第6話 話し合い

「あなたには聞きたいことがいくつかある。全部正直に答えてくれるかな?フィル」

―――――――――――――――――――――

精神世界にて―――――――――――――――

戦いが終わって全員集合した後、話し合いを始めようとしたのだが、

「別に現実世界でも私と話すことはできるわよ」

「へ?」

フィルの思わぬ言葉に変な声を出してしまう。

「私とボイドは深いところで繋がってるの」

深いところ…!?とラブが驚き慌てる。

「もちろん精神世界での話よ、あなたが考えてるような変なことじゃないわ。安心していいわよ」

「そ、そう…」

「変なことってなんだ?」

ボイドがそう聞くとその場が凍りつく。ラブはみるみる顔が赤くなっていき、テルや先生は目を合わせてくれない。というよりかは笑いをこらえてる感じがする。

「あら知らない?一般的に深いところで繋がってるというとね、その人のことが好きってことよ。でラブちゃんはあなたとそうなり――」

「ワァーーーーわぁーーーー!!」

ラブがいきなり大声を出してフィルの説明を妨げようとする。そしてフィルはそれをからかうような笑み浮かべて見ている。

(どうやら隠したかったらいいけど流石に分かる)

つまりフィルはボイドと深いところで繋がるような関係になりたいらしい。

(それに対する答えは一つだけだ)

ゆっくりとラブのそばに歩いて行く。ラブは慌てふためている。

「ラブ」

ビクリと跳びはねるように反応し振り返る。その顔はまだ赤いままだ。

「俺もラブのことが好きだよ」

「ッ!!?」

ラブの目が潤んでいく。そしてその時、偶然にもテル・先生・フィルの思考が一瞬一致した。

(((言ったーーーーーーーーーーーーーー!!!)))

(ヤバイ、私ついに孫抱ける?!)

(校長、気が早いです!まずは結婚式でしょう!)

(どっちも気が早いわ!!)

