第7話 生徒会、始動
「……は、?」
「そもそも所有物扱い自体嫌いだしムカつくが。けど生徒会に入ることがそれを意味するのなら、仕方なく従ってやる。まあ、お前の望む形では従わないけどな」
瀬戸内は話し終えるとそのまま生徒会室を出て行ってしまった。そして、それと入れ替わるように今井が入って来た。
「今、瀬戸内とすれちがったんだけど……「これからよろしく」なんて言われたよ。生徒会に勧誘したんだね」
「…………」
「ん?どうしたの?」
“俺がお前のモノになるんじゃない、お前が俺のモノになるんだ”
「…………ふっ、あはは!」
瀬戸内雪という人間は、下に見られたり他人に操られることを嫌う。そのことは充分に理解していたし、分かったうえで『私の
「それがムカつくからって……ふふ」
手の甲に書かれた文字を見て思わず笑みが零れる。
『瀬戸内雪』
「自分の物には名前を書いとけ……ってか」
私には興味あるし復讐に手を貸すのも楽しそうだが、駒として扱われるのは不満。だから「言いなりにはならない」と抵抗をしてやろうと思った。きっとそういうことなのだろう。
瀬戸内雪……思った以上に面白い人間だ。多少文句を言われるとは思っていたが、まさかこんな形で返されるとは。私の予想の斜め上を来たな。
「嬉しそうだね」
「ああ。瀬戸内雪……あいつは想像以上に傲慢でエゴの塊を抱えたやつだよ」
あいつならきっと、罪悪感なんて抱えずに人を貶めてしまえるだろう。自分の手を汚さず徹底的に苦しめる方法を考えて……それをあの仏頂面で実行してしまえるだろう。ああ、容易に想像できる。
今井や瀬戸内のように、「面白いから」って理由で人を傷付けられる人間のほうが楽に生きられるんだろうな。……羨ましいよ、本当。
「それじゃ、本格的に生徒会の活動を始めるか」
「そうだね。橘が生徒会長だし、俺が副会長でいい?」
「別にいいぞ。瀬戸内には書記か会計をやってもらうから」
「あれ、それ瀬戸内に言った?」
「言ってない。けど別にいいだろ」
「え~?瀬戸内のことだから「そんな地味な役職かよ」って拗ねると思うけど」
「めんどくせーな……じゃあ、あいつが副会長をやりたいって言ったらそっちで話し合っといてくれ」
そんなの私の知ったことじゃないし、どっちが副会長だろうと計画には何の支障もないから勝手にやっててほしい。
そう、役職は重要じゃない。私が生徒会長であること以外気に掛ける必要のない些細なことだ。重要なのはただ一つ……そいつの人間性だけ。復讐なんて生産性のないことを嬉々としてやってくれるような、そんな人間。
「……生産性のない、ね」
自分で言って苦笑いを零してしまう。今更何を。「復讐は何も生まない」だなんて当たり前のことを理解していて、それでもなお復讐したかったんだろ。
復讐したところで充の受けた苦しみや傷が消えるわけじゃないし、巻き込んだ人間を不幸のどん底に突き落としてしまうだろう。そして復讐が終わればきっと私は罪悪感と虚無感を抱えて生きることになる。復讐なんて、誰も幸せにならない行為。
……そんなこと分かりきってるよ、うるせーな。『
「……篠崎?どうしたの?」
今井が私の肩に手を置いた瞬間、その手を軽くはたいた。
「その名前で呼ぶな。次「篠崎」って呼んだら殺す」
「……はいはい。橘ならやりかねないからやめておくよ」
今井は肩をすくめ、そのまま鞄を持って生徒会室を出て行った。
……今は『篠崎』なんて名前は要らない。その名前は私を縛る枷でしかないから。私は『橘美琴』。他人が苦しんでいるのを見て楽しむ、最低最悪のクズだ。そういう人間にならなければならない。
「…………帰るか」
家に帰ったらご飯を食べてさっさと寝てしまおう。そうしたらこの憂鬱な気持ちも消えるはず。ため息を吐きながら鞄を持って扉を閉めた。
廊下を歩いているとスマホがピコンと鳴って、一体誰からだろうとトークアプリを開くと。
「……え、瀬戸内?」
そこには瀬戸内の名前と、「よろしく」という短い文によく分からない犬のスタンプが添えられていた。
私、瀬戸内に連絡先教えたっけ……?いや、瀬戸内のことを知ったのは今日だし、あいつは話し終えてすぐに生徒会室を出て行ったはずだ。連絡先を交換した記憶もなければそんな時間もなかった。ならどうして?
そこまで考えて、そういえば今井には教えていたなと朝のことを思い出した。瀬戸内に会いに行く前に交換したんだっけ。……ああ、完全に思い出した。「連絡先を知らないと不便」だとかなんだとか言われて面倒だったから適当に了承したんだった。なら瀬戸内は今井に教えてもらったのかもしれない。というかそれしかないな。
「「ああ、よろしく。」……と」
返信してから、はたと気付く。
別にどうでもいいことだが……瀬戸内って名前長いな。言うのも文字にするのも微妙にめんどくさい長さ。だからといって下の名前で呼びたくはない。好意を持ってるだとか媚びてるだとか不快な勘違いをされたら困る。瀬戸内はそんな勘違いしないだろうが、他の生徒がどう思うかは分からない。
「うーん……あ、そうだ」
散々悩んだ末、「瀬戸内じゃ長いから、これから瀬戸って呼んでいい?」と送ることにした。瀬戸内の性格上、断られるかもしれないが……まあ、言うだけならタダだし。
「……うわ、返信早っ」
すぐに既読が付いて秒で返信が返ってくる。流石に早すぎるだろ。暇なのか?
「「別にいいぞ」……って、いいのか」
素っ気ない文と、下に添えられた可愛い猫のスタンプ。ギャップがあまりにもあり過ぎて、瀬戸内の性格が分からなくなってきた。冷めてる……のか?それともこういうふざけるのが好きな性格なのか?わ、分からない……。
「……ま、これから知っていけばいいよな」
駒とは言ったものの。生徒会のメンバーで、私の復讐に手を貸してくれる仲間だ。多少深く知ろうとしてもバチは当たらないだろう。私が復讐を終えるまで……いや、復讐を始めるまでまだ2年もある。その2年の間にゆっくり知っていけばいい。
「…………2年、か」
壁にかけてあったカレンダーを見つめる。
2年。2年もの間、いじめっ子達は何の罰も受けずのうのうと生きていくのか。あいつらは今、何を思ってるんだろう。真琴のことを馬鹿にして笑いものにしてるのだろうか。新しいターゲットを見つけていじめているのだろうか。……それとも……真琴のことすら、どうでもいい存在として忘れているのだろうか。
__________そんなこと、絶対に許さない。
真琴が受けた苦しみを、深い深い傷を、忘れる?どうでもいいこととして扱う?そんなこと、許されるはずがない。いや、忘れていなかったとしてもそんなのはどうだっていい。罰を受けていないこと……それが問題なんだから。
お前らが罪を認めようと後悔しようと私は絶対にこの復讐を辞めない。もし地面に頭を擦り付けて泣いて謝罪の言葉を述べたとしてもお前らの人生をめちゃくちゃにしてやる。
「待ってろ……お前らがこの高校に入ったら、死にたくなるくらいの地獄を見せてやるからな」
私自身が罪に問われて裁かれることになったとしても、この復讐だけは遂げてみせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます