第5話 即戦闘

 そこには、テルとフィルが互いに対立している姿が見えた。

(何が理由でこうなったかは分からないがとりあえず止めないと…!)

見たところ二人は正反対の戦い方らしい。テルは双刀メインで戦う、別に魔法は使えるが中、遠距離の魔法は苦手な上威力が出ないらしい。だから彼女が使う魔法は身体強化、攻撃に火や雷をのせる属性付与などでほとんど物理攻撃が主体のものになっている。なので物理が効かない相手、ゴーストなどには苦戦を強いられる。

 フィルの戦い方は見たところ、魔法しか使わないようだ。といっても使ってる魔法は初級ではなく中級、もしくは上級レベルで一撃でまともにくらえばただではすまない。

 そう考えながらボイドは二人から少し離れたところにいるラブと先生の側に駆けつけた。

「無事でしたか」

「ボイド君、大丈夫だった?」

ボイドに気づくとすぐさま二人がそう言った。

「まぁ、ここ俺の中なんで……それよりもなんであの二人が戦ってるんだ?」

「実は――」

ラブがボイドの質問に答える。

―――――――――――――――――――

 ラブ達がボイドの精神世界に入ってすぐのこと、

テルが真っ先に違和感を覚えたのはこの空間のこと。それは、同伴した先生も同じだった。

((なんだ、この精神世界は……!?普通の精神世界じゃない!!))

 普通の精神世界は、個人差があれど、まず暗闇というのはありえない。明るかったり、暗かったりはあれど全くの闇は前例がない。

それにボイドの精神世界には全くものがない。人によって違うが普通は何かしらの物がある。それが家だったり、森だったり、学園だったりするが、その人が信頼してたり心の支えだったりするものが存在しているが、ここには一切のものが存在しない。それが意味することは……

「あら、侵入者かしら」

 突然後ろから声をかけられ、三人とも驚いて振り向く。そこには一人の少女がゆっくりとこちらに近づく姿があった。

「それともボイドの知り合い?」

「そうね」

その少女の質問にテルが答える。

「とりあえず自己紹介でもしようか?」

優しい口調で尋ねるがその顔はとても優しいとは言えず、警戒しているのがよく分かった。(ちなみにラブはこれを見てちびりかけた。まぁ、精神体なのでちびることはなかったが。)

「いや、その必要はないよ。もう全部読んだから」

「……?どういうこと」

「つまり、あなたは私のことを快く思っていないということも知ってるということよ」

「…そうか。なら話は早そうだな!!」

そう言うなりテルはその少女に襲いかかる。少女はそれを避け困ったような顔をする。テルはそれを気にする様子は無くそのまま攻撃を続ける。

(ボイドの知り合いだから手加減しようかと思ったけど無理っぽいな)

少し攻防を続けて思う。今までの攻撃は本気ではないがそこそこ力を込めた、テルのそこそこの攻撃は戦闘に特化している騎士団の団員でもそう簡単には避けられないし、もろに攻撃を食らったらしばらくは再起不能になる。

(少なくても回避技術はボイドと同等、いやあれが無い分こちらのほうが上か…)

ただフィルは防戦一方で攻撃する気配が一向にない。

(攻撃しなくても大丈夫だと思ってるのか、あるいは攻撃できない理由でもあるのか)

そう考えテルは舐められたものだなと思う。攻撃しなくても問題ない、つまり下に見られてるということ。そう思われているというだけで腹が立つ。

「召喚魔法・精霊武具 双刀『グラトニー・ラスト』!!」

テルはそう唱えると空に手を掲げる、すると手のひらに光の粒子が集まり剣の形を成していく。やがてテルの手には黒の剣が二つ、握りしめられていた。

それを目にするとフィルの表情が変わる。今まではどこか困ったような表情をしていたが険しい顔になる。

「その表情これがどんなものか分かっている様だな」

フィルは何も答えない、だがその表情が全てを物語っている。

「じゃあ、行くぞ!!」

言うと同時にテルはフィルめがけて跳ぶ。

『風魔法レベル5〈サイクロンウォール〉』

それに対しフィルは自分を中心とした半円状の中級魔法の風の防壁を張る。

テルの黒刀と風の防壁がぶつかり火花を散らす。最初はフィルの風の防壁が優勢だったが、テルがもう一方の黒刀でも斬り始めると一気に風の防壁が切れる。

二撃目を与えるために振りかぶったがそこでフィルがいないことに気がつく。どこに行ったと思った直後、背後から大量の魔力の流れを感じ振り返る。そこには両手にそれぞれ別々の魔法陣を展開しているフィルの姿があった。

