第65話 それぞれの日常
江田島孤児院の朝は早い。
冬場などは、日の出前には素振りが始まる。
今朝も江田島が中庭で素振りを始める。
孤児院の子供たちも道着に袴姿で素振りに参加する。
陽が昇り始める頃には、孤児院に通学してくる子供たちも続々と着替えて素振りに参加してくる。
陽が昇りきると、組み手、乱取り稽古が始まる。
最近は、孤児院周辺にも家が建ち、その周りには畑も開墾されていた。
結果、中庭の畑は芝生になり、朝からの練習場となっている。
ちなみに体育館は、いくつかに仕切られ、教室になっている。
朝の練習が終わり、いつもの心得を唱和する頃、朝ごはんのいい匂いがしてくる。
「ご飯だぁっ!」
子供たちは食堂に駆け出している。
食堂では、絹江たちが食事の準備をしている。
そこには、朝の練習には参加していない、孤児院や通学してきた女の子たちも応援に入っている。
「いただきます。」
「いただきまぁ~すぅ。」
江田島の号令一下、食事を始める子供たち。
給仕を担うのは、絹江とミランダ、パティー、そして娘たち。
食事を終えた女の子たちも率先して応援に入り、順次給仕登板を交代していく。
さて、全員の食事が終わる頃、教師係の祭司たちが孤児院にやってくる。
三々五々に教室に分かれていく子供たち。
そして、今日も授業が、にぎやかな一日が始まるのだった。
◇ ◇ ◇
さて、所変わって、こちらはノイス。
ロイも朝練に余念がない。
そして、ここでも子供たちは楽しげに素振りに参加している。
勿論、素振りに参加できない子もいるが、ここでも、練習後には朝食が振る舞われている。
というわけで、食事の準備や料理の応援に入る子たちが続々と道場隣の食堂に入っていく。
「今朝の稽古はここまでっ!」
すっかり男前になったロイの声に、全員が背筋を伸ばし、礼をする。
「よぉ~~しぃ、てめぇらぁ、飯の時間だぁ!!」
「おぉぉ~~!」
ロイの掛け声を引き金に食堂へなだれ込む子供たち。
そして、その子供たちを迎える、メアリとモリオンたち。
ノイスの道場は教会脇に建っている。
厳密に言えば、道場の隣に教会が建設されたのだった。
そして、神聖マロウ帝国のご好意もあり、道場の隣には学校が建てられ、子供は漏れなくここで勉強するハメになってしまった。
食事を終わり、学校へ向かう子供たち。
「これから…だな。」
「ええ、これからです。」
ロイの横に立つルー。
すっかり女将さんの風格を増し、子供たちからも「かぁ~ちゃん」と慕われている。
そんな二人の目に映る未来の景色はどのようなものだろうか。
◇ ◇ ◇
サイネスでも、丁度朝の稽古が終わった所だ。
道場は未だ出来ていないが、中央広場で行われる青空道場は、この街の風物詩となっている。
中央広場には、見慣れた建物三点セットが整備され、更にはここにも学校と食堂が建設されている。
ちなみに、神聖マロウ帝国は、磁器の支払いが滞ったという建前で、教会を建てたついでに、学校も建てていったのである。
「じゃぁ、僕たちも朝ごはんを頂くとしよう。」
たくましい青年となったマクス。
彼の両脇を固めるのは、師範代となったミックとタケル。
ミックは二刀流、タケルは長刀をそれぞれ身につけた。
サイネスの双璧と言われるまでになったミックとタケル。
その腕前を買われ、騎士団の剣術指南に抜擢され、国内に点在する騎士団を訪問して回っている。
「しかし、お前たちよく帰ってこれたな。
ミック。タケルも。」
「ああ、ここの騎士団の指南依頼があったからね。」
「そうか。」
マクスに答えるタケル。
「ロイ兄ぃから、何か連絡あった?」
「何だい?」
「いやぁ、師範代を立てたから、近々こっちに派遣する旨を聞いていたんだけどね。」
ミックはそう言いながら、お茶を飲み、マクスが腕を組んで考え込む。
食堂に居た子供たちも三々五々、学校に登校していく。
「ミック、タケル。お帰りなさい。」
食堂の給仕にあたっていたミユウが三人のテーブルにやって来る。
「やぁ、ミ~姉ぇ。」
二人の青年が、整った顔立ちの
ミユウの傍には、マクスとの間に授かった娘と息子が母親の手伝いをしている。
久々に集った子供たち。
昔話から、最近の旅興行に至るまで、話はとりとめもなく続き、談笑の華も咲いている。
◇ ◇ ◇
「ただいまぁ。」
「おかえりぃ。
港の方はどうだった?」
ミルが事務所に帰ってくると、ルーシーがソファーでゆったりと迎える。
「んっ!
ルーシーの指示通りやっておいたよ。」
「ありがとっ!」
ミルが封筒をルーシに放り投げる。
それを受け取り、書類の内容を確認するルーシー。
「おっけぇ~。」
「ふぅ。」
上着を机の上に置き、ルーシーの向かいに座るミル。
「で、こっち側の根回しは?」
「バッチリよ。
この書類をたたき台に、契約諸手続きを進めれば完了よ。」
サムアップをするルーシー。
「それにしても、女王様も人使い荒いわよね。」
ミルがソファーの背にもたれかかる。
「視察旅行ってことだから、同行すれば、子供たちの観光旅行。
帰り際には、今回の
ルーシーも、書類を封筒に戻し、机に投げ出す。
「でも、まぁ、大事になる前に布石を打つのは流石よね。」
「ええ、そうね。」
窓の外は、茜色に染まっている。
「そろそろ、あの子たちも帰ってくるわね。」
そう言って、ソファーからスッと立ち上がるルーシーとミル。
丁度そのタイミングで扉が開く。
「ただいまぁ。」
手をつなぎ、声を揃えて、三人の女の子が部屋に入り、扉が閉まる。
Fin
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます