第9話 体育祭の準備
生徒会の目的は復讐だが、表向きには普通の生徒会ということになっている。となれば普通に生徒会としての仕事もこなさなければならない。そう、例えばイベントの準備とか。
「体育祭って……二か月後のか?流石に気が早いと思うが」
「普通ならな。けどこの高校は新設校で、何もかもが初めてのことになる。体育祭もその内の一つだ。あまり失敗はしたくない。それに……ここで生徒会が活躍すれば生徒達からの評価が上がり、今後色々と動きやすくなるだろうからな。やって損はないだろ?」
「なるほどね。それじゃあ体育委員長決めてその子達と一緒に進めないと」
「そうだな……全員違うクラスだし、それぞれ話し合いの場を設けて決めてといてくれ」
「…………」
「?瀬戸、どうした?」
急に黙り込んだことを不思議に思って声をかけると、瀬戸は少し顔を青くして重々しく口を開いた。
「……どうしても生徒会が話し合いの場を作らないといけないのか?」
「イメージアップの為にはそうしたほうがいいだろ。嫌なのか?」
「…………どっちかというと嫌だ」
「お前……目立ちたいんならそれくらいやれよ」
我が儘な瀬戸に呆れて思わずため息を零した。
どうせみんなをまとめるのが面倒とかそんな理由なんだろうが……生徒会に入った以上、そんな理由でサボらせるわけにはいかない。しっかり、それ相応の仕事はしてもらう。
「時間配分やプログラムの順番は後で決めるから、とりあえず希望の種目だけまとめといてくれ」
「オッケー」
「…………はあ」
めんどくさそうにため息を吐く瀬戸に呆れつつ、紙を持って教室へ向かうことにした。
◆ ◆ ◆
「おお……意外と案が出てるな」
放課後、今井と瀬戸が持ってきた紙を見て驚きの声が出る。
特に瀬戸。あんなにめんどくさそうな態度しておきながら結構話し合いの内容を的確にまとめてる。
「お前……仕事できたんだな……」
「は?俺を誰だと思ってるんだ。それくらいできる」
「え~?教卓に立っても全然気付かれないから同じサッカー部の堀内に助けてもらったって聞いたけど」
「…………うるさい」
ああ、なるほど。影の薄い瀬戸が話し合いの場を設けられるか少し心配だったんだが……そういうことだったのか。まあ、仕事さえこなしてくれれば過程はどうでもいいけど。
「とりあえず、できる競技とできなさそうな競技で分けてからプログラムを組むか」
「校長に確認しなくていいのか?」
「大体の決定権は私にあるからな、いちいち聞く必要ないだろ」
「……苗字から何となく察してたけど、お前あの篠崎の人間なんだな」
「今更かよ」
「いいよねぇ。篠崎の娘ってだけで好き勝手できるなんて」
「…………私だって、好きでそうしてるわけじゃねぇよ」
本当は学校を造る必要なんてなかったんだ。直接いじめっ子達をボコボコにするなり何なり、別のやり方があったはず。でも……それじゃあ、あいつらは身体が傷付くだけで精神的な傷は何も負わない。真琴をいじめたことを後悔することはない。
_____そんなの許せるわけがないだろ。あいつらには後悔してもらわなきゃ困るんだ。それこそ……人生そのものを壊してでも。
「ふーん。お父さんとあんまり仲良くないんだね」
「仲良くないとかそんなもんじゃ……いや、そんなことはどうだっていいんだよ。大体、父親自体が私に責任全部取るよう言ってきたんだからいいだろ」
「……まあ、いろんな家庭があるよな」
瀬戸からの謎のフォローを無視して作業に移る。
予算は気にしなくてもいいから、その面で却下することはないが……時間の都合上、全部を採用するわけにはいかない。
50m走や100m走は必須として、リレーも入れておくか?あとは借り物競争とハードル走と……残念だけど部活対抗リレーは却下しておこう。設立したばかりで対抗リレーやってどうする。運動部ならともかく、他の部活は部員足りないだろ。
「えー?部活対抗リレーやらないの?」
「やらない。やるとしても来年だ」
「ちえっ。俺達が目立つせっかくの機会だったのにね」
「本当にな。何でやらないんだよ」
不満げに抗議する二人にため息を吐く。
「あのな……お前らサッカー部やバスケ部、野球部みたいな運動部はそこそこの人数いるからいいものの……その他の部活の部員はほとんどリレーできないほど少数なんだよ。私達は一期生で生徒は200人しかいない。一年目にやれることは少し限られる。そこは忘れるなよ」
「お前……それでも篠崎家の人間かよ」
「うるせぇ、文句言ってる暇あったら作業しろ。大体、目立ちたいならほとんどの種目に出ればいいだろ」
それだけ言って作業に戻る。これでも多めに取ったほうだっていうのに。
推薦する生徒の選出はかなり慎重にやった。篠崎高校の評判が上がるよう、過去に何もやらかしてない、そして勉強のできる生徒を真剣に探した。それに、ルールが守れて協調性がある人間のほうが操りやすいからな。今井や瀬戸みたいに自我が強いタイプばかりだと利用しにくい。来年からは推薦だけじゃなく受験の制度も作るつもりだが……上手く集まるかな。
「______よし。こんなもんでいいだろ」
完成したプログラムを眺めて頷く。順番も時間も特に問題ないはずだ。
「この紙をコピーするから、明日のHRで配っておいてくれ」
「分かった」
「うん、良い感じになったね。……あ、そういえば。橘はどの種目に出るつもりなの?」
今井がプログラムの紙を見ながら聞いてくる。私も同じように紙を見つめて……少し考え込んだ。
そもそも運動はあまり好きなほうじゃない。苦手なわけじゃないし、むしろ同年代の女子の中ではできるほうだ。だけど好きじゃない。疲れるし目立つし、何より……真琴が見ていないのなら活躍する意味もないと思ってしまうから。
だから今回の体育祭でもできれば走りたくない。極力休んでいたい。となると……。
「……借り物競争かな」
これなら多少力を抜いて走っても勝てるだろう。借り物の紙もこっちで用意するし、変なものに当たることはない。
「え?それだけ?」
「楽しようとしてるだろ」
「私はお前らと違って必要のないところで目立ちたくないの。それ以外は運営の仕事するんだから別にいいだろ」
生徒会は楽できる役職ってわけじゃないからな。
「______あ、もうこんな時間か」
ふいに時計を見た今井が声を上げた。作業に集中していたせいで気付かなかったが、いつもの下校時間を大幅に過ぎていたらしい。
今井は鞄を肩にかけるとソファから立ち上がってドアに向かった。
「それじゃあ、俺は用事があるから先に帰るよ。最後まで手伝えなくて悪いね。じゃあ」
「お、おう。じゃあな」
私の返事を聞くや否や今井はすぐに帰って行った。
まあ……あとはコピーしてクラスごとに分けるだけだし、人手が足りてないわけでもないから別にいいけど。にしても用事があったのか。なのに残らせちゃって、悪いことしたな……。
「(……いや、別に悪いとか思わなくていいだろ)」
真面目な部分出てくるな。
「それじゃ、俺も
「お前は残れ。どうせ用事ないんだろ」
「……チッ」
瀬戸は小さく舌打ちするとめんどくさそうな顔をしながらため息を吐いた。
なに自分も帰ろうとしてんだ。用事がないなら残って手伝え。生徒会に入ったんだ、楽しようと思うなよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます