第3話



 朝、学校に通学する時間がなによりも苦痛に感じる。のだが、今日は朝から二人の幼馴染もとい愛人とばったり遭遇したのでそんなもの吹っ飛んだ。


「そういえば御坂って水泳部の朝練しなくていいの?」


「……あ、忘れてた」  


 御坂は顔を真っ白にし、結愛に「律斗のことは頼んだぞぉ〜」と叫びながら学校へと走っていった。

 せっかく三人でいられると思ってたのに残念だ。


「御坂、律斗の愛人として頑張りたい気持ちがあるというのに他のことを犠牲にしないのかっこいいっ! 律斗もそう思はない?」


「? まぁ一つのことに一生懸命になるってことはすごいことだとこもうよ」


「だよね。すごいよねっ!」


 おそらく結愛と言っていることが違ったが、いいように勘違いしてくれた。


 これでまだ朝で本調子ではないと考えると、学校についたときどんなことを言われるかたまったもんじゃない。


「結愛。学校じゃ、俺たちの関係は秘密でお願い」


「そんなの当たり前だよ。だって私たちは愛人という関係……。愛人っていうのはね、バレちゃけいないんだよ。この前見たドラマでやってたっ!」


 一体そのドラマではで愛人をどういうふうに説明していたのやら。


「そっか。ま、わかってるのならいいよ。でも何かの拍子で言っちゃうのは気をつけてね」


「ふっふっふっ。この結愛ちゃんに任せなさいっ!」



「お前たちもしかしてなんかあったか?」


 結愛は登校中、自陣満々に「任せなさいっ!」などと言っていたが早々に俺の友人である岩片千弘いわかたちひろに関係を勘づかれてしまった。


「なんでわかったんだ?」


「そりゃあお前ら……そんな結愛がとろけた顔で律斗にくっついてんのに、何もないはおかしくないか?」


 登校している時から腕に抱きつかれていたので、とくにおかしいとは気づかなかった。


 千弘の「お前やることやってんね」とでも言いたげな視線が痛い。


「言っておくけど、俺たちはなにもないからね。な! 結愛」


「うん! 愛人になったけどまだなにもないよっ!」


「愛人?」


「そうそう。愛人。この前律斗に言われてなったんだぁ〜。いいでしょ?」


 あぁ。やっぱり結愛の口をふさぐことはできなかったか……。


「別に俺はいいとは思はないけど……。律斗、お前それでいいのか?」


 千弘は結愛に聞こえないように小声でそう聞いてきた。

 過去に御坂と同じく、千弘にも俺が結愛が好きだという気持ちを伝えてあるのでそういう反応になるのは当たり前だ。


 心配した瞳を向けてくる。


「大丈夫だよ。正直この愛人関係ってやつは王様ゲームのノリで始まったことだし……。多分すぐ結愛のほうからつまんなくなるさ」


「そうなればいいが……。こんなこと言うのも何だが、好きな人を愛人にするっていうのはあんまり響きがよくないぞ」


「わかってるよ。でも、俺はこれが告白する絶好のチャンスだと思ってるんだ」

 

「確かに、そうかもしれないな。相談事があればいつでもしてくれ。俺はいつでも律斗の味方だからな」


「本当にいつもありがとう。なんてお礼を言ったらいいのかわかんないよ」


「いいんだ。俺も今の彼女と付き合うまでいろんなことがあったからな……」


「もうっ!」


 俺と千弘が小声で喋っていたら結愛が不機嫌そうに声を張ってきた。


 話し込んでいて少し放置しすぎたのかもしれない。


「ゆ、結愛。ほったらかしにしてごめん」


「ふんだ。わかってくれればいいんだよっ!」


 不機嫌そうな態度なのは治っていないが、俺が謝るとどこか嬉しそうな顔に戻った。


 たまに、結愛は俺が誰かと喋っているといつも割って入ってくるような寂しがり屋だということを忘れてしまう。


「じゃ律斗。俺は図書委員だからさらば」


「おう。またな」


 千弘が教室を出ていくと、結愛はこのタイミングを見計らっていたのか「でへへ」ととろけた声をかけてきた。


「りちゅと」 

 

「なに?」


「りぃ〜ちゅと」


「ん?」


「でへへ」


「??」


 何を言いたいのかよくわからないが、結愛が嬉しそうなのでいいことなんだろう。


 そんなこんな普段聞かない結愛のとろけた声を聞いていると、朝練終わりのへとへとになった御坂が教室に入って来た。

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