第4話
俺が所属している放送委員会の主な仕事は朝や昼、帰りの時の放送だ。委員会の中では幽霊のように存在感のない俺だが、一応仕事は振り分けられている。
昼に音楽を流すだけの仕事だが、面倒極まりない。
今日が当番だということに音楽を流さないといけない3分前に気付き、急いで放送室へ。音量設定をミスったせいで最初爆音で音楽を流してしまったが、忘れてしまうという大事には至らなかった。
「あ、律斗! なんかさっきすごいでっかい音で音楽なったけどあれなんなの! 耳壊れるかと思ったんだけどっ!」
放送室を出た途端、結愛から苦情がきた。
「ミスったんだよ。まぁ人には誰しも間違いっていうのがあるんだ。後ろばかり振り返らず前を見よう!」
「私なにかしたかな……」
首を横にかしげ、勘違いして過去を振り返っている結愛をつれ教室に戻ると俺含め4つの机がくっつけられていた。
御坂と千弘がもう座っており、空席は俺たちの席。
「なになにっ? いつもバラバラで食べてたのにみんなでたべるの?」
「ええ。仲が良い人とご飯を食べると楽しいからってことで。ね? 律斗?」
そんなこと言った覚えはないが、なにかいうと御坂も千弘に愛人だということを言いそうなのでその話車に乗ることにする。
「やっぱ、昼は楽しい方がいいじゃん?」
「やったぁ〜! こうやって机をくっつけるなんて中学生ぶりじゃない?」
結愛は嬉しそうに椅子に座った。俺も続いて座る。
隣りにいるのは結愛で、正面にいるのが御坂。一見したらこの机は適当に並べたように見えるが、俺には正面にいる御坂から靴を脱いだ足でさっきからツンツンされているので、意図的に並べたとしか感じられない。
「うんまぁ〜……。やっぱりお昼はお母さんの手作り弁当に限るねっ!」
結愛はおいしそうに弁当を食べ始めた。
それを見て邪魔されないと感じたのか、御坂は今一番言ってほしくないことを千弘へ堂々と言い放った。
「私、実は律斗の愛人なんだ」
「……えっ?」
千弘は御坂の言っていることに対して驚いたわけではなく、俺に向かって驚いてきた。
「えぇ? なぜ?」
「成り行きみたいな感じで……。一応言っておくけど、俺は別に「愛人になって」とかそういうふうにお願いなんてしてないからね。今回ばっかりは御坂の方から一方的で……」
「私が愛人になったのは結愛のことが心配になったからなの」
「いやでもそれだけの理由で幼馴染の愛人になんてなろうとするか?」
千弘は御坂が適当な口実で本当に俺の愛人になろうとしていると勘づき、口から「本気かよ……」と言葉が漏れた。
俺も最初本気だとは気づかなかった。
「やっぱり愛人ライフはやめられないねっ!」
少し重い空気になっている中、そんなことを気にせず結愛が割って入ってきた。あっという間に弁当が空になっている。
「愛人って言うのは恋人とちょぉ〜っと違うから、その分普通に生活していて感じることのないハラハラ感を感じれるから最っ高!」
「そのハラハラ感っていうのは具体的にどんなこと?」
「ん〜? そりゃ周りに悟られないように愛人として接する時に感じるアレだよアレ。ぞくぞくってしてきゅ〜ってするやつ」
結愛はあたかも愛人の立場を知っている人に説明するように言ってくるので、アレとかぞくぞくか言われてもなんにもわからない。
「え。結愛って周りに悟られないようにしてたのか?」
一番最初に俺たちの異変に気づいた千弘がジト目で結愛のことを見る。
「当たり前でしょ。それが愛人として必要なスキルってやつだもの。まぁ、千弘に気ずかれちゃったからまだまだ練習が必要みたいだけどねっ!」
「あはは。結愛が練習なんてしないでしょ」
「なにを〜! する! これ以上律斗の愛人って周りの人にバレないようにするために絶対にするんだからっ!」
「ま、意気込みだけならどうとでも言えるよね」
「千弘め。最近先輩の彼女さんと仲が良いからって……」
その日の放課後。千弘が挑発したのが結愛は効いたらしく、俺と御坂は結愛の家に呼ばれ『愛人だとバレないようにする連絡』をすることになった。
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