんなことを喋ったのか思い出すことはできなかった。

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