そんなことを小声で話している。テルと先生の仲ならまだしも、さっきまで戦い合っていたフィルとも話している。

「これからももっと仲良くしていこう、として」

「へ?」

再びその場が凍りつく。

「いや〜、まさかそんなに俺のことを友達だと思ってくれてるなんて、恥ずかしいけど嬉しいよ」

ラブが俯いて何かブツブツと呟いている。

「ん?どうした?」

それを見ていたテルは先生に命令する。

「先生、GO」

それを聞くと先生はボイドに向かって魔法を放つ。

「えっ、ちょっ…ま――何で?」

あくまで威力は低いものだが攻撃には何故か少し殺意がこもっていた。

そしてテルはラブの肩に手を置く。

「その…なんかゴメンな……あんな風に育てた覚えは無いんだけど……」

「………いえ、大丈夫です…」

そう言うラブの頬には一筋の涙がこぼれていた。


「それで私と話がしたかったんだっけ?」

「ええ、あまり長くは話せないみたいだけどね」

「なんで?」

まさかまた戦い始めるのかと思い二人を止めるべく警戒する。

「別に警戒しなくていいわよ、もう一回戦う訳じゃない。ただボイドの精神世界にもうあまり長くいれないってだけ」

「ボイドの世界は少し特殊だからねー」

フィルが納得するように言う。

そんなことを言われても普通の精神世界なんて知らないし、自分の世界なのでどうあろうと勝手だろうと思う。

「では一回元の世界に戻ってまた後日――」

「だから現実世界でも私と話せるわよ」

「そういえばそんなこと言ってたな、何か途中で話逸れたけど」

「ボイドが原因だけどね」

テルとフィルが呆れたように言う。しかしボイドは何故先生から攻撃をくらったのか分かってないので、この言葉の意味も理解してない。

「確かに俺は外でもフィルと話せるから俺がフィルの言葉をみんなに言えばいいのか」

「それでもいいけど、それじゃめんどくさいでしょ?」

「じゃあどうするんだよ?」

「私とボイドが替わればいい」

「…なるほど」

テルと先生は納得したように頷くがボイドとラブは意味がわからず首を傾げる。

「二重人格の人たちは何で二重人格だと気づくと思う?」

「それは…なるほど、そういことか」

いつ気づくか、それは人によって異なるだろうが大抵はもう一つの人格が出てきたとき、つまり自分ではない存在が自分の体を操ってるときだ。

「けど可能なのか?」

「可能よ、何回かやってみたし」

「いつの間にやってたんだよ…」

「秘密」

不敵な笑みを浮かべながら言う。

―――――――――――――――――――――

「じゃあ質問を開始する」

「いいわよ」

ボイドの見た目なのにまとっている雰囲気や口調がボイドではない、フィルだと分かる。

テルは質問を始める。

「まず一つ目、いつからボイドの中にいる?」

「秘密〜」

「最初っからか。でもこの状況でも同じこと言えるかな?三対一よ」

「別に闘ってもいいけどこの体はボイドよ。肉体ボイドが傷つくだけで私は傷つかないわ」

それを言われるともう何も言えない。精神攻撃がないわけではないが、使おうとすればバレてボイドを人質にとられるだろう。

「分かったわ。じゃあ次の質問」

ため息をつきながらテルは続ける。

「あなた、私のことを知ってる?」

(…?どういう意味かしら?)

フィルは質問の意味が分からず困惑する。この場合の知ってるは、名前を聞いたことがあるや噂を知っているということだろうか。

(まぁボイドを通して見てきたし、あれでも読んだからある程度は知ってるんだけど)

「そうね、私が知っている情報では親バカで家事は全くできない。毎日一緒に暮らしているボイドに世話になってる」

テルの様子を窺うが一切表情を変えずにいる。

「そして我流剣術〔四神ししん〕の使い手で30年前の大戦では圧倒的な力を見せつけ、騎士団団長に就任。『神獣の英雄』と呼ばれている」

30年前の大戦とは僅か3日で終わった戦争で、

当時シークと対立していた唯一の反勢力があった。

長い間シークが追っていたが、30年前のある日国1つが丸ごと消える事件が起きた。

シークはそれをその反勢力の仕業だと考え戦争の準備を始め、終えたのと同時に反勢力が攻撃を仕掛けてきた。

その後僅か3日でシーク側の勝利で戦争が終結する。その際に反勢力は全員死亡、滅亡した。

組織名は最後まで不明だったらしい。

「『神獣の英雄』、有名ですよね。その…色んな意味で」

ラブがそう言い、ボイドは少し疑問に思う。

(あのおばさんが…?)

家ではろくに家事ができず、ボイドがほとんど家のことをしているあのテルが本当にそんな英雄なのか?

「色んな意味でって、どういう意味……?」

テルが微笑みながら聞く。だがその微笑みからは少し、いや結構な圧を感じる。

「えっと、その――」

「あの大戦で活躍し、英雄の名を貰ったにもかかわらずシーク様の直属部下、幹部にならなかったおと――いえ、女だと」

「ねぇ、いま男って言いかけたでしょ」

ラブの代わりに先生が話し出す。

「それと――」

「おい。無視するな」

「普段は気品を感じる素敵な女性なのに、決闘や実戦になるとまるで男みたいに豹変する男だと」

「おう、とうとう言い直そうともしないよ。喧嘩売ってるのか?買うぞ、コラ」

遠慮しときますと先生が言った後ラブがおそる恐る付け加える。

「あと、年下の男の子が大好きな人と…」

その場が一気に静まり返る。

先生は笑うのを必死にこらえ、ラブは(やばい、何故言った私!!)と反省しながら危機感を抱き、ボイドもといフィルはこらえもせず笑っている。

「ちなみに、それはどこまで拡がっているのかな…?」

ゆったりとした、しかし怒りを感じさせる口調で聞く。

「た、多分学園内では知らない人はいないかなぁ〜、と」

(あぁーこれはヤバイな)

「あはは!やばいって何が?フフ」

笑いながらフィルは精神内でボイドに聞く。

(とりあえず、俺と変わってくれ)

「?分かったわ」

ボイドはフィルと入れ替わるとすぐに先生に声をかける。

「先生協力して欲しいことがあるんですけど」

「何ですか?」

「用意してほしいものがあるんですけど――」

その後しばらく沈黙の時間が続く。理由は言わずもがな、テルが何も喋らないでずっとうつむいている。

(先生まだですか?)

(ちょっと待ってください。思ったより結界が強くて…)

小声で話す先生とボイド。

(よし、開いた)

そう言うと先生の手元に何かが現れる。

ラブが何かと思い見てみるとそれは――

「お酒?」

そう、見るからに酒、日本酒である。それに何の意味があるのかと聞こうとすると、先生が無言でテルにそれを差し出す。

それを見るとテルは瓶の蓋を開けるのではなく、手刀で酒が入っていない上の部分を切る。

そしてそのままコップを用意する訳でもなく一升瓶まるごと飲み干したと思ったら机に突っ伏した。

「ラブ、防御系の技で自分を覆って」

そう言いながらとボイドはどこからか刀を取り出し抜く。

「できれば全力で」

言い終えると同時にものすごい圧が部屋を満たす。殺気ではないがまともに当てられたら普通の人は気絶するレベルである。

『氷魔法レベル4〈アイスウォール〉』

氷が創り出され、箱のような形になってラブを覆う。

「先生、手筈通りに」

「いくつ掛けて欲しいですか?」

「5で」

先生が指を鳴らす。

『合成魔法〈ブースト〉』×5

先生がボイドに魔法を掛け終わるとほぼ同時に、さっきまで部屋を満たしていた圧が消える。そしてテルの姿が突然無くなる。

気がつけばボイドに拳がとんでくる。避けたと思ったらすぐさま次の攻撃がとんでくる。

そんな猛攻を避けながらボイドは数える。

(6…7…)

テルの攻撃が正確さを帯びていく。

(9…10)

一瞬テルの動きが止まったと思いきや、糸が切れた人形のように突然床に突っ伏す。

そこでひと息つきながらボイドは周囲を見回す。

「よし、問題なし」

「いやどこが?!」

ラブが魔法を解きながらつっこむ。

(どこがと言われても…)

再び周囲を見回す。戦闘の際に大切な書類や道具などは破壊しないように避けたし、ラブ達に攻撃がいかないよう自分一人に攻撃を集中させた。

「やっぱ、問題無くない?」

「ええ、問題は無いです」

「先生まで!?」

「逆にどこに問題があるんですか?」

二人が真顔で尋ねてくるので、ラブは自分がおかしいのかと思い始めたが、ボイドとフィルが入れ替わり「どっからどう見てもおかしいわよ…」とツッコむ。

「事情を知らないラブからしたら、急に戦闘になったんだから怖いでしょ…」

そう言われようやく気づいたのか先生が説明する。

「テルは酒に弱いんですよ、酒好きなのに。一升瓶をイッキ飲みするだけで酔ってしまう程に」

それは普通なのでは、と思ったが口には出さないでおく。

「で、酔って10秒ぐらいすると寝るんですよ。こんな風に」

「はぁ、でもなんで飲ませたんですか?」

「テルはストレスにも弱いんですよ。まぁ、これに関しては彼女だけの話ではないんですが…そんな訳である程度のところでガス抜きさせないと暴走してしまうんです」

「でも、暴れてましたよね?」

「あれは酔ってただけです。酔うと見境無いので」

「こわ…」

思わず本音がもれてしまう。そんな思いも知らずテルは気持ち良さそうに寝ている。

「これじゃあ、話し合いは無理だな」

いつの間にか替わっていたボイドが話し出す。

「話し合いはまた後日ってことでいいですかね?」

「それがいいでしょう。この脳筋もしばらく起きなさそうですし」

じゃあ解散、とボイドが言いテルを背負おうとする。

「手伝いましょうか?」

「いや、いくら先生でもそこまでは…」

いくら、優秀な魔法使いとはいえ女性にこんな肉体労働を任せる気にはならない。

「ここから家も近いですし問題無いです」

「そうですか、ではまた」

そう言いラブにも挨拶をすると先生は部屋から出る。

「じゃあ、ラブもまた」

「うん、またね」

そう言うとボイドは家に、ラブは寮に向かって帰って行った。


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