第27話 序列一位のアリス(ルートβ)
十二月二十日昼間。
ウィザードが
「ウィズ……血が出ているどうにかしないと」
「大丈夫……マリアの仇がとれたから俺は満足だよ」
「でも目が……目が……」
「これはマリアの仇を取れた
そう
今のままでは確実にジェーンの足手まといだろう。
「ウィザード、これが
「はい、先生。もう読めました。第二のコピーが金庫に入ってます」
ジェーンが金庫を開けるようにホーエンツォレルン司令官に目配せする。
だが、銃声。司令官の執務室に大挙して現れた米海兵がM16自動小銃を発砲した。威嚇射撃だったようで、誰も傷を負っていない。
「お前たち……こいつらを殺せッッ‼ おい、聞こえているのかッッ?」
「…………」
「まさか……能力を使ったのか⁈」
ホーエンツォレルンの言う通りだった。ウィザードは、十名の精神を操り、眠らせたのだ。シュナイダー・レッドストーンとの戦いで己の限界を超克たウィザードは、鼻血すら出さない。
「司令官殿……急がないと、トリガーを引いて、手の一本でももらってしまうことになるが?」
「わ、分かった。もうこれが最後のコピーだ。わ、私をどうするつもりだ」
「殺す……と言いたいところだが……私は弱いものいじめが嫌いなんでね。ヘリまで拉致させてもらおうか」
「先生……C・Jと裏で繋がっていることは
ジェーンの話だと
ウィザードは質問する。
「公安調査庁の岩瀬もグルなんじゃないのか?」
「岩瀬? 誰だそれは?」
「
「……それを話したら……私は殺されてしまう……」
ウィザードは、ホーエンツォレルン司令官の心を読んだ。
《ヴェンに助けを求めなければ……奴なら
ヴェン・ヴァン・ヴィエールと深いつながりを持っているホーエンツォレルンに対してウィザードは、最後の質問をする。
「核攻撃はいつ行われるんだ?」
「ッッ⁈」
ホーエンツォレルンの胸ぐらを掴み、ウィザードは思いっきり殴り飛ばす。そしてベレッタ92ノーペインを向ける。のうのうと執務室で未来を絶望に染めるようなことをしていたと思うと抑えきれない殺意が沸く。ホーエンツォレルンのせいでどれだけの人間が不幸になるのか。
ウィザードはホーエンツォレルンの心を読む。
《十二月三十一日……何故、それを知っている?》
日時が分かるとウィザードは第二のコピーを奪いとった。ホーエンツォレルンは一気に老け込んだように見える。実際のところ典型的な悪の親玉のようなものは存在しないのだろう。
「司令官殿、私たちの盾になってもらおうか」
「ひっひええッッ⁈」
ジェーンがデザートイーグルの銃口を近づけた。
ヘリまでホーエンツォレルンを人質として歩かせていく。
そこに一人の少女が現れる。ウィザードや火花よりももっと年下のように見える。
「こんにちは、ウィザードさん」
「君は誰だ?」
こんなところに現れるのは
「
「序列一位ッッ?!」
ウィザードが驚愕した瞬間、ジェーンがマグナム弾を発射した。だが、アリスから二メートルの距離で弾丸は止まる。遠くを見れば、米海軍の死体の山がうず高く積まれていた。
雷電がバリバリと放出される。それは――序列三位のオルテガの能力のはずだ。ウィザードは、状況が読めなかったが火花と一緒に退避する。
「ふふふっ、冷静なのね。内心では混乱しているのに」
「
「やっぱり、驚いてもらえると楽しいわよね。心を読まれる前に能力を教えるわね。私の能力は
「ッッ⁈」
「まあ、初めて聞くにしては若干レスポンスが悪いわね」
ウィザードもジェーンも手出しができなかった。思考を読まれては、
「ふふふ、困っているのね。でも安心して、あなたたちを殺そうとしているわけじゃないの。これはただの気まぐれな遊びよ。大した意味なんてないの」
ウィザードはオルテガたちの身を案じた。もしかしたら、アリスに殺されたのかもしれない。
