第63話 interlude

「へっ?

 …もうおめでた…

 なんですか?」

 ミユウの質問に絹江が頷き、ミルとルーシーも真っ赤になっている。


 食事を済ませ、食器の片付けをしていたときだった。

 思い余ったミユウが三人を呼び止め、妊娠したいのかを問いただしたところだった。


 予定外の返事に、驚いたり、喜んだりと忙しいミユウ。

 はたと気づき、周りを見回し、或ることに気づくミユウ。


(お母さんと、メアリママ‥。

 肌艶が良いような気がするんだけど…。)

 家族が一同に介して四日。


 自分たちの事で手一杯だったので、母親たちのことまで気にかけていなかったミユウ。

(ひょっとして、お母さんたち、この事解っていて…集まったのかしら。)

 そして、ふふっと笑い出すミユウ。


 その姿を不思議そうに見るルー。

「どうしたの?

 ミ~姉ぇ。」

「え、‥ああ。

 来年の今頃には、私たちにも、弟か妹が産まれそうだって話よ。」

「うええぇぇぇ~~~!」

 ルーが叫んでしまい、周りの親戚が振り返る。


 周りに頭を下げ、ルーの頭を小突くミユウ。

 全員がそれぞれの話に戻ったのを見計らい。

「もう、ルー驚きすぎ。」

「だ、だってぇ、ええぇ~?」

「まぁ、来年になれば解るわよ。

 …お父さんも相当頑張ったみたいだし…。」

 話しながら、ミユウとルーは赤面してしまう。


 ◇ ◇ ◇


 さて、全員が集合して一週間、江田島たちはサイネスまで足を延ばす事とし、クローネたちとともに、ノイスを出発した。


「あなた、気をつけて。」

 幸せそうな笑みを浮かべ江田島を見送るメアリ。

「ああ、後のことは宜しくな。」

「はいっ!」

 馬車は出発した。ルーがメアリの顔を見る。

(やっぱり、おめでた…なのかしら?)

「だと良いんだけど…。」

「何?

 ルー?」

「ううん、何でもない。」

 最後に心の声が漏れ、慌てるルーといつになく充実した顔のメアリが居る。

(お父さん、ご苦労さま。)

 いつまでも馬車を見送る母娘だった。


 ◇ ◇ ◇


 サイネス移動途中の宿場街。

 ほんの数ヶ月前に開店したばかりの宿屋に泊まる江田島一行。

 部屋に案内されると、共同浴場が有ると聞いて、クローネと江田島を部屋に残し、全員がお風呂に行った。


「野宿を考えていたのに、宿場街が出来ているとは、思わなかったよ。」

「ええ、私たちも野宿かなぁっと、思っていたんだけど…。

 助かったんですよ。」

「そうだなぁ…。本当に助かるよ。」

 部屋は、江田島たち親組とミユウ率いる子組に分かれている。

 なお、マユミはお守りも兼ねて子供組に入っている。

「久しぶりですね、あなたと二人になるのは…。」

「そうだなぁ、いつも外野が居たもんなぁ。」

 苦笑いをしながら、頭を下げる江田島と、笑顔で答えるクローネ。


「…距離を取ったら、見えることも有るんですね。」

「そうだな。」

「オキヌも、この気持ち判っていたのかしら。」

「どうだろうな…。

 ただ、死に別れた事になっていたから、喜びも一入ひとしおだったかもしれない。」

「そう…。」

「ああ。」

 二人の間に沈黙が有り、江田島はお茶をすする。


「店の方は順調そうだな。」

「ええ、先日も一人採用したのよ。」

「そうか、繁盛しててなによりだ。」

「孤児院の方はどうなの。」

「絹江に一任してる。

 今じゃ、わしよりも詳しくてな…正直蚊帳の外だよ。」

 笑う江田島の顔には充実感が漂う。

「ミルとルーシーも忙しそうね。」


「そうよっ!

 大変なのよっ!」

「お邪魔してごめんね、クロ姉ぇ。」

 クローネの返事に答えて、ミルとルーシーが部屋に帰ってくる。

「オキヌとパティーはどうしたの?」

「ん、子供たちと露天を見に行ったわよ。」

「そう。」

 クローネもお茶をすする。


「どうよ、ゴンゾー。

 この宿場街。」

「私らで企画したのよ。」

 と胸を張るミルとルーシー。

 ゴンゾーがウィンクすると、クローネもコロコロと笑う。


 宿場街の建設は、道中の旅の安全と、難民受け入れ事業の一環としてスタートした事業だった。

 サイネスを中心に、この辺りの空域を縄張りに定期偵察をしていたミル・ルーシー組ならではの発想で、サイネス・ライン間にも宿場町は建設されている。

 が、こちらは一日旅になることも多く、宿屋よりも、喫茶店や食堂が多くなっている。

 もっとも、物流の多い街道でも有り、最近はラインや、海に向かう人々のベッドタウンに変貌し、街の周辺には田畑の開梱も進んでいる。


「こっちは、向こうほどの物流もなければ、人流もないからねぇ。」

「こっちでも田畑開いて新作物の開発に着手するようだから、観光・避暑地を狙っていくのかもしれないわ。」

 熱弁を振るう、ミルとルーシー。

 その横ではクローネが感心しきりで二人の話を聞いている。

「まぁ、二人共ご苦労さんっ!」

 江田島が、ミルとルーシーの頭をワシワシと撫でる。

「ちょ、ちょっと辞めてよ!」

「髪が乱れるっ!」

 三人がドタバタしているとパティーと絹江も帰ってくる。

「あら、お帰りなさい。」

「ただいまぁ…

 って、クロ姉ぇ、あそこのおバカトリオは何をしてるの?」

 出迎えたクローネに尋ねるパティーと、眉間を抑えている絹江。

「まぁ、ちょっと…ね。」

 気づけば、本格的な取っ組み合いになっている三人。


「これでは…しっとりと甘えられそうに無いですね。」

「そうね。」

「…。」

 絹江に相槌を打つクローネ、閉口するパティーだった。

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