第3話 おばさんに会いに行こう
「おばさんに相談するか」
今のボイドの唯一の家族であり、この学園の校長でもあるテルに話すことにした。
今目の前に無駄にでかい扉がある。一見木製で簡単に壊せそうだが、魔法がかけられていて大砲を使っても傷一つつかないようになっている。何故こんなところにいるかというと、ここが校長室の前だからだ。あれから授業が終わってすぐに校長室に行った、幸いにも魔法実技が本日最後の授業だったのでその後の諸連絡が終わり次第一直線に来れた。ただ一つ不思議な点があるとすれば何故かラブも一緒についてきた事だ。
理由を考えるも全く見当がつかない、ラブは成績優秀なため校長であるテルに呼ばれて作業を手伝うように頼まれることはしばしばあった(なんならそのとき俺も一緒にいた)、だが今日は連絡のときにも特に呼ばれてはなかったし今日別の先生に作業を頼まれていたのだ、立て続けに作業を頼むことはさすがにないだろう。
そう考えると本当に何でボイドについて来たか分からない。
(いっそ聞いてみるか)
このまま黙っていても気まずい雰囲気が流れるだけなので素直に聞くのが理由を知る方法で一番いいだろう。
「なぁ、何でついてくるの?」
「……」
黙秘、何も喋らず目も合わせてくれない。何故だろう
と考えて一つの答えにたどり着く、
「もしかしてお前……」
「……」
「俺と友達やめたいのか」
「いや、何でそういう発想になるの!」
やっとこっちを見て喋ってくれた。そしてこの結論が違うのかと思い、何が理由なんだと思いつつほっとする。何せ、ラブはボイドの唯一の友達だ、その友達が「あなたのこと、嫌いだったのよ」みたいなことを言われたら、学校で本当にぼっちになりラブにも嫌われてたということで軽く一週間は寝込むだろう。
「でも、違うなら何でついてきたんだ。あっ、まさかまたおばさんが何か頼みごとを……」
「違う違う、テル校長は一切関係ないの……」
「えっ、そうなの……」
もう考えられるパターンは全部出しきった、それでも違うとなると何も思いつかない。
「……だったの」
「えっ?」
「心配だったのよ!!」
「心配、俺が?」
返ってきた答えがまさかのもので思わず聞き返してしまう。
(そんな何か心配されるようなことしたっけ)
いくら考えてもラブに心配をかけるようなことをした覚えが全くない、どういうことだと思いつつ考えると
「だって、今日先生から精神魔法かけられた後の様子がいつもと違ったんだもん。意識がなくなる筈なのにどこか意識があるような感じだったし、ぶつぶつ独り言呟いてたし」
なるほど、これで合点がいった。どうやらいつもは精神魔法をかけられたらすぐに意識を失うらしいが、今回は完全には失わなかった。それに何か独り言を呟いてたらしい。恐らくフィルが出てきた影響だろう。
「それに、術を解いたと思ったらずっとどこか変なところチラチラ見てるし。帰りのHR終わったと思ったら何も言わずにすぐ教室出てったから心配でついてきちゃったの」
顔を真っ赤にしながら言っていた。ここまで大切に思われていると嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。
「すまんすまん、でもここまで心配してくれてるのは嬉しいよ」
素直にそう言うと、ラブの顔がもっと赤くなる。
「だっ……だって…私、ボイド君のことが…………」
「やっぱり友達っていいものだな」
そう言うとラブは何故か急に呆れと残念の表情で「うん…そうだね……友達っていいね…………」と返してきた。何故こんな表情になったのかは分からないが、改めて友達のありがたさを感じつつ意気揚々と校長室の扉を開ける。そんなボイドの後ろでラブは小さくため息をつくのだった。
―――――――――――――――――――――
「誰だ?あぁボイドか」
校長室に入るなりそう言ってきたこの女性は現校長でありボイドの保護者でもあるテルである。テルは典型的なお飾りの権力者ではなく、相応の実力を持っている。この職に就く前は騎士団の団長だったらしい、騎士団は完璧なる実力主義の世界で、例え偉くても実力が低ければこき使われる。そんな中で騎士団団長をやっていたのだ、実力ではこの学園の誰も敵わない。実力だけならトップレベルに入るボイドも何回か模擬戦をやったが全く敵わなかった、テルの手の上で転がらされてるような感じだった。
「む、ラブ君も一緒か」
「…は、はい」
テルがラブの存在に気付き声をかける。本人は軽く挨拶をしたつもりだろうが、ラブはめちゃくちゃ緊張している。理由としては、テルが校長であり元騎士団団長というのもあるだろうが大部分は見た目のせいだろう。ボイドは幼い頃から交流があったためそこまで怖く感じないが初見だったら間違いなく怖い。目付きが非常に鋭くテルの周りだけ雰囲気が違う、下手に近づいたら切られそうな剣幕である。長年戦場を生き抜いたせいだろうが、それでもなんとか出来ないのかと前に言ったことがある。なにせ、テルは今はこんな感じだが家だとだらしない。そのときの顔なんて緩みきっていて今の面影はどこにもない、だから家ほどとは言わないがなんとかならないかと思ったのだが、
「いや、キリッとしないと仕事のやる気がなくなる。それに威厳がなくなる。そしてやる気がなくなる」
とのことだ。要するに気を引き締めてないと何もやる気が起きないらしい。ちゃんとした状態でさえ、生徒であるラブやボイドに手伝いを頼むほどだ。気が抜けた状態で学校の仕事をしようとしたら……考えたくもない。
「それでなんのようだ?二人の交際なら私は祝杯をあげるが」
「えっ、あっいや、そそそそそんな、私がボイド君となんて……釣り合わないですよ……」
「確かになラブ君は非常に優秀だ。こんな鈍感男とは釣り合わないか」
「ちちち、違います。その…私が上じゃなくてボイド君の方が実技もすごいですし……」
「じゃあ問題ないな」
「えっ、いやその、は……」
テルの冗談に困惑するラブ。一方のボイドは、
(素が出てきてるじゃねぇーか。なにが威厳がなくなるだ)
と思っていた。このままテルの気が済むまでやらせてもいいが、さっきから視界のはしっこで騒がしいやつがいる。
「――わぁ、おもしろ~い。ラブ、顔真っ赤じゃん。初々しいねぇ~――」
そう、フィルがうるさい。
(てか初々しいとかお前いくつだよ、ばばあか。)
言動がとても見た目にあっていない、実年齢は分からないが見た目からして16かそこら、ボイドたちとおなじくらいに見える。それ以外にも疑問はあるがとりあえずこの状況をどうにかしないと話が始まらない。いまだにテルとラブは話を続けていた。
「そろそろいいかな、俺の用件が永遠に始まらないんだけど」
そう声をかけると何故かラブが固まった、一方のテルはニヤニヤしながらこっちを見てくる。どうやら何かを見ていたようなのでボイドもそれを見るとそこにはアルバムがあり、小さい男の子が写っている写真が大量にあった。ボイドはこの男の子のことをよく知っている。なぜなら、
「なぁおばさん、本人に許可を得ずに勝手にアルバムを他人に見せるのはどうかと思うぞ」
そうこれはボイドのアルバムで、テルが大量に撮ったものである。
「何かまずかったか?」
「いや別にいいんだけどさ……」
「ならいいじゃないか、初めてのボイドの友達だ。色々見せておきたいだろう」
「親バカか、それに困るのは俺じゃなくて見せられたラブの方だろ」
別に過去の写真を見られたこと自体は問題ない、少し恥ずかしいが。ただラブが可哀想なだけである。恐らく興味本位でボイドの昔のこと知りたいとでも言ったのだろう、それが仇になった。何せ、テルは親バカでボイドに友達が出来ないことを気にかけていた。
そんな中、学園で友達が出来たと言ったときは気絶するかと思うぐらいに喜んだ、訳ではなく疑われた。頭の中で架空の友達を作ったと思われ、ちゃんと存在することを確認させてやっと喜ばれる、と思ったが次は騙されてるんじゃないかと思われた。そんなこんなで誤解を解いては新たな誤解が生まれを繰り返すこと30分、ようやくちゃんとした友達が出来たことを理解した。そして、ラブのことを伝えたら何かとラブに構おうとしだした。その結果、ラブに雑用を頼むことになった。何でそうなると思ったがいくらラブの成績がいいとはいえ、校長が誰か一人を贔屓するわけにもいかない。もし贔屓するなら真っ先にボイドのことを気にかけてするだろう。だけどボイドの唯一の友達を構いたいことは変わらない、どうしようがと悩んだ挙げく雑用を頼むことになった。幸いにもラブは成績がいい、それに家が裕福でもないため大変である。そこに目を付けて「雑用を手伝ってくれるならお金のことは私に任せてくれ」と提案しお互いwin-winな関係になった。
「いや、ラブ君の方も結構ノリノリだったぞ」
「えっなんで?」
普通、こういう親バカに捕まったら地獄を見るものなのだがどうやらラブは違ったらしい。
「いや、なんかボイド君の小さい頃がとてもかわいいくて……」
顔を少し赤くしながらそう答える。どうやら本当に苦ではなかったらしい、かわいいと言われたのは少し恥ずかしいが。
「まぁそれはおいといて」
テルが話を終わらせようと喋り出す。元はあんたがアルバム見せたせいだろうが、という視線を投げかけたが見事にスルーされた。
「ボイド、用件はなんだ。まさかお前が何の用もなく学園で私に会いに来るわけないよな」
真剣な表情になって聞いてくる。それを見てボイドは今日あったことを話し出す。精神魔法に対する練習をしていた中精神世界でもう一人の人格にあったこと、どうやら相当前からボイドの中にいたこと、ボイドが知らないような知識があること、そのお陰で魔法の解除が出来たことなど全部話した。それらを聞いてテルは考えるような素振りをして、
「今はもう一人の方は何してるんだ?」
と尋ねてきた。まぁ、当然の質問だろうと思いつつボイドは斜め左上の方を見る。そこにはフィルが浮きながら座っているような体勢でいる、ただよく見れば寝ている、目を開けたまま。そんなボイドの視線に気づいてテルも同じ方向に視線を向けるが何もいない。
「もしかして外に出てるのか」
「あぁ、授業の後からずっと出てる。ちなみに俺以外見えないらしい、フィル本人がそう言ってた」
「そのようだな、少なくても私にはどこにも見えない」
「私も見えない」
「やっぱりか…」
そう思っていたがラブやテルにも見えないとなるとボイドにしか意志疎通が出来なくなる、二人にも見えればもっと簡単に状況を説明できると思ったがどうもそういかない。
「ボイド自身で分離できないの?」
「無理だな、フィルも言ってたが仮にやったとしても分離できずお互いにダメージがいくだけだ」
「そっかぁー」
ラブががっかりしたような素振りをする。こればっかりはどうしようもない、恐らく前例もないことだろうから調べるといってもあまり多くの情報は出てこないだろう。そう思っているとテルがこちらを向いてさっきの言葉を聞いてくる。
「さっき、お互いにダメージを受けるって言ったか」
「ん?そうだけど」
「なるほど……」
なぜかテルの表情はより深刻になる。理由が分からずラブの方も見てみるがラブもよく分かってないらしい、視線に気づいて肩をすくめた。
「おばさん、何か分かったのか」
「……あぁ、あることが一つ」
「まじか、なに?」
「それは……」
ボイドもラブもテルの方を見る。一体何が分かったのか
……その場が静まり返る。
「ボイドがいまだに私のことをお母さんと呼ばないことだ!!」
「………は?」
何をいってるんだこの人……はからずも二人はそう思った。
「いや、分かってるんだ。私とボイドに血の繋がりはない、両親の親友と親友の息子、そういう関係だ。ただそれでも、たとえ両親のことを忘れられなくても、一回ぐらいはさあ~お母さんて呼んでもよくない?」
(まじで何言ってるんだこの人)
だがテルの言いたいことも分からなくはない。確かにボイドはテルのことを母親呼びしていない、理由は本当の両親が関係してるわけではなく単純に恥ずかしいだけだ。
別に嫌いなわけでもないし本当の両親はボイドがものごころついてすぐに死んでしまってあまり覚えていないのでそこまで引きずってはない。ちなみに死因は実験のミスらしい、ボイドの両親は世界でトップレベルの研究者でとても優しい人たちだったとテルがよく言っていた。葬式の際には滅多に表に出てこないシークまで出席したらしい、両親がどれだけすごいのかよく分かった。
「あっもしかしてママの方がいい?」
「いや、どっちでも呼ばねぇから」
そう言うとテルがえぇーと口を尖らせる、一応同じ空間にラブもいるのだが思いっきり素が出ている。この姿を他の生徒が見たら恐らく、いや絶対幻滅するだろう。
「それで結局、フィルのことは何も分からなかったと……」
はぁと小さくため息をつく。するとラブが
「ボイド君、フィルって誰?」
「あれ、言ってなかったけ。例のもう一人だよ」
「もしかして女の子…?」
「えっ、なんで分かるの」
「いや、なんとなく……」
これも女の勘というものだろうか………ちょっと怖い。
「確かにフィルって言ったのか…………?」
テルがそう聞いてきたのでそっちの方を見てみると今までとはうって変わって妙に深刻な顔をしている。その表情からは驚きや、悲しみ、そして何より信じられないといったものが見てとられた。思わずボイドも真剣な表情になり、
「うん、確かにフィルって言ってた」
質問に答える。そうするとテルは小さく「そうか……」とだけ言ってしばらく黙る、何かを考えているのか小声でぶつぶつと呟いている。
「よし、決めた」
「ん、何を?」
急に立ち上がってそう言うテルに驚きつつもそう聞くと
「今度ボイドの中に入ろう」
予想外の回答に思わず「は?」と言ってしまう。だが、テルは気にする様子もなくもう一度言う。
「だから、ボイドの中に行くんだって」
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