『火魔法レベル4〈フレイムランス〉』

『風魔法レベル5〈ウィンドカッター〉』

――連鎖チェイン――

火焔かえん魔法〈〈火焔斬波かえんざんは〉〉』

大量の火のカマイタチがテルに向かって飛んでいく。

(流石にこれは――)

そのままテルに大量の攻撃が直撃、爆発する。大量の煙が舞うなか、フィルは探知系魔法を使いテルの魔力を探す。

(煙の中に反応は無い…あの攻撃でダメージを負い現実世界に戻ったか)

そう思い、ゆっくりと呼吸をする。そして残りの二人の方へ向かおうとしたとき、

「どこ見てるの?」

「――っ!!?」

後ろから声がする。驚いて振り返るとテルが刀を振り下ろしてる姿が目に入った。

後ろへ跳び回避しようとしたが、避けきれず攻撃を喰らう。

「どうやって…あの攻撃から…?!」

よく見るとテルは傷一つ付いていない。あの攻撃を全部避けたのだろうか、だけど探知魔法を使ったとき魔力反応は無かった。そう考えていると

「私のことは知ってるんじゃないのか?てっきり理由も分かってると思ってたけど」

「まぁいい、教えてあげるよ。別に私自身の能力じゃない。この黒刀の能力だ」

そう言って黒刀の一本を見せる。

「精霊武具というのはその名の通り精霊が宿っている。そしてその精霊と契約できれば、その精霊の能力を使える」

「この双刀は本来は別々のものでな、違う能力を持っている。そして攻撃された際に使ったのはこっち『ラスト』だ」

「ラストって、まさか」

「そう、色欲だ。能力は相手に幻覚を見せて惑わす。これを使えば敵の人数や能力、ホクロの数などの機密情報を喋らせることもできる」

最後の一つはどうなんだと思いつつ話を聞く。

「つまり、お前が私に向けて攻撃を放とうと考えてたときにはもう幻術にかかってた。そしてあらぬ方向を向いて攻撃を放ったという訳だ」

「煙の中だけじゃなく、全体に探知魔法をかけてたら気づけてたのかもしれなかったのに」

「そうね…でもこれには気づかなかった?」

フィルがそう言うと、いきなりフィルとテルの間で爆発が起きる。テルが驚きよろけるとさらに爆発する。

「これは…」

『火魔法レベル2〈チェイン・ボム〉』

あらかじめ数箇所に魔法陣を展開しといて、何処か一箇所が爆発したら他の魔法陣からも爆発が起きる魔法でレベルは初級だが使いやすいので重宝されてる。

(だが、これはあまりにも違う!)

本来の〈チェイン・ボム〉は威力が低い。そのためこの魔法は陽動や、目くらまし等に使われるのだが、フィルの〈チェイン・ボム〉は威力が大きい。

(威力なら中級レベルだぞ!込める魔力量で効果が変化するのは知られているが、ここまでとは)

この魔法の魔法陣は基本的に消えて見えなくなっていて爆発する瞬間だけ魔法陣が浮かび上がる。

(浮かび上がるぶん、まだ避けられるが…)

普通は浮かび上がったらもう手遅れでそのまま爆破に巻き込まれるのだが、テルの身体能力が高いのでその一瞬で回避ができる。

「隙だらけよ!!」

『氷魔法レベル7〈氷我空間ひょうがくうかん〉』

フィルから広範囲に渡って冷気が起こる。

『氷魔法レベル3〈アイスバレット――

氷の弾丸が飛んでくる、そう思いテルはまた回避の行動をとる。〈アイスバレット〉はとても威力が高く、盾も軽く貫通するほどだがテルのスピードなら回避できる。

――ガトリング〉』

「っ!?」

無数の氷弾がテルに向かって飛んでいく。流石に避けきれずいくつかテルの肌を掠める。

「何だそれ、見たことないぞ?!」

本来の〈アイスバレッド〉は最大でも五発程度の氷弾を作り打つのだが、明らかにその十倍は軽くある。

(同時に複数の術式を展開して放つことは可能だが魔法陣は一つしかなかった。つまり私の知らない新しい魔法ということか?)

そんなことを考えているとまた氷弾が飛んでくる。

「防御はあんまり得意じゃないんだよ!」

そう言いながら刀を構える。

〔我流剣術・二刀流〈玄武げんぶ亀甲斬きっこうぎり〉〕

向かってくる無数の氷弾すべて双刀で叩き切る。

「嘘でしょ…!?」

フィルの攻撃が止まるとすかさずテルは間合いを詰める。

(速――)

〔我流剣術・二刀流〈白虎びゃっこ裂爪斬れっそうざん〉〕

左右から虎が爪で引き裂くかのように切る。フィルに直撃したかのように見えたが、切ったはずのフィルの姿がどこにも無い。

直後上から膨大な魔力を感じる。見上げると巨大な魔法陣と手を掲げてるフィルの姿が見えた。

『氷魔法レベル9・極大魔法〈氷牙狂吹雪ひょうがきょうふぶき〉』

巨大な氷の虎が強烈な吹雪をまといながらテルに突進していく。

するとテルは片方の刀を地面に刺し、もう一方の刀を鞘に納めるように構える。

〔我流剣術・一刀流〈青龍せいりゅう龍喰りゅうぐらい〉〕

テルの刀とフィルの魔法が衝突する。最初こそお互いの攻撃はギリギリでせめぎ合っていたが、徐々にテルの方が押されていく。

「―――くっ!!?」

(これはこっちの力も使うべきか…?!)

刀を握っている手に力を込める。

「グラト―――」

〔テル流剣術一刀流〈白虎・白雷纏斬はくらいまといざん〉〕

雷のような斬撃がフィルに向かって飛んでいく。

それに気づきとっさに氷の壁を張るがそれを砕いて行き、なんとかそれを避けて斬撃が飛んでいった方を向くとそこにはボイドがいた。

「二人共、今だ!!」

『火魔法レベル4〈エリアフレイム〉』

『火魔法レベル9・極大魔法〈焔魔王之槍えんまおうのやり〉』

ラブと先生がそれぞれ魔法を放つ。

フィルの足下に魔法陣が浮かび、そこから炎が柱のように出てくる。フィルを避けるように。

先生の方から巨大な魔法陣が展開されそこから炎の巨人が槍を持って出てくる。そしてフィルの魔法めがけて槍を投げる。二つの魔法がぶつかり合い爆発する。

「これでもう強力な氷魔法は使えないぞ。大人しくしろ」

ボイドがフィルを見ながら言う。

「……ボイドがそう言うなら…」

そう言うとフィルはゆっくりとボイドの側に行く。

「最初からボイド君が居ればよかったんじゃ…」

ラブが思わず口に出す。

―――――――――――――――――――

「――で、話し合いを始めたいんだけど…おばさん達大丈夫?」

「えぇ、ちょっと疲れただけよ」

「うん、なんだかひたすら全力疾走したあとみたい」

精神世界から戻ってきて目が覚めた後からテルとラブの様子がおかしい、とても疲れているように見える。どういうことかと思っていると先生が話し出す。

「自分のならともかく、他人の精神世界に侵入するのは相当な疲労が溜まるものです。ましてや戦闘なんてすれば普通の人なら一日は寝込みます」

「その割には先生は元気ですね、極大魔法まで使ったのに」

「慣れてますから」

(…何故慣れてるかはあえて聞かないでおこう)

そもそも何故生徒の誰にも名前を明かさずにいるのか、質問しても一切自分の過去については触れないなど色々と謎が多い。だが授業はとても分かりやすく実力もあるので生徒はもちろん、テルからも信頼されている。

「そんなことより早く話を進めましょう」

「そうね、じゃあボイドよろしくー」

軽いなと思いつつ目を閉じ、一拍おいた後目を開ける。

「それじゃあに聞きたいことは何?」

そう言うボイドの気配はいつもと違う。

「あなたには聞きたいことがいくつかある。全部正直に答えてくれるかな?フィル」

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