第6話 かくして百合カップルが誕生したのであーるっ!
大丈夫。大丈夫。大丈夫、だよね……?
ううん。上手くいくに決まってる。ミミさんが計画してくれたから。私は、ミミさんを信じる。
ガラガラ。
教室の扉が開かれた。
青黒い髪を一本に
そして、足音が、消えた。
目を伏せた彼女は、小さく身を
「ちょっとだけ……久しぶり……ですね……」
遠慮がちな言葉遣いの彼女とは
「私、カミちゃんに会いたかったんですよね」
「私もっ! ……私も、会いたかった。でも……どんな顔をして会えば良いのか、ずっとずっとわからなかったんです……」
「……同感ですね。私、あの一件で、あなたを――カミちゃんを傷つけたんじゃないかって……」
カミちゃん改めカミーアさんは、丸い
その手はスカートへと移り、
「あの日のこと、後悔しているのですか……?」
「後悔なんてしていませんね。私も覚悟を持ってやったことですからね。ただ……」
「ただ……?」
「……ただ、あの後、色々と考えちゃって、カミちゃんを
「クーさん……」
「嬉しい、やっと名前で呼んでくれましたね」
ついさっきまで勉学で使用されていた教室が、百合の花が
私は、とんでもないものを目の当たりにしているらしい……。そのことを意識するだけでも、全身が
これが、本物。本物の、百合――。
二人の距離が自然と近くなる。
物理的にも、心理的にも。
指と指が触れ合って。
指と指が
一度、止まって。
――
私には聞こえる。リップ音も、四人の
二人は、ほどなくして距離を取り、間を取り、
目の前で繰り広げられたものがすべて演技だとしたら、カミーアさんに顔向けできなくなる。でも、その心配はない。言葉も行為も、すべてがクルミさんの意向で、すべてがクルミさんの意思だった。
作戦を練った
しかしながら、私たちは
自然と生まれた
「……私と、付き合ってくれませんかね……」
口を小さく開くカミーアさん。彼女の
カミーアさんが出した答えは、誰もが予想できるものだった。
「はい……お願い、します……」
う、ううっ?! ここに、百合カップルの誕生……! ……ということで、私とミミさんはお
教卓の下からミミさん、掃除用具入れから私が、
「え……? ええぇえええっ!」
案の定、パニックに
ミミさんが教壇から「よっ!」とおりて、カミーアさんのもとに駆け寄った。ミミさんに続くように、真反対にいた私も集合した。
「諸君。カップル成立おめでとうっ! パァンッ! クラッカーないから口クラッカーで許してね? パァンッ!」
「ぜ、全部、全部見ていたのでしょうか……?」
「いやいや、そんなまさか。見てたなんて人聞きが悪いよカミーアちゃん」
「で、ですよね……! 見てないですよね!」
「
「ひぇぇえええっ!」
「
「どっひゃぁあああっ! 消えたい! いますぐ消えたい! どうしよう、どう消えるのが手っ取り早いかな! そうだ、辞書で『消える』の意味を調べて――」
「回りくどいっ! ……ってかさ、別に良いじゃん、むしろ良かったじゃん。正式に付き合えたんだからさ」
「うっ……それは……はい、一緒になれたことは嬉しいです……。でもっ、それとこれと話が違います! ああもうっ、こうなったら、ミミさんを
「うぉっ、それは
ここでようやく発言権を与えられる私。まったく、地獄のようなタイミングだ。
頭のなかで言うべきことを
「えっとですね、つまりですね。カミーアさんにも、百合部に入ってほしいんです」
「百合部って……まだ諦めていなかったのですか……」
「部員は、ミミさん、私、それにクルミさん。この三人です」
「クルミさんって……クーさんもっ?!」
ちらとクルミさんの方に目をやるカミーアさん。すると、クルミさんはにっこり笑って頷いてみせた。可愛い、落ち着く、すんごい可愛い。
カミーアさんは、怖いくらい可愛いクルミさんを見てから、「うーん」と考え込んで、答えを出した。
「ぜひ、私も入りたいです。ただ、以前聞いた活動方針では学校に認めてもらえませんよ」
「その通りですね。それは私たちも痛いほどわかっています。だから、考え直したんです。そしてその結果、百合部という部活動の名称を改めることになりました」
「百合部が、別の名前に?」
「はい。百合部改め、
「……つまり、何をする部活?」
「学校行事とか校内トピックをまとめたり、あるいは地域の
話し始めたときにはもう覚悟は決まっていたのに。カミーアさんが黙ってしまい、そのことをまずいと感じた私は、
カミーアさんが
放たれた窓から、すーっと風が入り込んでくる。普段なら心地良い春風。それも、今日の私には
どうすれば――。
「……素敵。多方面に意味のある、この学校にはない革新的な部活動だと思います」
優しく、
けれど……要するに……?
結論が待てなかった広報部・百合の花は、三人とも身を乗り出す形で、「ということは……?」と声を
そんな私たちに苦笑しながらも、カミーアさんはしっかりと首を縦に振った。
「認めてもらえるよう、学校側にかけあってみます。同じ、広報部・百合の花の部員として」
「良かった……!」「よーしっ!」「わー!」
歓喜というより、
――マナちゃんはマナちゃんだよ。
あのときの言葉……そうだ……そうだったんだ……。
私は桜か、それとも花壇の花か。三人と一つになって、私なりの答えが見つかった。
私は、そのどちらでもないんだ。クルミさんもカミーアさんも……ミミさんも。誰もが
一人じゃ、花になんてなれない。
四人が手を取り合って、ようやくカタチになる。
私たちという
その花は、世界のどこを探したって見つからない――広報部・百合の花だ。
ここから始まる、私たちの物語が。
ここから始まる、広報部・百合の花。
「……見て、綺麗」
ミミさんが指さした外の形式は、美しくて、
今日も今日とて、私たちの住む箱庭は、オレンジに染められていく――。
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