第4話 レッツゴー精神世界
「だから、ボイドの中に行くんだって」
二回そう言われてボイドとラブはまたも同じ思考に至った。
((何言ってるんだ、この人))
ボイドの中に行こうとはどういうことなのか、何か別の意味があるのかと思い聞いてみると「えっ、そのままの意味だけど」と返された。結局意味が分からないと思っているのが顔に出ていたのかテルは慌てて説明しだす。
「えっと、要するに精神魔法を使ってみんなでボイドの精神世界に侵入するってこと」
「あぁ成る程」
納得がいった、ボイドの中に入るとは文字通りボイドの中、つまり精神世界に入るということだ。
「でもそんなこと可能なの?てか校長先生って精神魔法使えましたっけ?」
ラブの疑問も当然だ。だが精神魔法の上級の中にそれを可能とするのがある。
(でもおばさんは精神魔法が使えなかったんじゃ……)
そうテルはボイドが知ってる限り精神魔法を一回も使ったことがない。もしかしたら使えるのかもしれないが、もしそうなら絶対精神魔法に対する訓練はテルがやるだろう。そう考えていると、
「いや、私は精神系統の魔法は一切使えない。そもそも精神魔法を使えるのはすごく珍しいからな。だから、別の先生に頼む、ボイドがお世話になってる先生だな」
「確かにあの先生なら出来そうだな」
上級魔法をすぐに発動できる手練れのあの先生なら恐らく他人の精神をつれて対象の精神世界に侵入する魔法を知っているだろう。もし知らなかったとしても多分すぐ習得できる気がする。
「だから今日はここまでかな。今先生に可能か聞いてみるよ」
そう言うとテルは近くにある腕輪のようなものをつけて目をつむる。この腕輪は魔法道具の一種、誰でも初級程度の精神魔法が使えるようになる。そもそも魔法道具とは様々な形や物があり今では日常生活で欠かせないものとなっている。構造自体は単純で魔法道具にしたい物に魔道師が発動したい魔法の術式を書くか彫ることで完成、ちなみに魔道師とは魔法使いの中で魔法道具を作る人たちのことを指す。これだけだと簡単に出来そうに聞こえるが、実際はとても難しい。理由はとても高度な魔力操作が必要になるから。そもそも魔力操作自体が会得するのに時間がかかる、魔力操作とはその名の通り魔力を操作することで魔法を使う際に皆知らず知らずのうちに行っている。単純に魔法を使う場合、例えば火の玉·ファイアーボールを放つ際には魔法を発動する瞬間に体内から魔力を一瞬放出することで標的に魔法を当てる。
これを皆物心がついて魔法が使えるようになってから自然と覚えるが、それは一瞬の放出であってずっと放出し続けるのはとても難しい。魔力は人によって量が決まっている、後から修行などで増やすことは可能だが上限はある。魔力操作は例えるなら蛇口を捻って水を出し続けるようなもので、ここだけ聞くと簡単に思えるがさっき言ったように人の魔力には限度がある。だから魔法をずっと維持し続ける場合は注意が必要で、もし必要最低限を遥かに越える魔力を出し続けたらすぐに魔力が尽きて何も出来なくなってしまう。逆に必要最低限の魔力量を満たさない場合は魔法が発動しない。これがとても難しくこの学園の教員のなかで1/3でも出来る人がいれば良い方である。そして魔道具を作る際には術式を書いてる最中はずっと放出し続けないといけない。
「うん、了解。じゃあよろしく」
通話が終わったらしくテルがゆっくりと目を開ける。
「で、どうだって?」
「うん、先生いわくその魔法は知ってるし使えるらしい。」
「おお、それはよかった。でいつやるんだ」
「明日の放課後空いてる?そこでやろうって話になった」
「問題ない、空いてる」
明日、というよりかは放課後は毎日空いている。恐らく他の生徒だったら友達と遊ぶ予定があったりするのだろうが、ボイドとは無関係なことだ。
「大丈夫?友達と遊ぶ予定とかないの?」
「なんだそれ、煽りとして受け取っていいのか」
唐突に友達との予定は、と聞かれて思わず少し喧嘩腰になってしまう。これがまだ事情をあまり知らない先生に言われたら「あっ、大丈夫です」とか「俺、友達いないんで」とか言える(後者の方を言ったら絶対その場が微妙な感じになる)のだが、テルは全部知ってる上で聞いてきたのだ。もはや煽りにしか聞こえない。
「冗談、冗談。じゃあ、明日OKてことで――」
解散っとテルが言いかけたのを他の声が遮る。
「あの……明日私も付いて行って――」
ラブが顔を赤くしながら意を決したように聞くと
「いいよ」
言いきる前に許可がおりた。まさか許可が出るなんて思わずラブは呆けていると今度こそテルは解散と言い仕事に戻っていった。
―――――――――――――――――――――翌日、放課後にまた校長室の前にボイドとラブは立っていた。そして何故かボイドは見るからに疲れていた。
「ど…どうしたの?」
ラブがおそるおそる聞く。
「んっ?ああ、中々寝つけなくて……」
「どうして?」
「いや、今日色々分かるのかと思うとなかなか…」
「なるほど、確かに自分の中にいきなり知らない人が出てくるとびっくりするよね」
「……」
ボイドは顔をしかめながら頷いた。
(そう、初対面のはずだ……はずなのに…………)
困惑する。今までフィルにあった記憶は無い、それどころか他人と話すのだってテルとラブを除いたらほぼゼロだ。
(自分で言ってて悲しくなってきた……)
クラスどころか学校でさえぼっちなボイド、だから交友関係のある人物は全員覚えている。その中にフィルは入っていなかった。