「殺してはいないわよ。ただ彼らが集めたコピーを奪っただけ」
「そんなこと信じられるかッッ‼」
「へえ、戦ったことあるんだ? でも、これはいつの記憶かしら」
ウィザードは心を読まれるのがこんなにも不快だとは思わなかった。ざらりと脳内を舐められ尽くすような感覚がした。だが、
「自分が痛いだけだよ。私、痛みとか吐き気とか眩暈とか大好きだから。
「お前の使う能力も限界があるはずだ。人は逆立ちしても神様にはなれない」
「冷静なのね。だからシュナイダー・レッドストーンは負けたんだね。まあ、彼は舐めプし過ぎだったから仕方がないかも」
ここまででほぼ会話だけで、圧倒されている。ウィザードはざらりとした感覚がしながらも相手の心を垣間見ようとした。こちらの手札を見せずにアリスの能力の欠点を見つけようと
「弱点が知りたいの? 教えてあげないけど……知っても無駄よ」
「そこの彼女……火花さんっていうのね。お互い好意を……」
ターンッターンッターンッとベレッタ92ノーペインが怒りの
「ウィザードさん、ゲームをしましょうか?」
「ゲームだと……ふざけているのか?」
「真剣ですよ。私が紫火花さんを
「許さないッッ‼」
ウィザードは発砲。だが、そこにアリスはいない。
背後に回られたと気配で分かる。そして、また気配が消えた。
「捕まえられたら、
「助けて……ウィズッッ‼」
そう言って、瞬間移動を繰り返しながら基地から姿を消した。ウィザードは血のような
だがその時、耳小骨イヤホンが鳴った。
『ザザーッ……ウィザード……ザザザッ……どうせ……もうダメだとか……思っているんでしょう?』
「……その通りだけど?」
『ザザザッ……米軍のリアルタイム衛星動画を使って、アリス・ノア・スカーレットを追っているわ。近くのヘリポートに向かっているみたい』
「フェアリー感謝する。本当にいてくれてありがとう」
『ザザーッ……ウィザード……最後は……あなたが……どうにか……するしかないわよ』
「分かっている。
ウィザードとジェーンはいつの間にか後ろにいた影縫がすぐにヘリの操縦席に乗り込んだ。
また、フェアリーから通信が入る。
『ザザザッ……港区の埠頭に……ザザッ……向かっているみたい』
「タイムリープ前のフェアリーと火花がドンパチやった場所だ」
『今の……ザザッ……フェアリーさんは……ザザッ……そんな野蛮なことしないから……好きになってくれてもいいのよ』
「火花がいなければ、フェアリーと結ばれる未来もあったかもね」
『……ザザザッ……悲しいけど……恋愛はそんなものなのよね』
その後、乗り捨てられたヘリを見つける。ウィザードにフェアリーは十三番倉庫を探すように指示を出した。ウィザードは裏からジェーンは表から中に侵入する。まず目に入ったのは
だが、心を読んだウィザードは、ほぼ全てが一般人相手に有利に立ち回れる程度の
「ウィズ……ウィズ……ウィズ」
「よかった。酷いことはされていないようだね」
火花が倉庫の奥に椅子に座らされて縄で縛られている。常備しているナイフで縄を切り、火花と抱き合う。キスをしようとすると火花は目を閉じる。だが、ウィザードは火花の腹をナイフで刺した。
「ウィズ……なんでこんなことを?」
「
「はあはあ、痛い。痛いわ。痛くてとても気持ちいいわ。騙されなかったご褒美に
「何故、こうもあっさり手を引くんだ?」
「未来予知能力者は世界中にいるもの。C・Jには優秀な能力者はあり余るほどいるわ。まあ、大半がすぐ壊れちゃうけど。じゃあまたね、ウィザードのお兄さん」
アリスが瞬間移動で消えると遅れてジェーンがやって来た。火花も一緒にいる。
ホッと溜息を吐こうとしたら視界が暗転。地面に倒れた感覚がするとウィザードは意識を手離した。
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