(初めてのはずなのに……懐かしい感じがする)
もしかしたら前に精神世界で会ったのかもしれないが、覚えが無い。そもそも精神世界とはその人物の世界なので他人がどうこうできるものではない、精神魔法も言ってみれば相手に悪夢を見せたり、幸せな夢を見せるといった表面上の攻撃で精神の深いところに入れるのは最上級魔法だけ。だから、もし精神世界で会っていたら記憶に残るはずだ。
ボイドがそんなことを考えていると中からテルの声が聞こえてきた。
「そんなとこに長くいないで入ってきていいぞ」
どうやら扉の前にいることに気づいてたらしい。許可がおりたので二人は校長室の中に入る、すると中にはもう既に精神魔法の先生がテルの横に立って二人を待っていた。
「時間通りだね、クラスの子たちと遊ばなくていいのかい?」
「……もういい加減泣くぞ」
それを聞くなりテルは笑い出す。
「ははは、まぁ冗談はここまでにして本題に入ろうか」
「あんたが言い出したんだろ」
ボイドが言った事を無視して話を続ける。
「じゃあ、ボイドの精神世界に行こうか」
「いきなりだなぁ……いや、そのために来たんだけどさ」
「おや、なんだ怖いのか?ならお母さんがハグしてやろうか?」
にやつきながら両手を広げそう言ってくる、その顔がもはや煽りにしか思えない。だがここで下手に反応すると、またからかってくるのは明白なのであえて無視する。
「でここでやるのか?」
「ハグを?」
まさかのラブまでからかってきたので思わず慌てて否定してしまう。それを見たテルがまた「ハグしてあげようか?」と聞いてくるので何を言っても駄目だと思い黙り込む。それを見たテルがまた笑い出す、隣でラブも微笑するのを感じた。
「はー、笑った笑った。じゃあ、今度こそ本題に入ろうか」
最初からそうしろと悪態をつきつつテルの話に耳を傾ける。
「これから先生と私、それにラブ君がボイドの精神世界に入る。そんな難しいことは必要無いらしい。ただ問題はボイドの方にある」
「ん、俺?」
まさか自分の方に問題があるとは思わず思わず聞き返してしまう。
「そうだ。これから行くのはボイドの精神世界、つまりボイドの世界だ。そこではボイドの思い通りに何でもできる。だから、もし少しでも心の中が見られたくない、侵入させたくないと思うと私達はボイドの中に入れなくなる。」
「つまり抵抗するなってことか」
「そういうこと」
納得しつつ、少し考える。別にテルに心の中を見られるのはいい、一緒に暮らしてるしお互いの考えてることもある程度分かる。先生も毎日のように精神魔法の練習をしている、精神内に入られたことはないがこの先生は口が硬い。テルが言えば今日のことも秘密にするだろう。
問題はラブだ。できれば入れたくない、今までまともに友達がいたことが無いのでどこまでしていいかが分からないし、唯一の友達に心の中を見られて「何だこいつ、変なこと考えてる。キモ」みたいなこと思われたり言われたりしたら一ヶ月は寝込む自信がある。どうしたものかと考えているとテルがボイドの考えてることに気づいたのか説明してくる。
「別に精神世界だからといって思ってることすべてがバレるわけではないから安心しな」
なら問題はないなと思い頷く。
「じゃあ始めるか」
テルがそう言うと後ろに控えてた先生が頷く。
「テル先生とラブ君は私に触れていてください。ボイド君準備はいいですか?」
無言で頷く。それを見てから先生は術式を展開し唱える。
「精神干渉魔法レベル8」
次の瞬間にはボイドも含め、全員の意識はなくなっていた。
―――――――――――――――――――――
目を開けるとそこはいつも通りの暗闇だった。どこを見渡しても何もない、何も存在しない世界。その中ボイドは三人を探す、精神内に他人を入れるなんて初めてだし(逆に経験あったらおかしいが)、こんな殺風景なところでは目印となるものが無いので精神世界の主であるボイドが探さないとずっと会えないこともあり得る。最悪のケースは三人がいきなりフィルと遭遇、そのままお互いに敵とみなし戦闘。もしこうなったらボイドが仲介する必要が出てくる、正直いって止められる気がしない。
ラブや先生はともかく、テルには絶対にかなわない。
子供の頃から稽古をつけてもらってるので身にしみて分かる、魔法は当然だか剣の腕でも勝てない。ボイドの剣技はテル直伝なのだが到底及ばない、さらに彼女の能力を使われたら勝てる見込みはゼロ。でも弱点も知っているのでなんとかならなくもない。それ以外にも不安の要素がある、それは
(フィルの実力が全く分からないってことなんだよな)
もしかしたら弱いのかもしれないが、レベル7、上級精神魔法の対策を知っているのに弱いなんてことはまずありえない。もし彼女が上級魔法を使えるとしたら、流石にテルも手加減はできない。そうなったら本当に止められる気がしない。そんなことを考えつつ三人を探していたら、音が聞こえた。しかもただの音ではない、爆発音だ。
(考えたくない最悪のパターンだ……)
音がする方へ急ぐ。しばらく走ると四つの人影が見える。二つの人影は、片方がもう一方を守るように立ち、
他の二つの影は互いに向き合っている状態で、すぐに気づく。先生がラブに被害が及ばないように立っている。
(じゃあ、他の二つは…)
まさに考えうる最悪のパターンだった。そこには、テルとフィルが互いに対立している姿が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます